闇
三題噺もどき―にひゃくはちじゅうよん。
暗い。
暗い。
闇が広がる。
どこまでも。
どこまでも。
深く。
深く。
闇が。
「……」
一度、深夜に外に出たことがあるが、あの時に見たものよりも。
さらに、深い……夜。
深夜とは言っても、あの時は街灯がたっていたりしたし。
人の気配が……いくらかあった。猫の目が暗闇に浮かんでいたりもした。
「……」
でも、今は。
灯りはひとつも無いし。
人の気配がしていない。
生き物の、息遣いすらない。
「……」
人間も、動物も、植物も。
空も、星も、月も。
何もかもが、消えてなくなったような。
自分以外の全てが、消滅したような。
「……」
周りを見渡しても、何もかんじない。
何も見えない。
暗い闇が広がるだけ。
「……」
その上、なぜだか酷く寒い。
全身が凍える。
季節はもう夏のはずなのに。
これはまるで、冬のようだ。
「……」
いや、たとえ冬だとしても、ここまで寒くないかもしれない。
全身が差されているように痛い。
漏れる呼吸は真っ白。
カタカタと手先が震える。
肺が凍るのではないかと思うほどに冷たい。
「……」
ここが地獄の底だと言われても、信じてしまうかもしれない。
闇がひたすらに広がるだけ。
感じたこともない寒さに震え。
孤独に怯える。
「……」
まだ鬼がいた方がましだ。
炎が燃え上がっていた方がマシだ。
他に人がいた方がマシだ。
悲鳴でもなんでも、怒号でもなんでも、聞こえた方がいい。
「……」
どうにかして、逃げ出したいけれど。
何故か足が動かない。
ピクリとも、力が入らない。
寒さのせいかと思いはしたが……それにしてもおかしい。
いくらなんでも。
「……」
あぁ……どうしよう。
どうにも出来ないと言うことしか分からない。
何も変えようがないということしか分からない。
変わらぬままを受け入れることしか出来ない。
闇と孤独に怯え続けるしかない。
それしか出来ない。
「……」
こわい。
恐ろしい。
こわい。
こわい。
恐ろしい。
「……」
不安が全身を襲う。
恐怖に体が固まる。
呼吸が早くなる。
心臓がうるさくなる。
「……」
どうしよう。どうしよう。
どうしたらいい。どうしたらいい。
何をしたら。何を。どうしたら。
どうして。どうして。
何故こんなことに。なぜ。なぜ。
「……」
ただ怯えたまま。
ただ震えたまま。
「……」
ひとりで。
体を抱えて。
「……」
見慣れた天井。
部屋に広がる暗闇。
梅雨時期特有の蒸し暑さ。
「……」
だと言うに。
支配する恐怖。
止まらぬ震え。
「……」
何も変わらない。
いつもの日々を。
今日も始める。
お題:深夜・冬・猫