01.最強の暗殺者の俺がまさかの女子高生に転生!?
ピピピピ──
「うわっ!?な、なに!?何か鳴ってる!?」
反射的にガバッと起き上がった俺は、周囲の光景を見て思わず固まった。
……え? ここ、どこ?
壁はふんわりしたピンクの壁紙、ベッドの上にはふわふわのクッションと可愛いぬいぐるみたち。視界の端には、ちょこんと置かれたクマの目覚まし時計が、ピピピとけたたましく鳴り響いている。
いやいや、待て待て待て!?何なんだ、この女の子全開の部屋は!?混乱しながらも、まずはクマの目覚ましをバシッと止める。
「落ち着け……俺は確か、任務中に重傷を負って……そのあと、海に……沈んで……」
え?ってことは、誰かに助けられたのか?だが、ここは病院でもなければ、組織の隠れ家でもない。
どんどん膨らむ違和感を振り払おうと、無意識に頬を掻いたその瞬間──
もふっ
──ん?なんか、指先にやたらとサラサラした感触が……?
ま、まさか……と思い、恐る恐る髪を指ですくう。
ずるん……
「えっ!? 俺の髪、めっちゃ長くなってる!?」
いやいやいやいや、待て待て待て!?こんなことがあり得るか!?
それに、なんか肌もツルツルしてるし……え、俺ってこんなにもち肌だったっけ!?
胸の奥でヤバすぎる予感がどんどん膨らんでいく。心臓がドクンドクンと警鐘を鳴らしている。
「……ま、まさかな……」
震える手をゆっくりと胸に伸ばす。そして、そっと押してみる──
むにゅっ
「……っっっ!!!???」
──今、俺の手のひらの下で、明らかに柔らかいものが沈んだんですけど!?!?!?
「お、おっぱい!?ちょ、ちょっと待て!これ、どういうことだ!?俺、男だぞ?!」
慌てて喉に手を当てる。
……喉仏、ない。
「……は?」
ちょっと待て。いやいや、こんなの何かの間違いだろ!?俺は男だったはずだよな!?
ガタガタと震える足で、フラフラしながら部屋の隅に置かれた姿見へ向かう。そして、そっと鏡を覗き込むと──
そこには、めちゃくちゃ可愛い少女が立っていた。
細身の体、白く透き通るような肌、肩に垂れる艶やかな長髪、寝巻きから覗く繊細で小さな鎖骨、潤んだ瞳はまるで夢のような美しさを湛えている。
しかし、その少女の表情は驚き、戸惑い、信じられないという様子でいっぱいだった。
その少女──どうやら、それは俺の姿……
俺、女の子になったのか!?
ははは……まだ夢から覚めてないのかな?あの任務も夢の中の夢だったんだよ、ははは……女の子になっちゃうなんて、そんなバカげたこと、ありえないよね?
そう自分を慰めるようにベッドの方へ後ずさりしたものの、足を滑らせてそのまま床に転んでしまった。
頭の後ろをベッドの縁にぶつけ、痛みが走って思わず歯を食いしばる。
「いたっ!」
な、なんで痛い!?これ、夢じゃない?まさか……本当に女の子になっちゃった?
自分の目を疑うような気持ちで、信じられない思いが胸を締めつける。こんなことありえない……
急いで地面から起き上がり、もう一度鏡の前に立つと、そこに映るのはやっぱり可愛らしい少女の姿だ。
俺は思わず手で自分の顔をガッと掴んだ。
その痛みが脳にビリっと響き、思考が一瞬停止したように感じる。
これ、夢じゃない、全てが現実だ。俺は女の子になってしまったんだ……!
「モモちゃん、早く起きて。学校に行く準備しなきゃだよ?」
突然、ある少女の声とともにドアをノックする音が響いてきた。その瞬間、どうすればいいのか分からなくなり、ぼーっと立ち尽くしてしまった。
「モモちゃん」って誰?まさか、俺のこと?
