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過去の因果


 どこまでも、どこまでも逃げ続ける。

 時間さえ、時間さえあれば何とかなる。

 生きてさえいれば巻き返せる。

 総帥が何とかしてくれる。

 そう信じて、ブレンとミリアは走り続ける。

 既にブレンの体力は限界を通り越し、気迫のみで走っている。

 それはミリアにもわかっているが、それでもミリアはブレンを走らせる。

 正義のヒーローの怖さと容赦のなさを知る彼女は、捕まった時どうなるかもうわかっていた。


 そしてその限界が来るより先に……終わりが到着する。

 唐突に、目の前に現れる三人の男達。

 その感覚と雰囲気からおそらく超能力系のテレポートだろう。


 そして、そのうちの一人の姿にブレン達は見覚えがあった。

 銀甲機、シルバーナイト。

 銀色の鎧にも似たその姿は、つい最近見たばかりだった。


「……投降してください。俺にはあんたらがそんな悪い奴には思えない。だからこそ、もし何もしてないならここで捕まってくれ。頼む……」

 シルバーナイトは祈る様、そう言葉にする。


 そしてそれに対しての回答は当然……。

「そんなの信用出来ると思ってるの?」

 ミリアはそう、冷たく言い放った。


 シルバーナイトの言葉に裏はないだろう。

 彼は本心で自分達を信じ、だからこそ投降し無罪を証明して欲しいと信じている。

 だが実際は、投降した瞬間デッドエンド確定である。

 それをシルバーナイトは知らないのだろう。


「俺達は正義の味方だ! 俺達を信じて――」

「信じた結果がこれなんだけど?」

 そう言って、ミリアはシルバーナイトを鼻で笑った。

「……口で言ってもわからないなら……」

 そう言葉にし、シルバーナイトはランスを構えた。


「ブレン、ここは私に――」

「――ミリアさん。逃げて下さい」

 ミリアの言葉を遮り、ブレンはミリアの前に出た。

「ブレン! 貴方じゃ……」

「勝てないでしょうね。でも……俺の足じゃもう逃げられない。テレポート使いから逃げる身体能力も妨害能力もない。そもそも……もう走れない。だから……」

「嫌! そんなのは嫌よ! 一緒に、何か方法が……」

「良いから逃げてくれ! 頼むよ! 最後の最後位俺に恰好つけさせてくれ!」

 ブレンの絶叫をミリアは聞く。


 感情は、全てが否定している。

 死に場所を与えるなんて事絶対に許せない。

 行きて一緒に居ないと意味がない。


 だが……状況が、理性がそれを拒絶する。

 ブレンがいたら逃げられない。

 ブレンが足止めしたら逃げられる可能性が残る。


 選択肢は二択、一緒に死ぬか、一人で生きるか。

 そして……ブレンが後者を望んでいる。


「……馬鹿! 何があっても生き延びなさい! 生き延びて後でビンタさせなさいよ!」

 それはただの強がりであり、言葉に意味はない。

 強がりを吐きながらでなかればこの場を離れる勇気をミリアは持てなかった。


 去っていくミリアを正義の味方達は追い掛けない。

 彼らから見れば、ここで無理に追いかけるよりもブレンなんてただの戦闘員さっさと処理して追い掛けた方が楽だからである。


「……投降……は、しないよな」

 シルバーナイトの言葉にブレンは反応しない。

 その代わり、ブレンはその拳をシルバーナイトにお見舞いする。


 拳が直撃し、血が噴き出す。

 だが、その血液はブレンの拳からしか出た物だった。


「どうして……」

 シルバーナイトはそう呟き、槍を軽く振る。

 その軽くさえブレンの目ではとらえきれず……槍がぶつかりブレンはゴールを目指すサッカーボールの様に高速で吹き飛んだ。

 そのまま壁にぶつかり、壁を破壊し家の中のテーブルを破壊し、そこでようやくブレンの体は止まる。

 全身ボロボロで、もう立ち上がる事さえ出来ない位の怪我で、ようやく……。


「トドメを刺すか?」

 エスパーらしき男の言葉にシルバーナイトは首を横に振った。

「必要ない。……嫌な手応えがあった。あれじゃあもうすぐ死ぬ。それより追い掛けないと。場所はわかるか?」

「ああ。問題ない」

 そう言葉にし、彼らはテレポートを行おうとする。


 気配でだが、ブレンはそれを察する。

 彼らがミリアを追いかけ殺そうとするその雰囲気を。


 許せる訳がない。

 そんな事……許して言い訳がない。


 ディスティアリーズは何もしていない。

