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美根我の正夢の時間  作者: しろ組
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二、現場

二、現場


 美根我は、鬘の男の後に付いて行った。そして、瞬く間に、煙突の(そび)える建物が、視界に入った。

「美根我さん。あれが、軍の施設です」と、鬘の男が、右手で指しながら、告げた。

「古びてますけど、しっかりとした造りですねぇ」と、美根我は、感想を述べた。コンクリートで造られた建物だからだ。

 突然、鬘の男が、歩を止めるなり、「美根我さん、ここまでです…」と、告げた。

 少し後れて、美根我も、立ち止まり、「どうしてですか?」と、怪訝な顔をした。理由を知りたいからだ。

 その間に、鬘の男が、振り返り、「軍関係の物をそのままにして居ますので、ちょっと…その…」と、あやふやな返答をした。

「軍関係の物と申しますと?」と、美根我は、詰問した。今更、敗戦国の軍の物なんぞ、何の意味も無いからだ。

「いや、進駐軍の方でして、“靄島”へ投下した爆弾に関する資料を置いて居るんですよ~」と、鬘の男が、理由を述べた。

 その瞬間、美根我は、怒りに、全身を震わせた。妻と娘を殺害した爆弾の事を知り得る真相が、眼の前に在るからだ。

「おい! ここから先は、立入禁止だぞ!」と、迷彩柄の軍服の進駐軍の白髪頭の兵士が、裏手から駆け寄って来た。

「美根我さん、逃げましょう!」と、鬘の男が、提言した。

「あ、あいつは!」と、美根我は、両目を見開いた。元上司の灰吉だからだ。

 灰吉が、問答無用で、発砲して来た。

 二人は、慌てて踵を返した。そして、気が付けば、黄桜の下に立って居た。

「ここは、何処ですかねぇ」と、美根我は、周囲を見回した。何処だか、判らないからだ。

「美根我さん。どうやら、ピピピの森へ迷い込んだかも知れませんよ」と、鬘の男が、口にした。

「何か、不味い事でも?」と、美根我は、問うた。それほど歩いて居ないから、引き返せば、来た道へ戻られると思ったからだ。

「う〜ん。ピピピの森は、出口が無いんですよ」と、鬘の男が、頭を振った。

「そうなんですか…」と、美根我は、聞き入れた。どうせ、独り身なので、迷い込んだところで、どうって事ないからだ。

「美根我さん。よく、落ち着いて居られますねぇ」と、鬘の男が、感心した。

「ははは。妻と娘の居ない人生なんて、生きて居たって、仕方が無いですからね」と、美根我は、淡々と言った。生きて居ても、生きる意味を見出だせないからだ。

「美根我さん、俺の知り合いが、ピピピの森に住んで居るのを思い出したよ。ひょっとすると、出られるかも知れないよ」と、鬘の男が、口にした。

「気休めでしたら、止して下さい…」と、美根我は、溜め息を吐いた。当てにならないからだ。

「この黄桜の木よりも、大きな木の上に住んで居る奴なんですよ」と、鬘の男が、語った。

「しかし…」と、美根我は、難色を示した。先刻の件があるので、今度ばかりは、乗っかるのに、一考するべきだからだ。

「美根我さん、俺は、こんな所で、人生を終わるのなんて御免だぜ。まだまだ、やりたい事が有るからよ!」と、鬘の男が、宣言した。そして、「ここで、くたばるのは、あんたの自由だ。けれど、俺は、付き合う気は無いから、行かせて貰うぜ」と、歩き始めた。

「分かりましたよ。こんな、情けない姿を二人には、見せられませんね」と、美根我は、自嘲した。生きたいのに、殺された二人に、生きる事を諦めるのは、失礼だからだ。そして、「今度は、騙さないで下さいよ」と、追った。

「ひ、人聞きの悪い事は、言わないで下さい!」と、鬘の男が、語気を荒らげた。

 二人は、黄桜の木を後にするのだった。

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