空を飛ぶ夢
空を飛ぶ夢をみた。
眼下には青い海が広がっている。
陸地は見えない。
延々と、紺碧が続いている。
ピッピッピッピッー、ピッピッピッ…
アラームの音でめざめると、いつもの日常が待っていた。
朝ごはんにパンと目玉焼き、着替えて研究室へ。
コーヒーを淹れて、一服つきながら、新聞を読む。
そのうち、助手が出勤してくる。
彼は無口だ。
滅多に声を出さない。
彼は研究室の中をひととおりチェックし、いつものテーブルに腰掛けた。
机上の端末を起動し、資料の整理を始める。
朝食を片付け、ブラインドを開ければ、もう見慣れてしまった景色。
数多の小惑星の衝突で、この地表はいくつものクレーターに覆われている。
この荒野には、この建物以外には、砂と岩の大地が広がるばかりだ。
外を眺め、周囲に変化がないことを確認して、ラジオをつける。
ノイズの合間に、微かに聞こえる歌声。
海辺の恋を歌った曲のようだ。
机に戻り、書きかけになっていた記録を再開する。
「観察記録、恒星歴4,534,663,059年。観察対象では、『電気』を中心としたエネルギーを用いた文明が定着しつつある。初期段階では、よくあるアプローチだ。最近、一定の波長を持った電磁波に情報を載せて通信する技術を、文化的に使用するのが流行のようだ。彼らは、これを『RADIO』と呼んでいる。こちらでも、簡易的に受信措置を作成し、文化に関する情報収集に役立てている。流れてくる『歌』は多様だが、個人的には、『海』と『恋』を歌った曲に心を惹かれる………」
あの星の大半は液体に覆われている。
これを総括して「海」と呼んでいるようだ。
均質なものではなく、様々な物質が入り混じり、対流している。
ある意味、あれも一つの生物なのかもしれない。
単純に、美しいと思った。
この衛星で観察を始めて、1、2億年ほどで、この星は色づき始めた。
この青と緑に彩られた星を、この足で歩いて探索したこともあった。
時々思う。以前のように、海の上を自由に飛び回れたら…と。
しかし、文明の発展とともに、それも困難になっていった。
彼らは総じて異種族を受け入れることが難しいようだ。
このまま発展を続けていけば、この場所に到達するのも時間の問題かもしれない。
まあ、隠蔽の方法はいくらでもある。
しばらくは、あの「人類」には、会いたくないものだ。
助手がコーヒーを運んできた。
もう、そんな時間か。
その後もルーチンワークをこなし、寝る時間となった。
ブラインドを閉め、ベッドに入る。
目覚まし時計のタイマーは30年後。
そして目を閉じる。
また、あの夢がみられないものか。
そんな期待を抱きながら。