その時、突然、白い光がキラリと輝き、白いドレスを身に纏い、白い翼を持った少女が天井からゆっくりと降りてきた。
そして、さっきのノックの音はぴたりと止まった。
「あたしは時間を一時停止しました。慌てなくて大丈夫ですよ、幽鬼様。」
少女がゆっくりと目を開け、俺を見つめてきた。
「お前、誰?どうして俺を知ってる?」
「あたしはアメリィ、時空と生命を司る使者ですよ。」
「使者……?」
目を擦りながら、自分が幻覚を見ているのではないかと疑ったが、彼女はまだ目の前に立っていて、その視線は一度も俺から外れることがなかった。
「もう目を擦る必要はありませんよ。今、混乱しているかもしれないと思って、わざわざ説明に来たんです。」
「本当に使者?」
「もちろんです、そしてあたしは人間の生死を司る使者です。人間にとっては、神様みたいな存在ですね!」
アメリという少女は胸を張って、少し得意げな顔でそう言った。見るからにちょっと傲慢な態度が鼻について、正直言って少しムカついた。
状況がよくわからないとはいえ、彼女がわざわざ説明しに来てくれるというので、ひとまず話を聞いてみることにした。
正直なところ、この小娘を追い出したい気分だった……見た目は明らかに高校生だろう。勉強もせずに、何を使者のゲームみたいなことしてるんだ……
「じゃ、今の状況を説明してくれ。」
「では、できるだけ簡潔にお伝えします。要するにですね、今の状況を一言で言えばこうです:あなたはすでに死んでいて、転生したということです。」
彼女がその言葉を口にした瞬間、俺の頭は一瞬完全に停止したような感覚に陥り、しばらくその場で固まったまま動けなかった。
ようやく我に返ったが、何を言ってるんだ、転生だって? 漫画や小説の中だけの話じゃないか、それが現実で起きるわけがないだろう?
「ちょっと待て、どうせ小娘の言ってることなんて、ゲームみたいなものだろう。そんなものに付き合ってる暇はないよ。」
「ゲームなんてしていませんよ。幽鬼様、あなた実際に任務で亡くなったんです。それであたしが転生のチャンスを与えたんですよ。」
「はいはい、そういうことにしといてよ。まあ、今は時間がないから、さっさと本部に報告しに戻らないと。」
彼女を押しのけて、窓から外に出ようとした。しかし、アメリィという少女が俺を呼び止めた。
「戻ることなんてできませんよ。ここはあなたの元いた世界じゃないんですから。それに、仮に戻れたとしても、今の姿で、あなたが世界一の暗殺者の幽鬼様だなんて誰が信じるんですか?」
そうだな……今の俺は女の子だし、もはや幽鬼じゃない。こんな姿で言っても、恐らく誰も信じないだろう……それに、この娘が言っていた「元の世界じゃない」というのも気になる。
その場でアメリィの前に振り返り、こう尋ねた。
「“元の世界じゃない”って、どういう意味だ?」
「さっき言いましたよね? あなたは任務中に死んで、あたしが転生の機会を与えました。今は別の時空にいるんです。元の世界とは全く違う場所ですよ。」
「元の世界と違うって、どういうことだ?」
「えーと……それを説明するのはかなり面倒ですけど、簡単に言いますと、ここは異世界だと思ってください。そして、今のあなたの身分はもう幽鬼じゃなくて、ただの女の子。今の体を見ればわかるでしょう?」
異世界?それって、ラノベでよく見るテーマじゃないか?宇宙に異世界が本当に存在するなんて、あり得るのかな?
