時戻しの悪魔と笑わない悪魔
趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。
全く違う、と思っていた人でも共通点はあるもんです。
私はリコッタ・フォルムン。選ばれた悪魔が所属する“悪魔統制機関”に所属している、正真正銘の悪魔だ。
そもそも悪魔とは膨大な魔力を持ち、どんな願いも叶える「契約」を行うことで生きながらえる存在。欲望と代償のバランスを吊りかねていることから、契約は基本悪魔優位。しかし契約をするかの決定は、結ぶ側にある。中にはそれを侵害して契約を強要したり、契約後にも契約者に介入したりと、みだりに自分優位を目指す悪魔がいる。
そんな不届き者は、すぐさま取り締まらなければならない。契約の中立性を違反した悪魔たちを捕らえ、更生として「措置」を行う。それが私の役目だ。
よく同僚から「冷静沈着」「容赦がない」と言われる。でも違反を犯した悪魔には、それくらいの対応でいなければいけない。2度と道を踏み外さぬようにすべきだ。そう、道を踏み外した悪魔には、容赦など必要ない。
「リコッタちゃ~ん、今日も無表情だねぇ。まぁそんな顔が好みなんだけど」
この小生意気な声を聞くだけで、胃痛が起こってしまう。厳重な魔術封じを施した檻には、とりわけ重罪を犯した悪魔が収容される。そこから声をかけてきた悪魔は、現時点において最も措置を急がなければならない。
奴は時戻しの悪魔、ここでは悪魔オゥラ。その名の通り時を戻す力を極めており、代償はほとんど契約者の破滅を言い渡す。厄介なのは契約者とその周囲の人物を巻き込み、周囲に工作を加えて、時戻しの契約を何度も繰り返させていたこと。今まで多くの詐欺並みの悪事を起こしていたけど、私の潜入捜査による現行犯逮捕により、ようやく捕縛に成功した。
だがここでの収容後も、こうした人を小馬鹿にする態度は変わらない。ここでの措置を、他の悪魔より厳重に行わないと・・・再犯者となる可能性が高い。朝に行うカウンセリング、誰もやりたがらないため私が出された。私が捕縛したのだから、当然と言えば当然だけど。
「リコッタちゃんリコッタちゃん、多分眼鏡外した方が可愛いよ?」
私語を慎まず、ヒョイと眼鏡を取るなんて・・・自らの立場を分かっていないのかしら。愛用の銃で1発、威嚇射撃をする(組織では認められた使用だ)。
「アハハ、流石の腕前。テムポット公爵兄妹との契約取り消しも、その腕あってのことだよねぇ」
「またそれ、随分粘着しているのね。護送中に脱走した挙げ句に、隠居した彼らを見にいくなんて」
「粘着じゃないよ~。ほら、親戚が幼い子を見て心配するような親心?みたいなやつでぇ」
私語は慎みなさいと、再度発砲する。悪魔という種族は無駄に生命力があるから、これくらいではかすり傷にもならないだろうけど。いつまで経っても減らず口を叩くのは、なんとか改善させないと・・・。
「でもさぁ、リコッタちゃんもそうでしょ?あの2人を何年も見てる内に、自然と親心というか・・・なにかと見守りたい感覚になっちゃったよね」
「・・・私を巻き込まないで。あの潜入捜査は、貴方の現行犯を待っていただけ。そして被害者を保護したに過ぎないわ」
「でもそれってさぁ、悪魔統制機関のやり方に違反しな~い?人間には干渉しちゃダメとか、存在を知られちゃダメとか、色々あったじゃーん」
・・・そうだ。本来、人間に直接干渉する潜入捜査自体が悪手。だから私は表から下ろされ、こうして収容所での任務に回された。
「それでも、貴方を止める手段はこれしか無かった。だからしただけ、それ以上も以下もない」
「またまたぁ、君もテムポット兄妹を見て親心できたんでしょ?イザベラに勉強教えてあげたし、カーヴェルの相談も引き受けてあげたし。国王への進言も、君が裏で手を回してあげたじゃん」
「・・・・・・」
「・・・まぁ、これはあくまで俺の想像だから。俺は嬉しかっただけだよ?同じ悪魔で、同じように人間を見守ってて良いんだ~って思えて。ぶっちゃけ、人間に興味があるんだよね!同類が1人でもいると、安心するタチでさ~」
・・・そう、同じなのね。ずっとずっと冷酷やら笑わないやら言われてるけど、本当は人間にずっと興味があった。前世は人間だったんじゃないかと思うくらい、勉強も生活も憧れた。いつしか自分がおかしいと思って、感情も何もかも封印してたら・・・いつの間にか「笑わない悪魔」になっていた。
そんな私が違反者の、笑い続ける時戻しの悪魔と同類とは・・・変な気分。
「あ、なんか嬉しそうな顔してるね。リコちゃん」
ニヤッと犬歯を出して笑った彼。勝手にあだ名を付けた挙げ句に頬を触れられたので、2発命中させてやった。そうしている内に、時間が来てしまったみたいね。あぁ、相変わらず頭が痛い・・・。
「リコちゃんがいるなら、俺ここでのんびりしてるからさ。また会えるよね~。ね?」
「数十分後に更生プログラムがあるから、それの用意をなさい」
そう言い残して、私は檻を後にする。いつまでも無邪気に手を振るなんて、全く・・・本当に掴めない悪魔ね。こんな奴と同類とは・・・自分に呆れるような、ようやく見つけられて嬉しいような。
左遷されても、完全な闇じゃなかった。少しだけ光はあった。そういうことにしておきましょう。
fin.
読んでいただきありがとうございます!
楽しんでいただければ幸いです。