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悪役令息と餞別

お待たせしました。

 あれからシャルは城下町の調査に精を出しているらしい。その進捗を俺は知らない。俺から聞けば報告するだろうが、悪趣味な『命令』を下したい気分でもなかった。

 あっという間に、驚くほど呆気なく、俺たちは『知人未満』になってしまった。当然だ。俺たちの関係はシャルに()()()()()()ことでようやく成り立っていたんだから。


『シスは、あたしの友達なんだよ?』


 ――でも、俺たちは一度だって、対等な友人ではなかった。


『絶対にあたしたちの力で『女帝』に『シスには価値がある』って認めさせてやる』


 ――あたしたち、ではない。認めさせるだけの価値があるのはシャルだけだ。


「『種馬』や『お人形』が関の山の、何もできない俺とは違って」


 このままここに留まっていても、俺にできることは無い。

『何もせずに過ごす』のは同じなら、おとなしくアレクシアに飼い殺されればいいだろう。どうしてこれ以上足掻く必要がある?

 俺はもう、意地を張る理由も見栄を張る相手も失ったのに。


「レイモンド様!」

「……リーナか」


 机に肘をついて項垂れていると声をかけられた。部屋の入り口に視線を向ければ『シャルロ』と仲良しの女中がいた。

 思えば『興味がある劇団が来るから』という理由で好きな相手を誘えるなんて、彼女はなんて真っ当な娘だったんだろう。シャルに振られた後も、友人として仲良くしていたらしい。

『どうせ叶わない不毛な恋愛をしている』とリーナのことを無意識に見下していたかつての自分に気づいてイヤになる。俺たちの友情だって負けず劣らず頼りないものだったのに。


「あのっ!」

「……ああ、悪い悪い。どうした?」


 やめやめ。鬱思考なんて一銭の得にもならない。

 できるかぎりの王子様スマイルで――といってもどうしても悪役顔にはなってしまうのだが――リーナに話しかけると、彼女は切羽詰まった調子で言った。


「シャルロさんが、昨日から戻っていないみたいでっ!」

「は……?」


 聞いた瞬間、息が止まるかと思った。


「おい、シャル!?……本当にいないのか。いないなら入るぞ、返事しろ!」


 言いながら、シャルが居室としていた続き間に押し入った。

 入ることも無いままに、なんとなく散らかっていそうだと想像していた部屋の中は、意外と殺風景だった。特徴を挙げるとするならとにかく物が少なくて――必要なものだけいつでも持ち出せるように整理された印象を受ける部屋。


「……シャル……?」


 部屋の書き物机の上には、二枚の便箋があるだけで。

 そのうちの一枚には『ガサ入れリスト』なんて物騒なタイトルで店名のリストアップがされていて、リストの上にあるものから順に一本線が引かれている。消されずに残っているもののうち一番上の店が、次に彼女が訪れるはずの場所だったのだろうか。

 余白には『後は頼むよ』なんて走り書きの文字も見える。

 もう一枚は、少しだけ上質な紙の便箋だった。

 そこに書かれた文字も、綺麗に整った、落ち着いた筆跡で。


『今までお世話になったので、このリストは置き土産です。役立ててください。ここにいるのは飽きたので、あたしは他のところに行こうと思います。探さないでください』


 見慣れたシャルの筆跡に乱れはない。無理やり書かされた怯えや焦り、葛藤なんかも見られない。

 覚悟の上での失踪……というより、自分の意思での出奔のように思える文面。


「……そうか」


 これは、別れの挨拶ってわけだ。

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