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闘神ヤニカス戦記  作者: 店や喫茶
ロイヤル編 第一章
4/18

ガラスの天井

 ただ、底知れぬ怒りが()いた。


 空を(ふさ)ぐ大いなる天井。


 閉じ込められた。


 そんな気分だった。


 冗談じゃない。




 ガラスごときが、世界を(ふさ)ぐなど断じて許さん。




 空をのぼるに比して増していった想い。


 果ての見えぬ広大な大地への、未知の期待。


 夜に輝くは文明の灯火(ともしび)。それは小国のものと思わしき光もあれば、大文明の星雲(せいうん)とおもわしきものもあった。




 朝になれば、雄大(ゆうだい)な大地が姿をさらす。


 あまりに高度が高すぎるが(ゆえ)にその景色はせいぜい色を判別するくらいなのだが、その景色を(とら)えた愉悦(ゆえつ)が身に満ちる。


 そして、遠くの景色となればなるほど、その色の判別すら、普通、困難になるものだが、しかし、神の目はいいものだった。


 (かす)みがかって見えなくなる、果ての景色、その限界までは、なんとなくでも、色彩が見分けられたのである。


 そして、それだからこそ、その景色のあいまいさがゆえに、遠方の未知に想像をふくらませることができたのだった。




 しかし、それでだけでは、想像だけでは、終わらないのだ。




 行けるのだ。


 この体で


 一つ飛びに


 あの場所へ!




 だから、どこへゆこうか!




 あの緑の一体はおそらく鬱蒼(うっそう)とした密林だろうか。


 昨夜、あそこに文明の光は見えなかった。


 見事に陸と海とが入り組んでいるあの地形は、闇夜に、うねる光で満ちていた。


 大河文明を思わせる。


 茶色の大地は砂漠か、はたまた岩の荒野か。

 苛烈(かれつ)なマグマ()まりのようなものがその中央にうかがえる。


 しかし、ここから見えるのであれば、それはとんでもない大きさである。


 そして彼方へと広がる大海。

 いや、もしかすると壮大な湖なのかも知れない。


 あの水面(みなも)の下にも文明があるのだろう。


 ()(やみ)に輝く光は、なにも陸の特権ではなかった。


 確かにそこにも文明の光があったのだ。




 こうしてみると、雲というのはいかに邪魔か!

 大地がうかがえない場所ももちろん多々あるのだった。


 あの動かぬなまりの雲の下に巨大な目が生えている、そんなことだってあるやもしれぬのだ。







 闘神と目下の大地との距離。


 それはおよそ50万キロである。


 時速1000kmのスピードで45時間上昇。


 それだけでは4万5千キロしか上昇できないのだが、いっとき時速10万キロで上昇し続けていた時間があったため、その時間で到達できたのだった。


 月と地球との距離がおよそ40万キロである。故に、夜空の月を眺めるが(ごと)く、目下の景色は見えていた。


 夜に輝く光。


 それが巨大な生物の発光である可能性もあった。


 そうと思えば、山に(ふん)した生き物もいるのかも知れない。




 あの羊飼いの言葉の意味が今ではよく分かる。


 世界の広さにただただ、魅了(みりょう)されてしまう。




 ならば、その上はどうなっているのだろうか。


 いかなる未知が、私を待っているのだろうか。




 しかし、その上は閉ざされていた。


 この世界に感じた、純粋な想いを冷やかすかような寒い青が天井を染めていた


 裏切られた心がそこにあった。




 張りぼての空、水槽(すいそう)のごときガラス。




 ()いならされろとでもいうのか?


 ふざけるな。


 殺すぞ。




 落としてやる。




 (かま)えた、(にぎ)(こぶし)


 怒涛(どとう)(ごと)く力がたまる。




 そして、一閃(いっせん)




