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02.転生して女子になったら、周りが過保護すぎる!?まさか俺、伝説の”愛されヒロイン”!?

 まぁ、よくわかんないけど、とりあえず着替えないと。


 俺はクローゼットを開けた。


 ……さて、異世界の制服ってどんなもんだ?


 そこには、全く同じデザインの灰色の制服が三着並んでいた。たぶん、これがこっちの学校の制服なんだろう。異世界とはいえ、制服のデザインは現実とほとんど変わらないみたいだな。


「……意外と普通だな。」


 もっとこう、フリフリのメイド服っぽい制服とか、魔法学校みたいなローブとか、そういうのを想像してたんだけど……。


 まあ、まだこの世界の設定が全然わかってないしな。ここはRPGの世界なのか?それとも別のジャンル?まったくの未知数だ。


 今わかっているのは――


 俺が3時間以内に”何かしらの能力”を覚醒するってこと、か……。


 その時が来れば、もう少し状況が掴めるかもしれないな。


 とりあえず、制服に着替えよう。俺は一着取り出し、着替えようとした……その瞬間、ハッと気づく。


 今の俺は……女の身体なんだよな?


 ってことは……あれか? 俺、これから“自分の”裸を見ることになるのか!?!?


 あは、あはははは……


 いやいや、落ち着け!冷静になれ!これはもう”自分の身体”なんだし、何も問題ないだろ!そう、これは自然なこと!


 ……とはいえ、心はまだ男なんだぞ!?そんな自分が女子の裸を見るって、これはどういう感情になればいいんだ!?


 ダメだ……考えるな……考えたら負けだ……!!


 深呼吸して気持ちを落ち着けると、意を決してスカートの裾を掴んだ。しかし、どうにも脱ぎ方がぎこちない。


 えーと、ちょ、これ、どうやって脱ぐ?


 このワンピース型のパジャマ、思ってたより脱ぎにくいんだけど!?誰か教えてくれ!?


 なんとか悪戦苦闘しながら脱ぎ終わると、鏡の前には、裸の自分がいた。


「お、おぉ……」


 さっき適当に触った時はあまり意識してなかったけど……こうして鏡で見ると……なんというか……すごい。うん、めちゃくちゃすごい。……このおっぱい。


 と、そこでまたドアの向こうから声がした。


「モモちゃん?早くしてよ!もう待たないからね!」

「わ、わかった! すぐ行く!」


 くそっ、時間がない!とにかく、早く着替えないと!


 慌ててクローゼットを漁り、ブラジャーと靴下をゲット。そして超スピードで制服装備! 準備完了! よし、行くか——


「——って、なんだこれ!?」


 突然、目の前の空間に亀裂が走った。次の瞬間、その裂け目から”誰か”の上半身がひょっこりと顔を出す。


 あまりにも唐突すぎて、思わずバランスを崩し、その場に尻餅をついてしまった。


 そして、裂け目から出てきたのは——


「……アメリィ!?またお前かよ!?はぁ……びっくりした……」

「あはは、ごめーん! 幽鬼さん——じゃなくて!モモちゃん!これ、渡し忘れちゃってましたの!」


 そう言って、アメリィはニコニコしながら一冊の本を俺の前に差し出す。


「はいっ!異世界生活の攻略本で〜す!これがないと大変ですからね!えへへっ」

「攻略本?」

「うん!まあ、正確には設定資料集って感じかな?かなり時間かけて作ったんですよー!これには、モモちゃんのプロフィールや周りの人たちの情報、あとこの世界の設定なんかが全部書いてありますの!」


 そう言いながら、アメリィは胸を張って誇らしげに笑った。


「でもね~実は私はこの仕事に就いたばっかりでさ、しかも、異世界転生者を担当するのは君が初めてなんですよ。だからちょっと緊張しちゃって、うっかり渡し忘れちゃったんですよね、えへへへ……」

「は?」


 異世界転生を管理する役職にも、新人とかあるの!?


 まあ……でも、俺が女になった時点で、これ以上の非常識を気にする気力もない。


「じゃ、とにかくですね!何かあったらこれでコールしてくださいね!」


 そう言って、彼女は俺の目の前にポンッと何かを落とした。


 手に取ってみると……まさかのポケベル!?


「え、古っ!え、マジでこれ?」

「うん、だって使いやすいでしょ?でもね、私もいつでも対応できるわけじゃないですからね、仕事の忙しさ次第ですし、あと他の人がいる時にはコールしても無駄だから気をつけてくださいね。私の存在は、バレちゃダメなやつですから!」

「……いや、それならもっとマシな通信手段用意してよ……」


 俺がツッコむ間もなく、アメリィは手を振りながらキラキラと光の粒になり、あっという間に消えてしまった。


 残されたのは、俺の手の中にある攻略本と、時代遅れ感満載のポケベル。


「……はぁ。」


 とりあえず、考えても仕方ないので荷物に詰め込んで部屋を出ることにした。


 リビングに出ると、ソファに座ってスマホをいじっている二人の少女と目が合う。


「やっと出てきた~」

「早く顔洗ってよ、遅刻しちゃうよ?」

「……あ、うん。」


 俺は適当に返事をしつつ、なるべく自然な動きで洗面所に向かった。


 鏡の前に立ち、歯ブラシをくわえながら、そっとカバンから攻略本を取り出した。


 本をめくると、そこには「この世界は、生まれつき超能力を持つのが当たり前」と書かれていた。


「……は?」


 いやいや、ちょっと待て。さっきアメリィが言ってた“能力が目覚める”って、まさかこの超能力のこと?


