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憤怒の獣を律する心


 後日、ディスティアリーズの総帥バーストラルはヒーロー連合から緊急招集を受ける。

 そこは、まるで裁判場の様になっていた。


 大量のヒーロー達が高いところから部屋の中央にいるバーストラルを見下(みお)ろす。

 尊厳とか、リスペクトとか、そういう物は一切感じられない。

 正義の味方とは思えない程の、見下(みくだ)す様な一方的な感情をバーストラルは感じた。


「それではバーストラル。さっそくだがこれを見たまえ」

 一番高いところにいる一番偉そうなおっさんはジロリと睨む様な視線のままそう言った。

 それはヒーローでも何でもない。

 ただ連合職員というだけ。


 それなのに、公的な名目で呼び付けたバーストラルに組織名も敬称もつけなかった。


 彼らがバーストラルに見せたのはこの前の時に現われた男の映像だった。

 蛮族の様な鎧姿の男。

 それだけなら大した問題はない。

 だが……その男は事もあろうにナンバーワンヒーローのミスターパーフェクトであるオーキッドと対等に戦ってのけてしまった。

 オーキッドの一撃を受けとめられる存在はそう多くない。

 正義悪合わせても、この世界で二十人もいないだろう。

 それにもかかわらず、この男はオーキッドの攻撃を何度も受け、対等に戦い、しかも軽い傷までつけた。

 オーキッドはワントップのヒーローであり、オンリーワンの最強である。

 対等に戦える相手がいない位には

 