 しかし、空はびくともしなかった。


 ()れもしなければ、響くこともない。


 ましてや割れることもなければ、へこみもしなかった。




 (とら)われの身。


 平面世界に閉じ込められた。


 そんな感覚に身の毛がよだつ。


 しかし、


 俺の力はこんなもんじゃないはずだ。


 と、一念をもって、気を切り替える。




 限界は未だ見えず。


 後は、意思の問題である。




 再度、力を(こぶし)にこめる。




 その一閃(いっせん)に、より力をのせるため、(こし)(ひね)る。


 足場はない。


 だから、その天井を(なぐ)りつけると同時に大気を()みつけ、それを足場とする。


 そのために(ひざ)は曲げる。




 まだだ。まだまだ、力をのせろ。




 そのとき、闘神の髪、その黒髪の、一本一本が、紅色(くれないいろ)に一本、また、一本と、輝き出した。


 その輝きは光の加減で(こう)(ちゃ)色にも見え、ただ、(くれない)一色に染まっているわけでもなかった。


 そして、その33本目が輝き出す頃。その圧倒的なエネルギーが拳から繰り出される。




 天は割れなかった。




 天変地異かのような衝撃音と共に、(なぐ)りつけたその部分だけが、どろりと溶けるだけであった。


 そして、すぐに何もなかったかのように(むな)しく元に戻っていった。




 しかし、神はそれごときで諦めない。


 むしろ怒りがただ、満ちるだけだった。




 そして、この日、この世界の何者をも(はば)んできた世界の天井は、初めて1人の自由を許した。




 怒髪天(どはつてん)




 力のギアがガガガと上がる。


 上がり続ける。


 しかし、そのギアの具合が途端(とたん)にどうでもよくなる瞬間。


 そんな瞬間がまさか、訪れようとは思っていなかった。




 ふっと、体が軽くなった。




 そのとき、闘神の髪の色は、いつのまにか、黒から(きら)めく(くれない)一色へ、一変に様変わりしていた。


 そして、その瞳の奥には(くれない)の、その光が燦然(さんぜん)と輝いていた。




 まるで、貴公子かのような相貌(そうぼう)


 (おお)(あわ)てだったのはタキシード君だった。


 すぐさまタキシード君はエースパイロット仕様から、黒シャツ黒ズボン仕様に変身。


 超戦闘モードであるからして、まず、タキシードフォームは似合わないと判断。


 今、自分に求められているのは、仕事に気だるげな感じの男が仕方なく、されど怒りをこめて戦う。


 そんな塩梅(あんばい)


 だがしかし、気品は保ちつつ。




 と、勝手に解釈。




 シンプルな装いの中に品格を。




 ネクタイはいらない。たぶん。主人はネクタイが嫌い。

 黒シャツの第一ボタンは開ける。

 これは必須。

 でも第二ボタンはだめ。


 下品。


 (そで)は腕まくり。


 うん。


 バランスがいい。


 シャツの(すそ)はズボンにin!

 体のラインはスタイリッシュに!

 そして、ベルトはシンプルに黒。

 でも黒一色だと全体的にのっぺりだから、金具は銀でメリハリをつける。

 もちろん(くつ)はベルトの色に合わせて黒。


 (みが)かれてはいるが、それが目につくことはない丁度いい仕上がりで。


 チャームポイントはシャツのボタンと胸元の黒薔薇(くろばら)のブローチ。

 素材は全部、ブラックダイヤモンド。最高級仕様なり。

 そのブラックダイヤモンドは主人の髪の色がときどき反射しているかのように、きらめく仕様で。


 否、これは我が演出!




 その出来に、高笑いするタキシード君だった。




 ちなみにブラックダイヤモンドだけでなく、全ての素材が最高級仕様。


 やりたい放題であった。




 絶頂! 絶頂! 有頂天(うちょうてん)! なんて素晴らしき我がセンス! ああ、これで主人が()だるげに一服してくれたら映えること間違いないのになぁ......ん? んん?




 さなか、タキシード君が気づいたある違和感。

 胸ポケットのふくらみ。

 そこには何もなかったはずだったのだが......


 いつからか、それはそこに存在した。




 しかし、突如、轟音(ごうおん)が鳴り響く。


 (はる)か遠くの大地まで、届くであろう音。


 それは、天が割れたことを意味していた。




 それに驚くタキシード君。


 もはや先ほどの気づきなどすっかり忘れてしまっていた。


 もちろん、スマホ君もジッポーちゃんも愕然(がくぜん)としていた。


 そして、スマホ君は、その光景をしかと、記録していたのだった。




 その映像は、不出来なCGと見分けがつかないほどに呆気(あっけ)ない。




 ゆるく、右ひじを引く闘神。


 そして、天に向けて、一閃(いっせん)


