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ただの生理現象  作者: 桝克人
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ただの生理現象【一騎】

私は量産型のAIロボットのひとつだ。型番S型-584632として製作された。作られていく過程を覚えているわけではないが、一番初めの記憶はまだ体を持たない頃だ。一律に最低限のロボットらしき能力―――昔で言うところのコンピューターのようなもの———を所持しているだけである。他の機体がどうかは私にはわからない。しかし私にはその頃の記憶がある。私たちを作った技術者たちが他愛ない話をするのだ。仕事が辛いと愚痴ばかり吐く者もいれば、異様に私たちに感情移入をして子供のように話しかける者もいる。大抵は取るに足らないものばかりだ。


審査に通ったロボットは身体を与えられる。もし人間とロボットを並べて、どちらが人間かと問われてもすぐには答えられない程精巧な造りだ。皮膚の開発に拘った技術者は「人と見間違うほどのロボットの方が大事にされる」と言ったそうだ。柔らかい皮膚と適切な体温は安心させるのだとか。


私は注文通りの外見をした身体を与えられ何事もなく出荷された。そう理解したのは、起動して『一騎』という新たな名前を付けられた時だ。目の前の人間はあどけなさが残る十八歳の女性だった。頬を染めてはにかんだ顔がこの目にとらえた最初の映像だった。


どこにも不具合はなく家庭用のロボットとしての役割は果たせている———はずだ。私の持ち主美玖様がどう思われているかはわからないが、少なくとも私はロボットAIとしての最低限の役目をこなしている。


美玖様からは身の回りの世話だけでなく、愛玩ロボットとの役割を仰せつかった。友人以上、恋人未満として接するようにと。具体的には約八百年前に女性の間で流行ったレトロゲーム『私の守護騎士様』というゲームの主要キャラクターである蘇芳一騎(すおうかずき)のような性格で接するようにと言いつけられる。恐れ多くも美玖様を呼び捨て、親し気に話すようになった。それで主人が喜ぶのであればそれに越したことはない。

蘇芳一騎はゲームの主人公の同級生であり、主人公をお守りする騎士だ。普段は友達として距離を保ち、戦闘になると身を挺して守る。まさに身の回りの世話をして外敵から主人を守る、家庭用ロボットの私にぴったりなキャラクター像だ。親し気に話すこと以外で私の初期設定の性格を含めた機能と差異はない。しかし美玖様はキャラクターをなぞらえるように言いつけながらも、細やかな設定とは異なることを仰る。ご自身に自覚があるのか判断できないが、本来のキャラクターに美玖様がオリジナリティを加えられたのだと推測する。


美玖様から言いつけられた設定に倣って私は一騎を演じて役目を果たす。一つ屋根の下に暮らす男女がつかず離れずの生活をする体で暮らしている。最近では美玖様からの言動などの指摘もない。しかし美玖様が最初に想定していたつかず離れずより、私から少し歩み寄る距離が好まれる。手を繋ぐことや、時折抱擁を求められることもある。それを恥ずかしがられることもあったが、今では彼女の方から触れられることも多くなった。


私はプログラミングされた通りに感情を表し言葉を紡ぐ。喜怒哀楽は知識として表すことはできても、人間と同じように心があるわけではない。美玖様が喜べば、私も『喜』を表現し共に笑う。美玖様が悲しめば私は『哀』を表現し寄り添う。その時彼女が一番欲している言葉をかけるようなプログラミングだ。


だからふと目にした景色(夕焼け)が身体を硬直させて足を止め、それどころか彼女の言葉が耳に入らないなんてことはロボットとしてあり得ない。二度目の声掛けに振り返って、夕焼けに染まる彼女が綺麗だと思うのはそう学習したからだろうか。こみ上げる不確かなナニカの正体を検索しても正しい名前が解らない。もしかしたら学習能力にバグが出たのかもしれない。不信がられた彼女を宥めるように私は初めて嘘をついた。空模様だけで天気を判断するなど考えられない。

早くリセットするか、返品してもらわないと、ナニカが壊れそうだ。

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