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プロローグ【あけぼの】

プロローグなので本編は次から…だと思う……

 赫い空、暮れや夕夜の狭間よりも赤い

 紅い地平線、薔薇や牡丹の朱の花で、深く赤い

 眼前に広がるは美しい緋によって染められた世界

「私」はそんな中でたった独り、心を奪われ、立ち尽くしている。


しばらくその光景に見惚れていると、次第に「私」の体は花に包まれ、赤に飲まれ始める。


奥の々に根を突き刺し、「私」を外界と隔てる儚い薄皮を突き破り、美しくも誇らしげに咲き誇る花々。


「私」は花に包まれる。


足の先から上るようにして、指先へ、背の中へ、最後は喉を伝い、頭を目指し、感覚を奪ってゆく

段々と体が「私」の意識から離れていき、動かそうと思っても動かない。

何とも無かったとしても動かなかったかもしれないが

しかし、そこには

痛みも

動くことを許されない苦しみも

声を出せないもどかしさも

思考が薄れゆく覚えも

何もかもが存在することはなかった


終わりの々わり、一つの景色が鮮やかに世界を彩る


そう、そこには、まさに、

赤しか残らなかった。



それでおしまい、残るは暗闇。

ちゃんちゃん










「———綺麗…だったなぁ」


追い求めるように、温い布団から片手だけを冷えきった外界に突き出し、呟く。

起きて最初の言葉がそれだった。

こんなセリフが出てくるくらいなのだから、まだ脳みそは夢の中なのかもしれない。

そんなことを考えながら、寝床から半身だけを引き起こす。


すぐそばの窓、片方だけ開いているカーテンから外の景色が見える。

 黒

月も昇らず、

家々から漏れ出る光も無く、

曇りのため星々の明かりも無い、

——深黒

その深黒を僅かに照らすのは頻繁に点滅する街灯だけ。

しいて、それ以外で挙げるのであれば、遠く、遥か先で深黒を押しのけてぼんやりと輝き続ける彼方の都市から溢れる灯の光しか見えない。


時計を見ればまだ三時半。

季節は冬。当たり前だが、日が昇る気配すらない。


「てか……さァむ…」


そこまでぼんやりと考えていると、異常な寒さにさらされて、急速に脳がうたたねから醒める。

よく々、窓を見れば、片側が開いていて、そこから外気が入り込んできているのが分かる。

すぐに閉めた。鍵までかけて。


「…起きよ」


窓は閉めたけれど、部屋の中はまだ々寒い。引き込むような眠気は冷気に吹き飛ばされた。

時間は三時四十分、いつもよりかなり早い時間ではあるけども、起きることにする。

まだ寝ていても問題なかったけども、まぁ、何となく、気まぐれだった。


「…」


冷感が、鋭く、つららとなって足裏に突き刺さる。

空気が冷えていれば、床も当然冷えている。当たり前の話だった。

このまま歩いていけば足裏が極寒のシベリアになってしまう。何とかしなければ。


「お…いいねぇ、昨日スリッパ履いて来といて良かったぁ…まったく、何でこんな冷えるかね」


昨夜、用無しとしてリストラされ、適当に放られたスリッパを復職させ、ベッドから立ち上がる。


「うん、いい感じ」


そして、立ち上がった足で、部屋の電気をつけるため、スイッチへと向かう。

足裏には薄っすらと冷たさを感じるけども、床に直に付けるよりは遥かにマシだろう。

大して広くも無い部屋だから、すぐにスイッチに手が届く。


OFFからONへ、

間も無く、光が部屋を満たす。

勉強道具の散乱した机に引かれたままの椅子、趣味の詰まった本棚に、思い出を詰め込まれた小さめの箪笥、そしてさっきまで自分が寝ていたベッド

優しい部屋明かりに照らし出されるいつもの自分の部屋。

そのはずなのに———どこかに耐えがたい違和感を覚える


…違う。なんでもない。

きっとそんなことは無い。気のせいだ。


「………散歩にでも行こうかな」


決してこの場から離れたいとかではない。

これも気まぐれだ。


外に出るため、寝間着から着替え始める。

外界は寒風吹き荒れる過酷な土地。生半可な服装では凍えてしまう。

しっかりと肌に冷気が触れないようにしつつも動きづらくない服装を選び、着替えを終え、扉を開け、廊下の様子をうかがう。


「さすがにまだ誰も起きてない…よね」


小声でそんなことを呟きながら、音を立てないようにゆっくりと廊下を進む。

時間は三時五十分、流石に、まだ々早い時間。

こんなところを見られたら引き止められることは間違いない。

まぁ、引き止められてたとしてもこの気まぐれ心を止めることなんてできないだろうけどね。

気分は忍者か盗人か、少しの緊張感を纏いながら、玄関までたどり着き、靴を履き、外へと玄関をくぐる。


扉を開けるのと同時に信じがたい冷気が滑り込んでくる。

十分に着込んだつもりであったが、それでもまだ寒い。

一瞬、ゆらぐ


「……行こ」


しかし間もなく持ち直し、外へと歩みを進め、気まぐれに決まった散歩が始まる。

勿論戸締りは忘れない。


「おぉ、なんか不気味な感じ…」


見知った景色も、少し立つ場所を移して視点を変えれば全く異なる場所のように見える。

夜で、しかも明かりも少ないとなればなおさらだ。

見知った道さえ初めて見る道のよう。


歩く歩く歩く


いつも通る道を、

何年も前に一度だけ通った道を、

あえて、目に入った道を、歩く。


いつの間にか知らない土地。

しばらく歩くと、少し先の方で光り輝く何かが見える。

どうやらコンビニらしい。

時刻は四時五十分、家を出てから大体一時間ほど。

丁度いいね、朝ごはんでも買って帰ろう。


しかし、大変なことだね。

数人来るか来ないか分からないのに開けてなきゃいけないなんて。

確かにそれがありがたい時もあるけどさ。

例えば、今日とかみたいな日とかね。


買い物を終え、帰路に就く。

帰りは道を選ばない分、早い。

だから、あえて遅く、ゆっくり歩く。


一度通った道を戻り、ついさっき久々に通った道を通り、いつもの道に至る。

 辺りはまだ々暗い。

しかし目が慣れたのか、家を出た頃よりは遥かにはっきりと見える。


歩く歩く歩く


間もなく我が家、気まぐれの散歩はそろ々終わりを告げる。

たまにはこういうのも悪くなかったね。

ただ、今度からはある程度時間を気にした方がいいかも。

この時間だとあまりにも寒すぎた。


最後、玄関の前にたどり着き、鍵穴に鍵を入れようと、()()








何やら後ろから引っ張られるような感触。

———否

掴まれ、抵抗も出来ず、強引に引かれる確信。

後ろを向こうと体を動かすが、叶わない。

首を限界まで回し、眼球をやり、何とか後ろを見る。


手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手

手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手





空間を割ったような隙間から見える無数の黒い手の群れ。

恐怖、驚き、困惑、そして怒り

それらが凄まじい力で体をしっかりと掴み、離す様子すら感じられない。

抵抗すら許されず、その手に引かれるまま、空間の割れ目に持っていかれるようにして吸い込まれる。

そして、それと同時にどういう理屈か、意識が遠のき始める。




全く何が起こっているのか分からない。

最後に目に入ったのは空。


空は暗い。

夜はまだ明ける様子はなく、日の出の気配すら感じられなかった。

不定期ですが、更新していけるよう頑張ります。

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