 ただ、その放った(こぶし)は、いつ繰り出されたのかが全くわからなかった。


 気がつけば、コツンと、天井に拳を押し当てている格好。


 それなのに、ガラスの天井はバキッ! と音を立てて、瞬時に割れた。




 大気がねじれ、きしむ。


 そして、空が、またたく間に()けてゆく。




 このとき、スマホ君たちは、タキシード君のポケットの内側、そして闘神の側にいたから良かったものの、ちょっとでも気を抜いて1人、外へ出ていたならば、またたく間に彼方(かなた)へと飛ばされていたことだろう。


 まあ、それでも離れ離れになるかというと、多分そんなことにはならない気がするというか、いつでも主人の元に戻れる感覚がある元所持品ズではあったが、ただ、目の前で起こった非現実的な力に対し、彼らの意識はふわふわと(ただよ)うばかりで、ピンチにあいそうだったとか、いや、そんなことはなかったとか、考えることなど、もはやできもしなかった。







 びきびきと(うな)りながらも、ガラスの天井が修復されていく。


 けれども、神は意に返さず、ときおり、目に見えぬ一閃を放ちながら天井を破壊し、上へ上へと(のぼ)っていった。




 あたりは何者の存在も許さぬほどの高温が渦巻(うずま)いていた。


 しかし、なんの影響もなかった。


 それは元所持品ズにしても同じである。




 天のガラスは自己修復を試みてはいるが、もはや、神の破壊に追いつくことはなかった。


 けれども、致命的にその存在が破壊されているといった訳でもなかった。


 その具合から見るに闘神が(なぐ)りつけるのをやめれば、途端(とたん)に元通りとなることだろう。


 しかし、そんなことは今、どうでも良かった。


 このガラスの上に、何があるか、何が待ち受けているか。


 それだけが、ただ、彼の興味であり、希望であった。




 そして、ついに到達する。




 天上。


 そこはただ、何もない。真っ暗な空間だった。




 天を突き破り、そのままの勢いで(ちゅう)に放り出された体は、全ての力を切るとただ、下へと落ちていった。




 先ほどまで空を支えていたガラスの上にゴトンと落ちる。


 明確な重力というのが、いまだ身に存在した。




 ここは私の知る宇宙ではない。




 頭上には、ただ闇の世界が広がっていた。


 それだけの空間。


 星など当然ない。




 吸い込まれそうな闇だった。


 ぺりぺりとあの闇を()がせやしないか、ふとそう思う。


 しかし、(くう)(つか)むような気分が押しよせるだけであった。




 足元の、ガラスの床は、どこまでも広がっていた。


 やはり終わりが見えない。


 ただ平たく、どこまでも続く。


 一切の丸みも、うかがえない。


 その透明(とうめい)なガラス越しに目下の世界が広がって見えた。


 不思議なことに、ガラスの中の輝き。今は朝だろうから青空を()した光の輝きが、その視界を邪魔するということはなかった。


 ただただ、クリアに世界を見渡すことができた。


 どことなくそれが美しく感じられてしまった。




 少なくとも、この大地は、自転しているわけでも、公転しているわけでもないようだ。

 おそらく、もっと上へ行き、この大地の重力圏を脱すれば無重力も味わえるのだろう。


 地上にいたころと比べて、体は少し、軽くなっていた。




 問題はどこまでも平らに広がり続ける世界であった。




 この世界に(はし)はあるのだろうか。


 いや、そもそも、どこから始まっている世界なのだろうか。




「世界の中心」




 あの男の言葉はずいぶんと厄介(やっかい)な問題なのかも知れない。




 この層状のような(てい)を成す世界が果てしなく、そして恐ろしく思えた。




「ずいぶんと遠くへ来てしまったみたいだ。我ながら馬鹿だ。今になって後悔してやがる」


 ふと口をついてしまった愚痴(ぐち)に笑うが、力なく。


 もう二度と会えないであろう人たちの顔が頭に浮かぶ。


 失踪(しっそう)という具合だろうな。

 迷惑をかけるというわけだ。

 まあ、仕事という仕事はやり切ったのだから、良いだろう。

 責められる(いわれ)れはない。


 吹っ切れようとするが、それでもガラスの床にべたりと座るしかなかった。


 胸元を探る。


 いつもの馴染(なじ)みの動作。


