おしいれのぼうけん
夜中、ガタガタという音で目覚めた。
どうやら、押入れから、聞こえてくるようだ。
泥棒かと、警戒して、壁に立てかけてあった、コードレス掃除機を構える。
襖の縁に足を引っ掛けて、勢いよく開ける。
「ひっ!」
果たしてそこには、身長が1メートルもないくらいの、ずんぐりとした体型をした、むくつけき男が3名。
お互いにお互いを抱き抱えるようにして、こちらを見ていた。
ボロ切れのような服の上に、皮の胸当てを装着し、分厚いだけで装飾もない、鉄の兜を頭に載せている。
(夢か…?)
「こ、ころさないで…」
闖入者は、ひどく怯えた目で、こちらを見てくる。
「ぐ……偶然に、ここにきてしまった。悪気はないんだ」
真ん中に挟まれたリーダーと思しき男がこたえる。
夢かどうかはともかく、少なくとも泥棒ではなさそうだった。
その怯えた顔を見ると、なんだか、怒る気にはならなかった。
「そう、とにかく、早めに出て行ってください」
バイトが夜勤続きで、とっても眠かったので、そう告げて、布団に戻る。
翌朝、押入れには、まだ男たちがいた。
男たちが言うには、
「われわれは、王国の姫を守るために遣わされた。」
「姫のいる座標に飛んだはずだったが、いつのまにかここにいた」
「おそらく、手違いと思うが…」
「迎えが来るまで、しばらくここにいさせてほしい」
とのことだった。
結論から言えば、迎えは来なかった。
ただ、今の彼らは満足そうだ。
すっかり、私、姫川姫花のとりこである。
「臣下のみんな、きょうは来てくれてありがとーー」
『ひめさまーーーー♡』
姫川姫花、27歳。
主に下北沢のライブハウスを拠点にして、アイドル活動をしている。
異世界からの来訪者である彼らは、このライブハウスのスタッフとして、そして姫の臣下として、毎日、いきいきと働いている。
コールもオタ芸も、すでに完璧にマスターした…。
…いやいや、お前ら、それでいいのか?
まあ、本人たちがよければ、いいかぁ。