詐欺師「J」
俺の名は「J」
B国に潜入しているD国のスパイだ…
…という設定で、スパイをしている、G国のスパイ………
という設定のケチな詐欺師だ。
今回は、シクった。
詐欺師なのがバレて、拘束されている。
N国で、たまたま会った幼馴染に、条件反射で「ごめんなさい」って言ってバレた。
俺は、幼馴染に謝るクセがついてる、ケチな詐欺師だ。
まあ、そんなことはどうでもいい。
目隠しをされ、拘束服に雁字搦めにされた現状から、どう切り抜けるか、だ。
そんなことを考えてたら、正面の扉が開く音がした。
「『J』さん、だったかしら。」
女だ。
女なら、俺の甘いマスクに騙されてくれるかもしれない。
問題は、俺はその「甘いマスク」を持ち合わせていないということだ。
そう、印象が薄いことが俺の取り柄だ。
何が言いたいかといえば、絶対絶命ということだ。誰か助けてっ!
そんなことを考えていたら、目隠しと猿轡が外された。
「拷問は国際法で禁止されているはずだぜ」
とりあえず、それっぽいことを言ってみる。
「?拷問なんてしないわ」
「じゃあ、俺とイイコト、しないかい?」
バチっとウインクしてみた。
………沈黙が一番の拷問だな。
「……すみません。なんでも喋るので、許してください」
謝ってみた。素直に謝れるのが、俺のいいところだと、幼馴染は言っていた。
「…あなたには、これからゲームをしてもらいます」
「デスゲームか…」
ドラマとかでで見たことがある。
「いえ、単なるコンピューターシミュレーション、のようなもの、かしら」
女は、人差し指を顎にあてて小首を傾げた。あざといっ!
「まあ、拒否権がない代わりに、命と、快適な居住空間は約束するわ」
…罠だ!でも、なんの罠かわからない。
「『罠だ!』って顔をしてるわね」
顔に出てた!正直なのが、あなたのいいところだって、幼馴染は言ってた。
「…あなた、今までよく詐欺師なんてやってられたわね」
呆れられた。
「ふっ、俺の取り柄は、顔がいいことだけだからな………ごめんなさい、すみません。もう言いません」
◯されそうな目で見られた。こわい。
「とりあえず、明日から、頼むわね」
そう言い残すと、女は去っていった。
次の日から、言葉どおり、衣食住に困ることはなかった。
それどころか、望むものはなんでも提供された。
ジャ◯プとか、マ◯ジンとか、コ◯コ◯とか…全部マンガじゃねーか!
まあ、ジャン◯とコーラとポテチがあったら、1週間は暮らせるのが俺の取り柄だ、って幼馴染が言ってた。
その「ゲーム」とやらは、こんな感じだった。
①国の宰相になって、国王の指示やら国民の陳情やらを聞きながら、うまいこと国を繁栄させること
②戦争が始まらないように、他国と折衝すること
③ときたま、天災があるので、それに対応すること
要は、国の運営だ。
最初、ゲームを始めたばかりは、国はめちゃくちゃだった。
お互いに相手の首都に照準を合わせて武器を配備しているような、一触即発の世界情勢だった。
いくつかの国が、自国の利益のために水面下で交渉を持ちかけてきた。
俺は宰相として、落とし所を提案し、時にそれ相応の対価を払い、国を滅亡させず、かといって、他国を刺激させないように、時に存在感を消しつつ、のらりくらり…じゃなくて、適切な国家運営に努めた。
その甲斐もあって、俺の運営する「国」は平和に繁栄していった。
まあ、俺は優秀なスパイ(仮)だからなっ!
…そして10年が過ぎたその日に、俺はその施設を脱出した。
長かった…。
施設を抜け出した俺は、隠しておいた金を回収し、公園のベンチで缶ビールを片手に祝杯をあげた。
ふふっ、まあ、優秀な俺にかかれば、こんなもんよ。
10年ぶりの街は賑やかで、昔の戦時下のようなピリピリとした雰囲気はなく、街を行くすべての人が、平和を享受しているような、穏やかな空気が流れていた。
………何があったか知らないけど、平和が何よりか。
その後、俺は故郷に戻って、幼馴染と結婚し、小さな店を始めた。
穏やかな日々の中で、時折思い出す。
あの時の奇妙なゲームは、まだ続いているのだろうか。




