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美根我の正夢の時間  作者: しろ組
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三、予言

三、予言


 二人は、黄桜の巨木に行き当たった。

「美根我さん、言った通りでしょ?」と、鬘の男が、どや顔で、告げた。

「ええ。まあ…」と、美根我は、曖昧(あいまい)な返事をした。先の物件の通り、黄桜の巨木は在るからだ。そして、「お知り合いは、どちらに?」と、尋ねた。人が居るような気がしないからだ。

「ちょっと、待って下さいね」と、鬘の男が、()け反った。そして、「おーい! 黄太郎ーっ!」と、呼び掛けた。

 その直後、「づら()! てめぇ! どの面下げて、戻って来た!」と、富士枝と同い年くらいのヒラヒラの付いた洋服を着た女の子が、降りて来た。そして、間髪容れずに、右手で、鬘の男の胸ぐらを掴み上げた。

「も、萌娘(もえむすめ)、ちょっと、待ってくれ…」と、鬘の男が、気を失った。

「ちっ! あたしを人買いに売りやがってよ! この落とし前は、きっちり付けさせて貰うからね!」と、萌娘が、突き放した。

「あのう。ちょっと、よろしいですか…?」と、美根我は、恐る恐る声を掛けた。鬘の男みたいに、締め上げられるかも知れないからだ。

「ん? あんたも、こいつの仲間?」と、萌娘が、つっけんどんに、問うた。

「いえいえ。この方に付いて来たら、この森へ迷い込んでしまったのですよ」と、美根我は、理由を述べた。ある意味、自分も被害者だからだ。

 萌娘が、値踏みするように見詰めた。しばらくして、「そうね。こいつとあんたとでは、お仲間にしては、雰囲気が違うもんね」と、見解を述べた。

「黄太郎さんに、会わせて頂けませんか? この森から出られる方法を存じていると、聞かされたもので…」と、美根我は、用件を伝えた。萌娘ならば、間違い無いと思ったからだ。

「そうね。あんた、人間だから、多分、自力で、この森を出るのは、不可能でしょうね」と、萌娘が、告げた。そして、「じゃあ、ここで待っててね」と、萌娘が、踵を返して、巨木をよじ登って行った。

 間もなく、「ふぅ~。行ったみたいだな…」と、鬘の男が、頃合いを見計らうかのように、上半身を起こした。そして、「あいつにボコられないうちに、俺は、ずらからせて貰うぜ」と、立ち上がるなり、足早に、引き返した。

 少しして、萌娘が、飛び下りて来た。そして、着地するなり、「おっさん、づら男の奴は?」と、尋ねた。

「あの後、気が付かれますと、逃げるように行っちゃいましたよ」と、美根我は、回答した。

「あいつ、気絶した振りをして居たのね!」と、萌娘が、憤慨した。

 そこへ、左手に、黄色い玉の入ったどんぶりを持った黄色と茶色の柄が、織り込まれているちゃんちゃんこの少年が、下りて来た。そして、萌娘の右側へ立つなり、「萌娘、この人かい?」と、質問した。

「ええ。そうよ」と、萌娘が、頷いた。

「づら男の姿は、無いみたいじゃな」と、どんぶりから声がした。

 その瞬間、「ど、どんぶりが、喋った!」と、美根我は、度肝を抜かれた。他に、人影は無いからだ。

「父さん、いきなり声を出されては困りますよ」と、ちゃんちゃんこの少年が、窘めた。

「そうじゃったのう。少々、迂闊(うかつ)じゃったわい」と、どんぶりが、返答した。

「あのぅ。腹話術か、何かですか?」と、美根我は、眉を顰めた。そのようにしか見えないからだ。

「腹話術じゃないですよ」と、ちゃんちゃんこの少年が、否定した。そして、「僕達は、黄怪(こうかい)なんですよ」と、告げた。

「ええ!」と、美根我は、目を瞬かせた。どう見ても、人間の子供にしか見えないからだ。

「わしらは、正真正銘の“黄怪”じゃ。お主には、信じられんじゃろうがのう」と、どんぶりが、淡々と言った。

「え、ええ…」と、美根我は、頷いた。無理が有るからだ。

「父さん、一つだけ、黄力(ちから)を使ってみては、どうですか?」と、ちゃんちゃんこの少年が、提言した。

「そうじゃのう。これから起こる事でも、予言してあげようかのう。づら男が、迷惑を掛けたようだし」と、どんぶりが、応じた。

「ははは。こんな私に、予言だなんて。どうせ、碌な事ではないのでしょうね」と、美根我は、嘆息した。悪い事を言われるに決まっているからだ。

「いいや。大晦日に、娘が出来るぞ!」と、どんぶりが、自信満々に、告知した。

「はあ」と、美根我は、生返事をした。現時点では、見込み無しだからだ。

「父さんは、づら男みたいな出任せは言いません。それに、悪い予言はしません」と、ちゃんちゃんこの少年が、口添えした。

「分かったよ。君に、免じて、信じるよ」と、美根我は、聞き入れた。何と無く、微笑ましいからだ。

「黄太郎よ。この方を、黄道(きみち)まで、送って差し上げなさい」と、どんぶりが、促した。

「はい」と、黄太郎が、返事をした。

「ちょっと、待って下さい。お気持ちは、ありがたいのですが、出来れば、そちらの娘さんに、お願いしたいのですが…」と、美根我は、要請した。富士枝と歩いている気分だけでも、黄道へ着くまで、満喫したいからだ。

「萌娘、どうじゃ?」と、どんぶりが、問うた。

「黄太郎が、付いて来てくれるんだったら、構わないわ」と、萌娘が、目配せをした。

「散歩がてら、良いよ」と、黄太郎も、快諾した。

 間も無く、美根我達は、黄桜の巨木を後にするのだった。

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