 つまり、この未知な鎧のヴィラんは、この時点で自動的に世界第二位の戦力保有者として認定される事となる。

 そんなランキングを変える様なとんでも存在が、何の前ぶれもなく在野からいきなり現れてしまった。

 しかもヴィランとして。

 それの調査は連合として、正義のヒーローとして、最重要課題であると言っても良かった。


「聞きたい事はただ一つ、貴様らに助力したこの男は誰だ?」

 バーストラルは無表情のまま答えた。

「知りませぬな」

「嘘を付くな! 貴様組織の同盟相手であろうが!?」

「いえ、調べて頂いたら結構です。そもそも、我々は同盟相手は当然、職員給料から組織員全員の新興宗教まで全て余すところなく連合にお伝えしておりますが」

「どうせ嘘だろうが」

「そう思うならどうぞお調べ下さい」

「……ちっ。だったらもう良い。下がれ」

「――話はそれだけでしょうか?」

「ああ。これだけだ」

「本当に、それだけですか?」

「……何が言いたい?」

「不当な状況に追い込まれ、組織壊滅に加え数名の重傷者を出した我々ディスティアリーズに対し、連合から告げる事は何もないのかと尋ねているのですが」

 そう、バーストラルは言葉にした。

 その様子は淡々とした物であり、だからこそ、周囲のヒーロー達はその怒りの深さに気がついていた。

 それに気づかないのは、連合職員位の物である。


「不幸な事故だろうが。我々には何の関係もない」

「私達への処罰を決めたのは連合のはずですが」

「我々は規則に乗っ取り発令しただけだ! 騙された我々も被害者であるのになんだその言いぐさは!」

「……つまり、連合は我々に賠償どころか謝罪の一つもするつもりはないと。そう言う事ですか?」

「当然だ。何故我われが貴様ら悪の組織程度の奴らに頭を下げねばならぬ。私の頭はそれほど軽くない。貴様らもそう思うであろう! 悪に屈する事のないヒーロー達よ!」

 同意を求め、護衛として集めた百人の超えるヒーロー達に男は同意を求める。


 だが……。


「正義の味方が連合を介し動いた事によって、彼らは被害を被った。彼らの怒りも、その道理も正しい。被害者に対しヒーローが嘘をついた事を免罪符としてはならない」

「我々は悪に屈してはならない。それはつまり、我々は間違っていないからこそ正義という事だ。悪い事をして謝罪をしないのを正義とは俺は思わない」

「彼、バーストラル総帥の息子は今回の騒動で意識昏睡となり生死の境を彷徨った。そんな状況に追い込んでおいてその言いぐさが正義ではない」

 ぽつりぽつりと、ヒーロー達は意見を口にする。


 その意見は連合の男の意見とは反対で、皆バーストラルを庇う様な内容だった。

 そもそも、事件の真相を知ったらそうなるのが当たり前である。


 麻薬密売なんてしていた本当の意味での悪の組織が正義の組織と癒着して不利益なデマが広められた。

 正義の組織が自分とこのヒーローの失態を隠す為にそのデマに乗りディスティアリーズを潰そうとした。

 その潰そうとした正義の組織の言う事を信じ連合はディスティアリーズにを本物の悪と認定した。

 そして駆り出されたヒーローの大半はそれを疑わず彼の基地を徹底的に破壊し同時に数名の重傷者を出した。


 更に付け足すなら、ヒーロー陣営で負傷したのはただ独り、新人のシルバーナイトだけ。

 しかも彼の負傷は謎の男による物。

 つまり、ディスティアリーズは一切反撃せず逃げに徹したという事である。


 一方的に逃げる相手を、何の釈明も聞かず皆殺しにしようとした。

 しかも、無関係の孤児含めて。


 それを聞いて良しとするヒーローなんている訳がなかった。


「き……貴様ら……それでもヒーローか! こいつらは悪だ! 法を破る悪の組織の一員だ! 今この場で処分しても罪に問われない、そんな奴だぞ!」

「いえ、この前の様な『大罪証明』が出ていない限りその権限は誰にもありません。我々ヒーローは無秩序な暴力装置ではなく、正義を遵守する連合の意思を組む同士ですから」

「だから、連合であるワシこそ正義であるだろうが!」

 嫌味である事さえ気づかない男に対し、ヒーロー達は怒りより先に憐憫を覚えた。


「もう良い! お前らじゃ話にならん! えと……」

 男は書類を見ながら周囲を探し、そして目的の相手が見つかるとヒーローの中にいる男を名指しで呼んだ。


「お前だ! ラッシュクロー! ディスティアリーズ担当のお前はどう思う! こいつら悪の組織に苦しめられたお前なら――」

 ラッシュクローと呼ばれた男、零士はタバコをふかし、足をテーブルの上にあげた。


「ら、ラッシュクロー?」

「……あんたがそんな態度取るんならさ、俺、抜けるわ」

「……は?」

「正義の味方とかいうおままごと、バックれるっつってんだよボケが」

 チンピラにしか思えない態度のまま零士はそうはっきりと言葉にした。


「や、止めるって……崇高な正義の使命を……」

「おう、それだそれ。そのすーこーなるしめいって奴? ま、俺も多少はそんなもんがあるなって思ってこんなナリでもまあやってやろうっておもってたさ。……で、これがあんたの言うすーこーなるなんたらって奴か? よってたかって相手の大切なもんぶっこわして、そんで悪びれもせず見下すのがすーこーなのか? だったらそんなもんこっちから願い下げだ」

「ま、待ちたまえ。君には才能が……」

「才能とか、力とか、そんなもんじゃねーだろうがよ! そんな物が正義なのかよ!? あんたらみたいなのが正義の旗本だっつーんならそりゃ正義でもなんでもねぇ。だたの暴力だ!」

 そう言って、零士はケラケラと男を嘲笑った。


 怒らない訳がなかった。

 ライバルが理不尽な理由で壊され、そして今も一方的に責め立てられる立場にいる事に対し零士が怒らない訳がなかった。


「も、もう良い! 貴様ら減給は覚悟しておけよ!」

 そう捨て台詞を吐き男は逃げようとした。

「覚悟するのはあんたの方だっつーの」

 零士はそう言葉にし再度ケラケラ笑う。

「負け惜しみを!」

 そう言って、この場を集めた代表である男は逃げ去り、残ったのは呼び出された悪の組織と正義のヒーロー達だけになった。


「なあ零士。覚悟ってのは何かやらかすつもりなのかい? それなら一枚かませて欲しいんだけど……」

 零士の隣席のヒーローは零士にそう尋ねた。

「んー? そか。あんたは知らねーのか。いやさ、ディスティアリーズって正義と悪のガチの争いに巻き込まれた孤児を拾う慈善団体なんだよ」

「へぇ。立派だね」

「おう。んで、その孤児を集めた基地にさ、正義の味方が皆殺しに向かったってなったらさ、児童支援団体さんブチ切れるに決まってっしょ。連合のスポンサー様方である児童支援団体さん方もさ」

「……あぁ……そりゃ何をする必要もなく終わってるね。最悪正義の組織連合が非人道団体として世界規模のニュースに乗るよ。……どうしてそれであそこまで偉そうに出来たんだろうあの禿」