 至高の一服のためのその所作は裏切られるはずだった。




 しかし、事態は彼に微笑(ほほえ)む。




 シャツの胸ポケットのその内側には、あのたばこが一本。


 たった一本。


 されど一本。しまわれていたのだった。




 すぐさま火をつける。


 変わらない味、いつものそれ。




 深いため息をついた。


 (けむり)がまっすぐ広がっていった。




 やっぱりお前だ。お前が一番うまい。




 ただ、満たされて満ちていった。




 そして、吸い終わった。







 いつからいたのだろうか。


 吸い終わったのち、彼は、その考えを巡らせていた。




 この世界に降り立って、そしてすぐに決別することとなったお前は、いつ戻ってきた。


 あの時、ポケットにしまい込んだはずがない。


 タキシード君がゴミとなったお前をしまいこむはずがない。

 それだけは絶対に、意地でもタキシード君が許してくれない。そんな気がする。

 であれば、あの場でお前を大地に置き去りにしたのは確かだ。


 果たして、どのタイミングで、我が元に帰還したか......


 その一番の仮説は時間というやつだろう。


 もし、ガラスの天井を壊したことがそのタイミングであるのなら、今日以降、俺は空を壊しまくるが、やはり、しっくりくるのは、このたばこは時間をかけて復活するというやつだ。


 そもそも、所持品は永久不滅であるとあの石板に記載(きさい)されていたのだ、このたばこが消耗品(しょうもうひん)であるはずがないのだ。


 復活するのだ。




 ふと、ガラスの床に置かれた()(がら)に目がゆく。


 火を消したそれは、ひしゃげていた。


 そして、いつのまにか、まじまじとそれに見入ってしまった自分がいた。


 それは、その吸い殻がわずかにジリジリと動く様を見てしまったからである。




 吸い殻がジリジリと向かう方角。


 それは、闘神の元へ向かう歩みではなかった。


 闘神が座る位置とは全く別の方角へ向けて、ジリジリと動く歩みであった。




 突如(とつじょ)、いや、それは当然よぎる予感。




 あの方角に残りのたばこがあるのだとしたら......




 いや! そうに違いない!


 残りの19本のピース・ロイヤル! やつらが俺を待っている!


 お前は、仲間の元へジリジリと動いているのか! そうか! そうか! そういうことか!




 この時、一つの超大国。そして、いくつかの列強諸国、または魔境に秘境。ならびにそれを取り巻く者どもの運命が、不条理に定まったのであった。







 闘神が失った、19本のたばこ。


 ピース・ロイヤル


 その箱にはピース・ロイヤルという文字が印字されているのであるが、そのタバコ一本一本には、ロイヤルという文字だけが印字され、ピースの文字はどこにもない。


 その19本のたばこが、闘神に先んじて、この世界の各地へと転移していたのだった。




 もし「Peace(ピース)」つまり「平和」の文字が、そのたばこに印字されていたならば、少なくとも運命は違う道を辿(たど)ったことだろう。


 しかし、そうはならなかった。




 たばこに印字された「Royal(ロイヤル)」つまり「高貴なる」または「王」と訳される文字。


 これが大問題だった。


 そして、このたばこの芳醇(ほうじゅん)な香り。


 それは瞬く間に、その場に居合わせたこの世界の者どもを酔わせる甘美な神の香り。


 これも、大問題だった。


 かつ、このたばこが闘神の所持品であるが故に起こる問題。




 このたばこを扱えるのは、世界で闘神ただ一人。




 つまりそれは、誰もそのたばこに火をつけられず、もっと言えば、何人(なんぴと)もそのたばこを傷つけることもできなければ、汚すこともできない。


 不変不動のその象徴。


 いわば、権威の理想の姿であった。


 そして学者にとっては垂涎(すいぜん)ものの研究物質。


 剛体(ごうたい)と言っても過言ではない代物(しろもの)


 加えて、そういういわくの品だからこそ(ささや)かれる迷信の数々。


 それらが、魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)の欲望に(さら)されて、もはや後戻りができぬところまで歴史は来ていたのだった。




