え
二十歳になり、私は思いきって実家から出て、アパートで一人暮らしを始めた。
一人暮らしなので、仕事をしながら炊事や洗濯など、家のことも一人でこなさなきゃならないのだけど…その、炊事や洗濯などをあまり手伝っていなかった私は、毎日四苦八苦しながら一人でこなしていた。
けど、毎日やってると慣れてきて、スムーズにできるようになると楽しくなってきて。
そんな、一人暮らしにも家事にも慣れてきた、ある日のこと。
仕事から帰ってきて、スマホで猫の動画を見て癒されていると。
「…ん?」
どこからか、微かな人の声がした。
最初は、お隣さんや下の階の人の話し声かな、と思ったけど、その微かな声は、ちょっと高いところから聞こえてくる感じだった。
因みに私の部屋は、角部屋の最上階で。上の階なんてない。それに、屋上もないし。
「え~…?どこから聞こえるんだろ?」
両耳に手を当て耳を澄ましながら、声の在処を探す。
「……」
『… … ………』
微かに、そこから声がした。
人…だけど、人ではないと言うか。機械越しから聞こえる人の声…───そう、ラジオの声だ。
そのラジオの声が、微かにそこからする。
天袋から。
「…あ、もしかして、前にここに住んでた人がラジオでも置き忘れて、ネズミか何かがボタンを押しちゃった…とか?」
そう声に出し、恐怖を誤魔化しながら私は、その天袋をゆぅっくりと…開けた。
──────スゥー…カコッ。
『~さんからのお便りです。ありがとうございます!』
天袋を開けると、そよ風ほどの微かだった声が、すこおしだけ大きくなった。やはり、ラジオの声で、大音量にでもしているのか、イヤホンからその声が漏れていた。
そのイヤホンをしている人は、私が天袋を開けると、横たわった体勢のまま、首だけゆぅっくりと私の方に振り向き、そしてちいさく、一言だけこう言った。
「え」
※※※
その後、その天袋で横たわってラジオを聞いていた50代の女性は、抵抗することなく私と一緒に警察へと行き、逮捕された。
話によるとその女性は、家賃を滞納してアパートから追い出されたとのこと。
…その追い出されたアパートが、私の住むアパートで、しかも私が居る部屋に住んでいた…とか。
私がその部屋に引っ越してきてすぐ、その女性は天袋でひっそりと生活していたそうだ…………