正直言って、彼女の言っていることを信じるのは難しい。でも、今自分が女の子になってしまっているのは、もうどうしようもない事実で、彼女の言葉を否定する理由もないような気がした……
だって、女の子になるなんて、そもそもあり得ないくらい奇妙なことだし。彼女の説明を聞いても、他にどうしてそうなったのか説明がつかない。
「で?」
「えっ?“で”じゃないですわよ!とにかく、今あなたに新しい命を与えたんです!でも、覚えておいてください。あなたはもう“幽鬼”じゃありません。この人はもう存在しません。今のあなたは、ただの一人の女の子です!」
「じゃ、なんで転生して女の子になっちまったんだよ?」
アメリィは少し首をかしげながら、どう説明しようか考えているようだった。
「うーん……なんて言うか……」
アメリィが考え込んだ後、ふと手を振ると、目の前に映像が現れた。まるでプロジェクターで投影されたような映像だ。
「実は、厳密に言いますと、これがあなたの体ではないんです。」
「はぁ?」
「こっちをみてください。この女の子は椎名モモという名前で、この世界に存在していたけど、残念ながら絶命してしまいました。昨晩、病気で亡くなったのですが、誰にもその死は気づかれていませんでした。家族はもういなく、友達は全然知っていないんです。だから、あたしはあなたの魂をここに導いて、この子の体に融合させ、彼女の身分を引き継がせたんです。」
アメリィは微笑みながら、続けて言った。
「ある意味で言えば、あなたはこの子を救ったと言えます。だって、今のあなたはもう絶病に苦しむこともなく、健康な少女として生きているんですから。」
説明を聞いた後、俺は自分の手を見つめた。滑らかで白く、まるで長い間病気に苦しんでいた人間の手じゃない。
「……つまり、俺の魂が彼女を取って代わったってこと?」
「その通りです。椎名モモの意識はすでに死と共に消えてしまい、彼女の体は空っぽになっていました。そして、あなたの魂がその空間にぴったりと収まったというわけです。」
「ぴったり?」
その言葉に反応し、アメリィが少し笑いながら説明を続けた。
「もちろん、簡単に誰の魂でもどの体にも入れませんよ、あなたと椎名モモの魂の波動は非常に似ているんです。言い換えれば、あなたたちの魂には非常に似た特性があって、だからこそこの融合は排斥反応を起こさなかったんです。」
「魂の特性…」
その言葉を繰り返しながら、頭の中で整理しようとした。
これ、どういう設定だ?小説?ゲームのストーリー?それとも映画?あ~頭がごちゃごちゃだよ!
「まぁ、簡単に言うと、今のあなたは椎名モモで、椎名モモはあなたです。」
俺が完全に頭を整理できずにいると、アメリィは急に手を振ってまとめのようなことを言い始めた。
「でも、あなたの記憶はそのままで、性格も変わりません。ただし、この世界では、誰も“幽鬼”のことを覚えていません。皆が知っているのは“椎名モモ”という名前だけです。だから、この新しい身分で、この少女として生き続けてくださいね~」
そう言うと、アメリィは右手をテーブルに向けて軽く一振りした。その瞬間、まるで超能力のようにテーブルの上にあった一枚の証明書が俺の前に浮かび上がった。
信じられない……まさか超能力を使えるなんて、彼女、本当に使者か?
「こちらがあなたの身分証明書です。大切に保管してくださいね!」
アメリィはそう言いながら、一枚のカードを俺に差し出した。
「長くここに留まることができません。あまり時間をかけると時空の秩序が乱れてしまいますからね。とにかく、よく覚えておいてください!あなたはもう“幽鬼”じゃありません。この世界に“幽鬼”という人間は存在しないんです。」
そう言い終えると同時に、天井が再び光を放ち、アメリィの足元がふわりと浮かび上がる。まるで重力が消えたかのように、彼女の身体は徐々に上昇していった。
「それと、もう一つ。ここはあなたの元いた世界とは違いますよ!椎名モモは一度死を迎えたことで、彼女が持っていた力は消滅しました。ですが、あなたが転生したことで、その力は”復活”するはずです。発現のタイミングは、転生から3時間以内に訪れる“ある出来事”の中で――****」
言葉の最後まで聞く間もなく、アメリィの姿は光とともに消え去ってしまった。まるで夢を見ていたかのように、あっけなく。
「……は?ちょ、待って待って。ある出来事って何? どういうこと!?」
唐突に放り出された情報に、頭がパンクしそうになる。
力が復活?それって魔法?超能力?それとも何か別の……?いやいや、それ以前にここが異世界ってマジかよ!?
ってことは……もしかして魔王とかもいるのか?
異世界といえば、勇者、魔王、ダンジョン、クエスト……そんなイメージが頭を駆け巡る。いやでも、椎名モモって普通の女の子だろ?そんな設定、聞いてないんだが?
混乱する頭を抱えていると、突然、ドアの向こうから声がした。
「モモちゃん?まだ寝てるの?入るよー?」
っ!? やばっ!
とっさに俺はベッドから飛び起きる。
「ちょ、ちょっと待って! 今、着替えてるから!」
慌ててそう叫ぶと、ドアノブがガチャリと回る音がしたが、ギリギリのところで止まった。
「ふーん?じゃあ早くしなよー?今日から新学期なんだから、遅刻しないようにね!」
「は、はい……」
ふぅ……なんとか誤魔化せた。
とりあえず、一息ついたところで、さっき受け取った身分証に目を落とす。
「椎名……モモ、16歳……?」
えっ?!俺、16歳の女子高生か?!