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魔眼女とノーブル・ウィッチ  作者: 藤宮はな
終章+エピローグ
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エピローグ1-6

 寝る時間になっても話がしたいのか、要さんは私の部屋に布団を敷いて寝る、と言って聞かなかった。


「な。いいだろ。ちょっと空ちんとディープに話したいんだよ」


 そう言われると引くに引けない。

 別に一緒の布団で寝る訳じゃないし、嫌な気は全然しないのだし。


「いいですけど。布団は自分で敷いてくれますか。ベッドで普段寝てるんで、余ってるのでどれがいいかとか分からないんで」


「オッケーオッケー。紀美枝の家だかんな。あたしには勝手知ったる家よ」


 そう言うが早いか、要さんは布団をさっさと運んでしまう。

 私もそろそろ寝る時間だなと思って、寝る支度をする。

 準備が出来て、お風呂から上がった時に来ているパジャマで上着を脱いでから、ベッドに入る。


 そう言えばと考えたのは、この部屋以外で寝ても魔眼は大丈夫なのかなって。

 少し不安だから、あまり外には今まで通り泊まりたくない気持ちがやはり強い。


 電気を消して、眼鏡を外してから、静かに布団に入ったタイミングで、要さんは少し真面目な声色でこう言う。


「なあ、空ちん。あたしはな、空ちんは少しズレてるのを、他人にあれこれ言われるのをさ、全然気に病まなくていいと思ってるぞ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 私は黙って聞いている。


 要さんのことだから、私の性格はお見通しなのだろう。この虚無的に自分自身の実感が希薄な私を。


「任務に当たるのには致命的だが、別に人でなしと言われる筋合いもねえよ。ただちょっと鈍いだけの、真面目で優しい人間ってだけの話だからな」


 はは、でもま、だから悩むのか、と要さんは苦笑いしている。


 この人は先生から色々と私の生育を聞いているだろうから、何も隠す必要もないんだものね。


「受け流せるってのは、時には批難を浴びるがな、空ちん。それは裏を返せばどうしようもない絶望で、簡単には自滅しないってことでもあるんだぞ」


「自滅、ですか」


 そう短く返答する。

 ああ、と要さんは静かに頷きの声をあげてくれる。


「そうさ。引き摺らないってのは特技みたいなもんだ。気配りなんてやろうと思えば、その特性に欠けてる人間でも、やってみればガワだけで取り繕っても、大抵の人間にはそれでいいもんだからさ」


「そんなもんですかね。それが薄情だって世間では言うと思うんですけど」


「――ハッ。そりゃあ皆が同じだと思ってる馬鹿が言うこった。セクシャルマイノリティの気持ちをマジョリティが分からず、持たざる者の屈折を富む者が理解しねえようにな。だからって、自分も変わらず普通だとか、辺に拗らせてもしょうがねえけどよ。サイコパスにだって、ちゃんとカウンセリングを受けたら、結構表向きに馴染んで生活は送れるって、確か紀美枝がなんかの時に言ってたよなあ」


 サイコパスは確かに、あまりにも誤解されていると思う。

 娯楽作品なんかで特に異常な犯罪者像として取り上げられすぎた。


 実際に存在するマイノリティでもあるって側面があまりにも無視されすぎている。

 人に感情移入出来なくても、メソッドさえ教われば、そのように振る舞ったり、相手の気持ちを推し量って行動は取れる。


 それに情愛が欠けていると言うことこそ、彼らへの情愛がこちら側に欠けていることなのだと、こちらが知らねばならない。


 それをいえば、世の中には特性上許されざることを指向してしまう、性指向の脳を持って生まれた人もいるのだ。その人達への迫害は、ますます道徳的に正しくあろうとする人達によって行われている。


 それと同じで、私も自分や他人の死をそう重いものと受け止められないことを、それほど悩まなくていいってことか。


 存在が軽いこの環境にいてもそうなんだから、もう変えようがない、と。


「大体な、死を荘厳なものにしすぎるのが、何て言うのかな、生をも軽く見てるって言うのかな。その流動性を自然の中にいる動物のように、素直に受容出来るのは、ある意味で美点だよ。危機意識の欠如は逆に生存には適さないが、それをそんなに重く考えないんだから関係ねえよな」


 あくまで要さんの言葉は軽い。だけど、ズシッと重く私の中に入り込む。


 ――それがまるで福音であるかのように。

 溺れている人が掴む藁のように。す、と胸が軽くなった気がする。


「――ありがとうございます。私、でもあんまり自分のことを、そんなに重々しく振り返ることないんですよね。あんまり自省的な人間じゃないっていうか」


「そりゃあ当たり前だ。私も前にやった仕事なんかちゃんと覚えてねえもん。紀美枝にはそれでよくガミガミ言われたなあ。でも、紀美枝は空ちんに対しては、かなり上手くやってたんじゃないか」


「上手く、ですか?」


「そう。子育てなんかしたことなかっただろうにな。子供の特性を把握して、それへの適切な距離感を取る。介入するならその仕方は適切に。しないならどうやって見守るか」


 ふむ。

 それは誰にとっても難問だろう。所謂、アポリアってやつではないだろうか。


「ま、若干過保護だったが、最後に荒療治をしてくれたしな。いや、これからか、しんどいのは。ま、とにかく機関としては、早くに働けるように頑張って貰うからな」


「はい。それは理解してます。やれることは私が早くやりたいくらいなので」


「お。言ったな。じゃ、改造人間の部下の手配はさくっとしておきますか。ほいじゃ、おやすみ、グッナイ」


 そう言うやいなや、すーと寝てしまった。

 これは流石に適応力高すぎでは?

 どこでも寝られるのが良き兵士の条件とかも言われるが、本当にこの人は産まれながらの戦士なのかもしれない。


 ――はあ。でも参ったな。


 ここまで自分が気にしているとは思わなかった。


 先生がいないのにも、ようやく慣れて来たはずなのに、急に寂しくなってしまう。

 今度ユーリに泊まって貰うしかないかも。


 しかしこれからの展望を考えても仕方ないので、私も呑気に何も考えずに、要さんほどではなくても、すぐに切り替えて、眠気には勝てず、うとうとと眠りに落ちて行くのだった。




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