 悪の組織として落第な程真っ当で、そして優しくて暖かかった。

 この組織から、前世で一切感じなかった愛情をブレンは湧き出る泉の如く受け取った。


 バーストラルという人に拾われた。

 拾って、息子と言ってくれて、傍においてくれた。

 家族になってくれた。


 そして、ミリアと出会った。

 上司という存在と。

 ブレンはそこで生まれて初めて……愛を誰かに注ぎたいと思った。

 家族としての愛をバーストラルにもらった次は、異性として誰かを愛する事が出来た。


 空っぽだった前世とはまるで違う。


 そう、ブレンは確かに愛したのだ。

 ミリアという独りの人間を、心の底から。


 そしてその愛した女性が今殺されようとしている。

 そんな事――許して良い訳がなかった。


 ブレンは自分の前世が、この世界に転移してくる前の自分がこの世のあらゆる物よりも嫌いである。

 誰かに命じられた事を成し遂げるだけの日々。

 朝起きて寝るまで誰かの為だけに生き続けた、空っぽの時間。

 ブラックなんてレベルじゃない位の地獄で、悲しかったという感情さえなくなっていた。


 それが悲しかったと気付いたのはこっちの世界に来てから。 

 それが苦しかったと知ったのはこっちの世界で愛を知ったから。


 だから前世の自分が何よりも嫌いである。

 嫌いだけど……大好きな人が死ぬよりは、きっとマシだろう。


「もう捨てたつもりだけど……せめて今回位は俺の為に働きやがれや俺の力!」

 ブレンは、虚空に手を伸ばし、掴んだ。


 ミリアを追いテレポートしようとした三人だが、すぐそれを中止する。

 いや、中止せざるを得なかった。

 ブレンを吹き飛ばした場所から、巨大な光の柱が上ったからだ。

 天高くまで続く巨大な柱。

 数秒程経ち光の柱消え中から出て来たのは……鎧姿の何かだった。


 シルバーナイトの様な洗練された騎士姿とはまるで違う、無骨なデザインの鎧。 

 それは正義のヒーローや悪の組織が使う様な衣装とは異なり、大昔の古臭い鎧そのまだった。

 兜に角とかついた古臭いファンタジーチックな鎧に、円形の盾とブロードソード。


 そして、その鎧から放たれる威圧感は、正義のヒーローが戦闘態勢に入る位には強烈な物だった。


 彼らはこの鎧をブレンだと思っていない。

 戦闘員その三程度が出せる威圧感を遥かに超えているからだ。

 その圧は怪人どころか総帥のバーストラルよりも遥かに上であり、確実に格上でわかる程。

 ブレンだと思う訳がなかった。


「お前は誰だ? 何が目的でここにいる?」

 シルバーナイトの言葉に、ブレンは苦笑する。


「誰……か。はは、誰だろうね本当。……名前もなかった哀れな男だよ」

 そう、ブレンにはブレンというバーストラルに付けられた以外の名前を持たない。

 彼は前世、五歳の時に最愛の母自身にその最愛の証明である名前を消去された。

 役職として生きる為に、無用の物とし奪われた。


 故に彼に名前はない。

 もし彼を呼ぶとしたら、その役割のみとなる。


『勇者』

 それが、彼を表す呪いの言葉だった。


「目的はなんだ?」

 シルバーナイトの言葉に、ブレンは笑った。

「目的…………目的か。そうだな。目的は……惚れた女を護る為だよボケ共が!」

 吼え、狂い、ブレンはシルバーナイトに剣を振るった。

 シルバーナイトはそれを槍で受けようとする。

 だが、その槍は剣に触れた瞬間に砕けた。

 物が、実力が、領域が、全てが桁違いだった。

 

 それでも彼は諦めない。

 新入りでも何でも、彼は誰かを助けると決めたヒーローだからだ。

 折れた槍を捨て、彼は己の中で最も硬い手甲を使い、拳を振るう。

 変身する為の道具でもある、その手甲を。

 ブレンもまた、シルバーナイトの拳に合わせ拳を振るった。


 シルバーナイトの手甲はただの手甲ではない。

 正義の味方になる為に用意された変身用の道具。

 彼にとって命であり、誇り。

 その手甲が、ブレンの拳に触れた瞬間一瞬で砕け散り、変身が解除される。


 シルバーナイトの手甲は誇りの証だった。

 だがブレンの鎧は、呪いの証。

 誰よりも多く誰かの為に戦い続けた、歪んだ正義の成れの果て。

 その重さは、苦悩は、シルバーナイトの様な希望溢れるニューヒーローに理解する事さえ無理な物だった。




ありがとうございました。

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