 さらにページをめくると、こう続いていた。


「生まれ持った超能力は、戦闘の補助として使えるだけでなく、モンスターを倒して経験値を獲得することで強化が可能。また、後天的に新たな能力を習得することもできる」


 ……いや、ゲームじゃん。


 っていうか、ここまで来るともう「この世界はゲームの世界です!」って言ってるようなもんだろ。


 そう思いながらも、次の一文を読んで、俺の手が止まった。


「ただし、いくら経験を積んでも、それ以上成長できない者もいる!このような者は『アンロック』、つまり『封能者』と呼ばれ、一般人と大差ない存在である」


 ……なるほど、成長限界付きのキャラね。


 ゲームだったら、このタイプはモブの運命まっしぐらだな。


 軽くため息をつきながら、さらにページをめくる。今度は……人物相関図?


「え、これって完全にゲームのキャラ設定じゃん……」


 とはいえ、記載されているのはたった三人だけ。


 椎名モモ、天音ルカ、藤咲アカネ。


 待てよ……ルカとアカネって、さっきリビングにいた二人じゃね?


 設定資料をよく読むと、彼女たちは幼い頃からの幼馴染で、現在は俺と同棲しているらしい。


 そして椎名モモ——つまり、今の俺の身体。


「両親はすでに他界し、天涯孤独の身」


 …………


 ……いや、重すぎるだろ。


 まさか異世界に来ても、こんな境遇のキャラを引くとは……いやまあ、俺も似たようなもんだったけど……


 でも、少なくとも俺には継母がいる……この子は俺よりも惨めだな……


「モモちゃん~まだなの?いい加減急いでよ!」


 突然、リビングから声が飛んできた。


「あー!すぐ行く!」


 やばい、攻略本に集中しすぎた。


 急いでページを閉じ、歯磨きを再開。


 身支度を整えて、バタバタと洗面所から飛び出した。


「よし! 準備オッケー!」

「ほんっと、今日は遅かったねぇ……」


 呆れたように髪をくしゃっと掻きながら俺を見たのは、天音ルカ——青いショートヘアが特徴的な少女だ。


 ということは、ソファで微笑んでいる深紅のロングヘアの少女が、もう一人の幼馴染――藤咲アカネだな。


「まぁ~モモちゃんはきっと疲れてるんじゃない?ちゃんと休めてなかったのかもね~」


 アカネはそう笑いながら、すっと立ち上がり、俺の目の前にやってきた。そして、いきなり手を伸ばして、俺の頭をポンポンと撫でながら――


「もう、髪ボサボサじゃない。ちゃんと整えないとダメだよ~?」


 ……なんだこのお姉さんムーブ。


 声も仕草もまるで世話焼きの姉のように優しい。……けどな、こいつ俺より年下なんだよ。


 いや、まあ俺たち全員16歳だから学年的には同じだけど、誕生日順ではアカネが一番遅いって攻略本に書いてあった。


 ついでに言うと、俺が死んで転生してなかったら、今ごろ32歳なんだが!?


 俺を“お兄さん”って呼ぶべきだよ!“おじさん”って言っちゃダメよ?ガキなんだからね。それに、顔は組織の女連中にもよくイケメンって言われてたんだからよ。


「うんうん、これでよし!今日のモモちゃんもかわいいね~」

「そうそう〜小さい頃から男の子たちにモテモテだったし、私が男だったら間違いなくモモちゃんを独占してるね」

「べ、別にそんなことないでしょ!?」


 ……ちょっと待て。


 こいつ、もしや百合属性持ちなのか? 俺、そっちの趣味ないぞ!?


 えーと……ちょっと待てよ?今の俺、心は男だけど、身体は女だから……将来結婚するなら、相手は男……?


 ……


 いやいやいやいや、それは無理だろ!!!!


「もちろんそんなことあるって~だって、モモちゃんのこの顔……めちゃくちゃ愛でたくなるじゃん?」


 そう言いながら、ルカが突然俺の顔を両手でがっしりホールド。


 そして、そのまま……


 ぐにぐにぐにぐに~~~っ!!!!


「へへへ~モモちゃんほんっとにかわいいなぁ~なんかもう、愛でたい衝動が止まらない~!」

「いひゃいいひゃい!いたひぃ!!!」


 おいこら、ガチで痛ぇよ!!


「はいはいルカちゃん、そろそろやめないと、モモちゃんが泣いちゃうよ?」


 アカネが苦笑しながら止めに入ると、ルカはようやく手を離した。


「ははは、ごめんごめん!でもモモちゃんが可愛すぎて、つい……」

「まったく、いつもその調子なんだから」

「えへへ~」


 ……モモよ、お前どんな友達と付き合ってたんだよ。


「うぅ……顔痛ぇ……」

「はは、ごめんごめん!じゃ、そろそろ行こっか。遅刻はマズいしね!」

「だね~!それと、モモちゃん?」

「えっ? な、なに?」

「学校では、あんまり気軽に男子の誘いとかに乗っちゃダメだよ?まぁ、あたしたちがちゃんと守るから安心してね♪」

「え、えぇ……」


 待て待て待て、俺ってそんなに人気なの!?


 アカネ、まるで「絶対にナンパされる」って確信してる口ぶりだけど!?


「よーし! 出発!!」

「レッツゴ〜」


 ……俺の新しい人生、本当に大丈夫かこれ?

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