「更に言っとくけど、あいつら地元ですげー人気あるからな」

「どの位?」

「オーキッドとディスティアリーズどっちが好きかって言ったら九割がディスティアリーズに人気入れる位」

「なんでそんな事に……」

「地元密着してるからよ。良い意味で。子供会とかPTAとかそういうのにもそこのバーストラルは参加してるしな。場合によったらあいつ学校の臨時講師役になるそうだぞ」

「悪の組織の総帥が何を教えるの? 犯罪への対策? 護身術?」

「いや、料理」

「なんでまた……」

「得意だからだってさ。だから主婦層はみーんなバーストラルの味方」

「なるほどねぇ。それで零士。あんたはどうするんだ?」

「どうするって?」

「ヒーロー辞めるって話だよ」

「ああ。そりゃ言ったままだ。連合がバーストラルに正しい大人としての詫びを入れるなら残ってやる。そうじゃなかったら……」

「そうじゃなかったら?」

「俺もバーストラルに入るかね。幹部扱いにはなるだおうし」

 そんな冗談か本気かわからない事を口にし、零士は楽しそうに笑った。


「零士らしいね。とは言え、辞める前にやる事が一つある。零士もそれはわかってるよね?」

「当然だろ。……役者も揃ったみたいだしな」

 そう零士が言葉にした丁度その時、もう一人ヒーローがこの部屋に入って来る。


 ヒーローの名前はオーキッド。

 誰もが知る男である。


 そしてオーキッドが先程まで連合の男がいた席に着くと……彼らは一斉に、バーストラルに向かい謝罪の意を込め頭を下げた。


 連合の命令であり、彼らに責任も罪もない。

 だが、彼らは正義の味方である。

 例え責任がなかったとしても、己の良心が罪と認める事をそのままにする事など出来る訳がない。

 間違いをそのままにしてはいけない。

 己が間違えたのならそれを正さなければ、明日からまっすぐ生きる事が出来なくなる。


 彼らは、間違いなくヒーローだった。

 この場にいない、己の所属する組織の蛮行と自分の行動への責任を感じヒーローを辞めたシルバーナイトも含めて。


「………皆を代表し私が謝罪しよう! 済まない。我々ヒーローは君達に対し、そして子供達に対し行ってはならない事をした。この良心に恥じぬ行いであれば、我々はどの様な償いでもする覚悟がある。謝罪として我々に何を望むのか、何をすれば君達への贖罪となるのか、是非教えて欲しい」

 オーキッドの言葉に対し、バーストラルは首を横に振った。

「いえ、何も結構です。むしろ何か払ってもらっては困ります」

「何故?」

「罪は罪、罰は罰。今回の騒動で裏にいた悪の組織は潰しました。フロンティア―は連合により解散となりました。であれば、後罪を償っていないのは連合だけです。連合の罪をあなた方が肩代わりしてもらっては困りますね」

 バーストラルはそう言葉にし微笑んだ。


 そう、多くの子供達を苦しめた事も、我が子を殺されかけた事も、その全ての罪をバーストラルは連合へ償させるつもりだった。

 その膿を切除する痛みを持って、痛み分けとするのがバーストラルの怒りの吐き出し方。

 皆が正しいと思う事をしてくれた、大切な組織の皆の為に出来る、総帥としての責任の取り方だった。


「ああ。ですが一つだけ……贖罪とかそういう話ではなくただのお願いがあるのですが宜しいですか?」

「私、オーキッドの出来る事なら何なりと」

「今回のその映像。頂けないでしょうか?」

「映像って言うと……あの鎧姿のミスターアンノウンの事かい?」

「ええ。あの資料が欲しくて」

「なるほど、気持ちはわかるとも! 彼の様な実力者の戦いは確かに記録映像として残したい。というか私も欲しい。あの素晴らしき時間を忘れぬ為に。久方ぶりに血が沸き上がる様な感覚を覚えたよ! という訳でその事なら私から連合に掛け合おう。なぁにこれでもナンバーワンヒーローだ。その位の無茶は聞いてくれるだろうさ。ハハハハハ!」

 そう言って、オーキッドはいつもの高笑いを披露した。




 実を言えば、アレが誰かバーストラルは知っている。

 ブレンと最初にあった時、異世界から来たらしい時に来ていた砕けた鎧と酷似していたのだからわからない訳がない。

 だからこそ、どういう状況でそうなったのかバーストラルは理解している。


 自分の息子が誰かを護る為に立ち上がった事も、死ぬ程嫌いだった自分の過去を再び受け入れなければならなかったことも……。

 あの姿はブレンの苦痛の証、捨てたい過去そのもの。

 感情なく人の善意という名の悪を染まった絶望の姿。


 それでも、そんな物さえも受け入れ彼は戦ってくれた。

 バーストラルとブレンは出会ってから一年も経過していない。

 にもかかわらず、バーストラルはブレンを心の底から、自慢の息子と思っている。


 だからこそ……自慢の息子の晴れ姿であるその映像は死ぬ程欲しかった。

 しかも、惚れた女を護る為なんて啖呵を切ってレジェンドと戦ってたのだから、涙なしには見られない。


 故に、バーストラルは息子の為に、一つ誓いを立てていた。

 いつの日か、息子が皆に全てを明かした後、この映像をディスティアリーズの集会で披露しようと……。

 親馬鹿となったバーストラルは、それがどれほどの悲劇と不幸を呼ぶか想像さえしていない。

 バーストラルはまじりっけのない善意で、息子の告白恰好付け敗北なんて暗黒過ぎる黒歴史の公開を心に誓っていた。


ありがとうございました。

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