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魔眼女とノーブル・ウィッチ  作者: 藤宮はな
終章+エピローグ
43/61

エピローグ1-4

 私も袋に入っていたチョコドーナツを食べて、ゆっくりしていたら、おー空ちんも紀美枝に似て来たな、という声が聞こえた。


 どういう意味だろう。そんなことを聞かされたら、変に勘ぐっちゃうぞ、私。


「いや、なに。聴いてるの、ジョージ・ハリスンだろ。しっかし、このレコードってさ、ややこしいヤツだったら、カラフルなジャケットは駄目なんかね。モノクロのを買い漁るとかよ」


 変なツッコミに私は苦笑してしまうが、ちゃんと返事はしておく。


「うーん。あれこれ集めるマニアなら、カラフルのジャケットにもボートラとかもありますし、一応揃えるんじゃないですかね」


「はは、違えねえ。何々ヴァージョンとかって言ってな。あたしに言わせりゃ、音楽なんてどれで聴いても同じだろうに、そこまで盤質に拘るってことはよ、通常人より耳がいいんかね?」


 要さんみたいな人にこんなことを言われたら、それこそ形無しである。彼女はその価値を分かっていて、敢えて混ぜっ返すようにふざけてこんな風に言うのだから。


「それは・・・・・・どうでしょう。そんな気がしてるだけの人もいるんじゃないですかね」


「プラシーボ効果か。ま、周波数としてはCDは大分カットしてるのも事実だが、そこまでいい音質のアルバムってのが、録音技術の関係からしてさ、古いのにいいのがあるもんかね」


 まだ続ける気の様子。先生からは録音技師の話なんかも聞かされていたが、それはとりあえず私も言わずに話を進める。


「それもまちまちだと思います。先生から聞きましたけど、昔のでも機器のチェックに使う様な高品質のもありますし、トラック数が多ければいい訳でもないでしょう」


「いや、そりゃあそうだ。それに幾ら音質が良くても、オリジナル盤がバカ高くて手に入らなかったら一緒ってもんよ。あたしはだからな、とびきりの金持ちでもない限りは、最近は聴き放題のサブスクなんてのがあって便利になったなって思うぜ。空ちんも加入してみるんだな」


 ああ、と納得。

 先生はそれなりに収集していて、そこそこの音楽で満足していたからそうだけど、要さんは制覇したがる性格だからか、いっぱい聴きたくてすぐに加入したんだろうなぁ。

 それに収集すると、同時に場所も取るので、先生の様な読書家は中々そう出来ない事情もある。音楽マニアはそれこそ何万枚と集めてると聞くのだけど。


「しかしスワンピーなロックなんて、呑気なん聴いてんなあ。ヒリヒリするの聴いた方が精神は研ぎ澄まされるんじゃないか」


「そうでもないですよ。結構、穏やかな曲調でもシビアな歌詞があったりして、面白い曲は多いですから」


 私が不思議とゆったりと微笑んでいたからか、要さんはプッと吹き出して、心底私の言ったことが面白いとでもいうように、ゲラゲラと笑い出す。


「プッ。あっははは。そりゃあいい。トラディショナル・フォークは残酷な歌が多いってか。そんだけ音楽から刺激があるなら心配はないな。いつでもちゃんと殺せる準備はしとく、ってのがあたしらの鉄則だからな」


 不意にぞわっとすることを言う。しかしそうなのだ。


 私達はそれくらいシビアな世界に生きている。穏やかな市井の人の生活なぞ望むのが夢のまた夢であるのは確かなのも真理だ。


「とりあえずよ、その改造人間の手配はしとくよ。教育係且つ空ちんの所の配属ってことにしとくからさ。そこん所よろしくな」


「えーと、はい。その人との上下関係が今の言葉では少し不明瞭ですけど、一応そういう措置なら素直に従いますよ」


 こればっかりは反抗しても仕方がないのだから、もう黙って上の指示には、はいと従うしかあるまい。


「いやいや、うん。それにしても久しぶりに休暇が取れたのと、連絡があったんでこっちに来てみたが、とんでもなく利発な娘さんに育ったよなあ。こりゃあ紀美枝の生真面目な教育も強ち間違いでもなかったか。や、ゆるく楽にして精神トレーニングをする心構えはあいつ同様、まだまだなっちゃいないがな」


 相変わらず手厳しい。でも褒められてもいる、のよね?


「それに自分でちゃんと魔女と取引して、魔力と魔眼に折り合いをつけるなんてな。こりゃあこっちの施術の手間もなくていいや」


 ああ、本来なら完全に実戦に投入される時に改造手術でどうにかされていたのか。そう考えるとユーリと契約したのはいいことだったのかもしれない。


「だが、まあ。鍛錬と驕りにだけは気をつけろよ。気ぃ抜いた時、それがあたしらの死ぬ時だ。リラックスするってのは腑抜けになるのとは違うんだからよ」


「それは。――ええ。ちゃんと分かってるつもりです。いい意味で緊張し過ぎずに気を引き締めろってことでしょう」


 そう私が言うと、要さんはニコリとする。


「ああ。そういうこった。なら、今日はお姉さんと風呂でも入ろうや。泊まってくつもりだったからさ。どれだけ成長したのか見せて貰おうかね。うんまぁ、あんまり期待はしない方が良さそうだけどな」


 チラと私のある部分を眺めて言う要さん。

 いやだからさ、プロポーションなんて抜群でも機関のエージェントにはなんの得もないじゃないの。

 私は身長も小さいけど、それだけに小回りが利く戦いをするんだから、いいんだもん。


 そりゃあ要さんは引き締まってて、巨乳ってほどでもなくても、程良く胸もあって、もう何も誰も文句も言えない素晴らしい肉体だっていうのは分かってるわよ。


 いいの。

 私は自分のこの流される特性と付き合いながら、ニッチにお気に入りの魔女にだけの愛され女子を目指すんだから。


 そう思いながら、お泊まりセットをちゃんと鞄に用意して、子供みたいにはしゃいでいる要さんに、呆れ半分感嘆半分で、こんな底の知れない豪胆な人と先生はよく姉妹でいられたなと、空恐ろしくなって来てしまう。


 お風呂に一緒に入るのなんて何年ぶりだろう。今度ユーリを誘って一緒に入ろうか。

 うん。そっちの方がずっと魅力的な提案だと思うな。




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