あの日
あの日、人類は滅亡した。
……ことになった。
大規模な外星人からの侵略により、地球上の空は、外星人の船で埋め尽くされた。
降伏し、服従するなら攻撃はしないという。
そのかわり、服従の証に、生贄を差し出せ、と。
生贄になろうと申し出をする者は後を絶たなかった。
宗教家が最も多かった。
老いた者、病んだ者が続き、意外にもごく普通の一般市民からの申し出も、かなりの数に及んだ。
ひとえに、家族が幸せに暮らして欲しいという願いのために。
ただ、外星人からの条件がネックだった。
「生贄になることを最も望んでいない者」
そもそも、望んでいない者は申し出をすることは無い。
よしんば申し出たとしても、「最も」という基準をどこにおくのか、測る術はない。
各国の権力者は喧々諤々の議論の末、外星人を謀ることにした。
某国で密かに進めていた、クローン技術を応用して、偽の「生贄」を作成したのだ。
実験用に提供された細胞を培養し、まず、肉体の「ガワ」である骨格と筋肉を作り出した。
臓器に代わる部分は、最近実用化された、移植用の人工臓器を用いた。
脳については、臓器を自律的に動かす程度の装置を内蔵させた。
生贄引渡しの期限が来た。
指定された場所には、3人の外星人が、待ち構えていた。
「連れてきたか。」
外星人の代表は人と変わらない見た目をしていたが、頭にアンテナのようなものが飛び出していて、その先にピンポン玉くらいの赤い球がピカピカと明滅していた。
人類の代表は、
「生贄になりたくないと騒いだので、薬で意識を奪っている」
と、申し添えて、作り出した偽の生贄を引渡した。
外星人うち、2人が生贄の脇を支え、代表と思しき一人が、
「交渉は成立だ。」
と言うと、光に包まれて、消えていった。
人類は救われたのだ。
そう思った…。
だが、そう上手くはいかず、このあと、この穴だらけの策略は易々と外星人に見破られ、外星人の総攻撃が開始された。
そして人類は滅亡した。
「……………行ったか。」
「外星人は退去したようです。」
「ふう、うまくいったか。」
外星人が去って、数か月後、地球の各地で、地表に金属の構造物が迫り上がってくるのが確認された。
構造物からは、人が続々と出てきては、お互いに喜びを分かち合っていた。
およそ1万年前、開発されたばかりの超超光速通信の試験中に、言語と思われる「音」が拾われた。
解析したところ、2000光年ほど離れた場所で行われた、通信を傍受したものと判明した。
世界中の言語学者と、物理学者と、天文学者と、あらゆる頭脳が集結し、出された答えは、
“1万年後に、人類を滅ぼしに外星人が来る”
というものだった。
理由はわからない。
そこで、権力者たちは、「偽の人類」を作ることにした。
慎重に自分たちの痕跡を消し、新たな人類が自分たちが「本当の人類」と勘違いするように。
そして、1万年の眠りについた…
「でも、我々の作った人類が、外星人に滅ぼされなかったら、どうするつもりだったんですか?」
「そりゃ、きみ、我々が滅ぼせばいいだけ、だろう?」