四、夢から覚めると…。
四、夢から覚めると…。
美根我達は、黄色く輝く道の手前に立って居た。
「来る時は、こんな道なんて、無かったんだが…」と、美根我は、眉間に皺を寄せた。黄色く輝く道に、見覚えが無いからだ。
「黄力の強い黄怪じゃないと、輝かないんですよ」と、黄太郎が、説明した。
「づら男も、黄怪の端くれだから、自分の足下の黄道を辿ってたんでしょう」と、萌娘が、補足した。
「だから、この森へ、迷い込んだのですね」と、美根我は、納得した。鬘の男が、黄怪ならば、納得だからだ。
「あいつも、昔は、ちゃんとした黄怪じゃったが、靄島が消えた日から、性根が腐ってしまったんじゃ」と、どんぶりが、嘆いた。
「あの怪我は、乙金婆の薬が、効きませんでしたねぇ~」と、黄太郎も、口添えした。
「そうなんですか…。だから、人を騙して居られるのですね」と、美根我は、理解を示した。“靄島空襲”が、悪影響を及ぼしている事を知ったからだ。
「づら男が、何かしたら、黄色いポストに投函してね。あたしが行って、ボコボコにしてあげるから!」と、萌娘が、ジャブを放ちながら、口にした。
「ははは…」と、美根我は、苦笑した。やる気満々にしか見えないからだ。
「早くせんと、帰られなくなるぞ!」と、どんぶりが、急かした。
「そ、そうですね」と、美根我も、応じた。そして、黄色く輝く道へ、踏み入った。少し進んで、立ち止まった。礼を述べていない事に気が付いたからだ。その直後、振り返った。次の瞬間、道は無く、鬱蒼とした茂みだった。それを視認するなり、「進むしかないんですね…」と、溜め息を吐いた。程無くして、背を向けるなり、前進を始めた。しばらくして、出口と思われる場所へ辿り着いた。間も無く、橙色眩い光に包まれた。その途端、「うわ! 眩しい!」と、顔を顰めた。斜陽の光が、目に入ったからだ。咄嗟に、顔を背けた。その刹那、黄桜の幹が、視界に入った。その瞬間、「私は、まだ、ピピピの森に…」と、息を呑んだ。
そこへ、「美根我さーん!」と、背後から男性の声がした。
美根我は、振り返った。その直後、見慣れた校舎から、見覚えの有る壮年の男性と富士枝似の女の子が、歩み寄って来た。
少しして、二人が、立ち止まった。
美根我は、富士枝似の女の子を一瞥して、「江来さん。その子は?」と、尋ねた。まるで、娘が、生き返ったようだからだ。
「街で彷徨いて居たのを保護したのですよ」と、江来が、告げた。
「お嬢ちゃん、お名前は?」と、美根我は、やんわりと問い掛けた。
その瞬間、富士枝似の女の子が、反転して、校舎へ向かって駆け出した。
「美根我さん。大晦日は、私も残ろうか?」と、江来が、申し入れた。
「江来さんは、御家族とお過ごし下さい」と、美根我は、断った。そして、「まだ、数日有りますので、何とかなるでしょう」と、あっけらかんと言った。なるようにしかならないからだ。
「そうですか…。三ヶ日が済みましたら、すぐに戻りますので…」と、江来も、踵を返した。
「富士枝のように、接するぞ」と、美根我は、意気込んだ。
数日後の大晦日に、正夢となるのだった。