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番の心がわり  作者: 酔夫人(旧:綴)


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pause2. 鴛鴦

閑話休題その2です。

「番鴛鴦の詩……?」


竜に変化することを覚えたトールは毎日楽しそうに空に飛び立つ。その感覚を味わえないならとサラリアはオーレリウスに竜族・鳥族に関する本を頼んだ。そして届いた本は図鑑や竜人や鳥人を主人公にした物語。


ジャンルごと、作家ごとに本を棚にしまうため、サラリアは届いた本は全て簡単に目を通す。図鑑は興味深く、フィクションかノンフィクションか分からない物語は面白かった。そして最後の一冊、それが『番鴛鴦の詩』という詩集だった。



「わたしの羽根は……」



わたしの羽根は 君の名を刻む

風が吹けば 君の声が胸を裂く


空を飛ぶために生まれたのではない

君に向かって落ちるために この翼はあるのだと本能が歌う


番よ

わたしの命を 君の影に捧げよう


君が笑えば 太陽は沈み

君が泣けば 星は燃え尽きる


この世界が終わるとき

最後に残るのは 君の名を呼ぶわたしの声



「……それが わたしの歌」



読み終えたサラリアがほうっと息をついたとき、カフェの扉がコンッと叩かれた。顔をあげると戸口にラーシュが立っていた。


「あ……」


自分に向けるラーシュの目に、サラリアがいつも通り『いらっしゃいませ』を言えずにいた。



「ずいぶんと情熱的だな」

「えっと……」


声はおっとりとしているのに剣のように鋭さが含まれていて、反射的にサラリアは持っていた詩集をラーシュに見せる。ただこれを読んでいただけで他意はない、と言うように。



「詩集、か……見ても?」


ラーシュが読みたい本を指名することは珍しくない。いつも通り本を持って、ラーシュの前に立って「どうぞ」と渡せばいいだけなのに何となく『それはしちゃいけない』とサラリアの本能が警鐘を鳴らすから、サラリアは詩集をカウンターの上に置いた。


「どうぞ」

「……うん」


そう言ったのに、ラーシュはなぜか戸口に立ったまま後ろを見て、空を仰ぎみる。



「うん」


大きく深呼吸したあとそう言って向き直ったラーシュはいつも通り『お客様』で、サラリアは微笑を浮かべる。


「いらっしゃいませ」


自分の体から力が抜けたことに、自分の顔が安堵の表情を浮かべたことにサラリアは気づいていなかった。そんなサラリアとは対照的に『それ』に気づいていたラーシュは苦笑を本を探す振りをして隠した。



 ◇



「鳥族は昔から歌が上手い。当代の双女王もとても美しい声で歌うと評判だ」

「そう女王?」


チキンソテーを食べながら相応しい話題だろうかと考えながら、サラリアは尋ねた。



「鳥族の国は二人の女王が治めている。青空を舞う陽の女王と月夜を舞う陰の女王。当代の女王は先代の陰の女王だったカラ様が産んだ双子の女王だ」


空を飛ぶ羽根を持たず、海をいく鱗もない人族にとって竜族・鳥族・魚族は未知の部分が多い。人族の知ることは多くが想像でしかなかった物が多いことをサラリアはドラコニアにきて知った。



「カラ様も双子だったのですか?」

「……ああ」


ラーシュの顔が苦いものでも食べたような表情になる。


ラーシュはときどきこのような表情をする。そんなときサラリアが思い出すのはラパンから聞いたラーシュの幼少期の話。だからこれ以上は踏み込まない。


慰めたくなったら困るから。


「付け合わせのピーマン、トールが収穫したんですよ」


だから苦みの理由を誤解してみせる。



「分かっている。好きではないが食べる」



特に味付けをせず料理は素材の味という竜族。


甘いフルーツや野菜の中でも甘みのあるトマト、カボチャなどは好むが、葉物やピーマンなど苦いと感じる野菜は嫌い。だからサラリアはいつも店ではサラダを中心に野菜を出す。金髪姫としての美貌を保つためか王女時代のサラリアの食事は野菜中心だったから野菜料理のレパートリーは多い。


これは竜族へのサラリアの復讐。


サラリアのブックカフェの客は九割が竜人。竜族の国なのだから当然なのだが店は結構繁盛していて、『人族』と自分を見下していた竜人たちが『王竜様の母君がやっている店だから』で通ってくるのには思うところがある。いくら人族の料理が認められていたとしても、だ。


だから意趣返しとしてサラリアは料理に野菜をふんだんに使っている。


『王竜トールが手ずから収穫した』とメニューに書けば、王竜を生き神のように思っている竜人が無視するわけがない。サラリアは『野菜だぞっ』と野菜を前面に出した見た目でまずは精神を抉り、素材の味をしっかり生かして苦みはキープしている。肌によい栄養を逃がさないようにと生野菜サラダ中心だった自分の王女時代の食生活に感謝するときもある。


苦みに耐えながら必死に咀嚼する竜人たち、そしてラーシュを見てサラリアは留飲を下げている。



「しかし『トールが採った』は狡いのではないか?」


最初の頃は気づかなかったようだが、いまはラーシュもサラリアの意図に気づいている。それでもサラリアは素知らぬ振りで首を傾げる。


「それならばお食べにならなければよろしいのでは? 陛下がお食べになろうとならなかろうと、お代に変わりはありませんもの」



(……例外もいるけれど)



「おお、美味しいですぞ! 流石トール様です、美味しいピーマンを選ぶ才能までおありとは」


例外はトールの護衛騎士ガイゼル。


ウィンドスケイル公爵家の長男で、オーレリウスのあの兄。出家して神殿の聖騎士隊の騎士だったが、『裏がなくて楽そう』というサラリアの指名で近衛騎士に復活し、トールの護衛騎士に任命された。


その辞令をオーレリウスから受けたとき彼は『夢では!?』と思った。夢なら覚めないでほしいと思いながら引継ぎをすませ、トールの前で騎士の礼をとってぶっ倒れた。極度の緊張と寝不足だった。



(なんかこうって気持ちなんだけど憎めないのよね……楽だし)


同じ目線で遊んでくれるからトールは満足、遊びつつも危ないときはきちんと止めてくれるからサラリアは満足。


単純に武力だけなら竜族で一、二を争うというし、足りないところはオーレリウスがきちんと補うと言っているからサラリアは安心。


月一贈られてきたガイゼルからの貢ぎ物に味をしめていたトールがずる賢くカイゼルにあれやこれやと強請るのには困ったが、他に使い道はないからとガイゼル本人は至極嬉しそうだし、オーレリウスがガイゼルの経済状態をちゃんとチェックしているとのことでサラリアは放っておくことにした。


オーレリウスの負担が日に日に増えているが、その点には目を瞑ることにした。


どちらにせよ、オーレリウスはいま頑張らなければいけない。なんとラパンが第五子を妊娠中……兎族はすごい。

第二章が始まります。第一話、note.9 は来週12月2日(火)20時に公開します。


ここまで読んでいただきありがとうございます。ブクマや下の☆を押しての評価をいただけると嬉しいです。

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