 もうすぐその事実を知り、唖然(あぜん)と立ち()くすこととなる闘神であったが、今はとても呑気(のんき)であった。


 彼はいま、吸い殻が動くその方角へ向かうその前に、どれほどの時間が経てばこの吸い殻が復活するのかを検証している最中であった。




 たばこが吸い殻と化してからすでにスマホ君の示す時間で5時間が経過していた。


 ちなみに、今の日時は神歴0年2日5時32分15秒である。


 闘神がこの大地に降り立ったその日を基準に日時が刻まれているのであった。


 後に、これは偉大なる世界の基準の一つとなるのだが、それは、今を生きる者からすれば、ただ間抜けに見えるばかりであった。




 これは、後に情報神と化すスマホ君の偉大な功績の一つとして、歴史家の総意を得るものとなる。




 この日を境に我らは絶対的な拠り所を見出すことを許されたのだ。そして、その日を私は目撃した。

 ―冒険家 カールツ・クラッセ・ジャンバルジャック―




 ただ、時間が過ぎて行く。


 10時間経とうとも、一向に吸い殻は復活することはなかった。


 しかし、もし復活が時間準拠であれば、たばこの復活は2日以内。


 つまり60時間以内に起こるものと思われた。


 それ自体には希望が持てるのだが、精神の磨耗(まもう)は激しかった。


 早く吸いたい。


 再び吸えると分かったせいで、吸えない今に身が()がれた。




 だから何か他のことを考えて気を(まぎ)らわすしかなかった。


 例えば、石板の他の選択肢についてである。




 私が選ばなかった他の神々は今この世界にいるのだろうか。

 もしいるなら兆候(ちょうこう)というのがあるはずだ。


 情報神は確実にいない。


 いれば、その権能により、私にも空間スクリーンが配布されているはずである。

 次に仙神もいないように思われる。

 仙気というのがどういうものかはわからないが、もし、仙神が降臨しているのなら、世界の法則は大きく変わり、それが常識となっているはずである。

 そういったことは、些細(ささい)なことから把握できるようなものだが、先の羊飼いや鳥たちの言葉の端からそのような気配は伺えなかった。


 人神もいないだろう。


 いや、どうだろうか。


 あの神は凄まじく勢力を広げるのだろうが、もしこの世界が無限に広がる平面世界であると仮定するならば、逆に出会えることが奇跡だ。

 無限に広がる世界に対し有限の人材をどう用いようとも、完全なる布教というのは、いつまでも達成されるわけがないのだ。

 故にいつまでも人神、そしてそれに連なる使徒や天軍と出会えないこともあり得る。




 この世界は大いなる箱庭か、それとも終わりなき無限世界か。




 その他の神。


 陸海空の神々、剣神、魔神、戦神の6神は存在したとしても、局所的にしか活動できない。


 情報神や仙神、人神のように活動の領域に限界がない神々とは訳が違う。


 故に、この世界が有限の箱庭でもない限り、遭遇(そうぐう)するのは奇跡の中の奇跡であろう。

 神々との距離が、銀河間の距離である可能性もあれば、宇宙の直径ほど離れている可能性もあるのだ。

 そして、その規模すら砂つぶ程度としか思えないほどに離れている場合も考えられる。


 (しま)いには、その尺度すらも、とるに足らないほど巨大なスケールで神々が世界に点在している可能性だってあるのだ。


 そうであるのならば、出会えるわけもない。







 世界の広さを無限と思えば、我らの価値はあまりに無意味。我らはいつまでも井の中の(かわず)

 さて、今、我の前に(ひざまず)くこの巨人は小人(こびと)であろうか。 

 ―征服者 羅王林―







 20時間が経過した。


 すっと、吸い殻が消えて行く




 これだ......きた、きたぞ! やっときた!




 目の前の吸い殻が消え去ると同時。胸ポケットにピース・ロイヤル。そのたばこが一本しまわれていた。




 嬉しかった。




 されど、一日一本。




 沸々(ふつふつ)と怒りが()く。




 冗談じゃない。




 腰を上げる。


 その方角は定まっている。




 せめて一日一箱。




 当面の目標が決まる。




 残り19本の消えたたばこを求めて、今、闘神の髪が紅一色に染まる。




 そして、20時間越しの一服。




 それを吸い切ったのち、遥か彼方の目的地へ向けて、彼は超常の速度で天上をかけて行くのであった。







 闘神がこの世界に降り立つ前、あの石板が出現した空間で、光と共に目の前で消え去った19本のたばこ。


 それはこの世界の各地に散り、そして、その各地でそれを求め盛んに争いが起こった。


 およそ1万5000年ほど前に起こった歴史である。




 それは、どこまで行っても、ただのたばこでしかないはずなのだが、価値とはえてして不可思議に生きる。




 ただ、この争いも、果てなき大地からすれば、砂つぶの一つ。いや、認識するにも値しない小さき領域の矮小(わいしょう)なる争いでしかない。その中でいったい誰が特別となれようか。

 ―星読みの巨人―




 闘神ヤニカス戦記 ーロイヤル編ー 始動










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