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魔眼女とノーブル・ウィッチ  作者: 藤宮はな
第6章
26/61

~interlude3~

 それはどこに行ってしまったのだろう。

 恐らく、彼は姉が普通に暮らせる社会を待望していただけだ。

 だが、現実にはどこにもマイノリティが平穏無事に過ごせる場所はない。

 今でもまだかなりがそうだ。


 そして、何を彼は願ったか。

 自分の人生を犠牲にしてもいいと。

 そこに希望があるなら。

 そこで姉と平和を共に出来たなら、と。


 歪みは自覚出来ずに、軋みをあげて。

 もう後戻り出来ない次元にまで来てしまっていて。


 何故あの〝魔女〟と戦っているのか。

 自分は何を求めていたのだったか。

 それすらも全て曖昧になり。

 やがて摩滅していくだろう、その存在すらも。


 その純粋な願いの前では何でもなく。

 願いは成就されぬまま、あの時の願いを願い続ける青年魔術師。


 魔術の本懐とは、恐らくその研究の普遍化を目指し続ける事にあるのだから。


 故に彼は、既に魔術師ではなく。

 また本来的な吸血鬼としての自尊心すら、元から備えておらず。


 歪んだ世界を変えようとして、徹底的に歪んだ少年はまた。

 歪んだ世界を更に彼自身の手で歪ませ続けるのだ。


 そこに理想や希望があったとしても。

 そもそもの理想の在り方が間違っており。


 世界とはそういうものであって、それだからこそその中で必死に生きていこうとしていた彼の姉を、彼が一番見ていなかった、理解していなかったのではないか。


 彼は自分の理想を彼女に押し付けようとしていたのは、周りからは明白だっただろう。

 だからあの姉の庇護者であった老人には、散々自分の理想は自分の為に持つものだ、と説教されたはずだ。


 自分を救う為に、その延長に姉を救うならいざ知らず。


 そもそもが、彼を犠牲にして成り立つ様なユートピアなど、彼の尊敬していた、誇り高い姉なら拒否したはずで。


 彼はだから、一体どこに向かおうとしていたのかも定かならず。

 一体それはどうなってしまったのか。


 それすらも最早不定型で。

 いつしか、それは泥の奔流となって、彼自身を呑み込んで。


 彼の理想を歪んだ形で実現する、腐った一つの魔術師が象る〝世界〟となっていた。


 だからこそ、彼はその輝くはずであった使命を果たす事のみに専念しては、全てを歪みへと変えていく〝ディストーション〟となってしまったのだった。


 ここから先は闇である、と自覚していればこんなことにはならなかったのか。


 いや。彼はそれすらも目が曇っていて、何も見えていなかっただろう。

 彼はそもそもあの様な姉を持ち、幼少期からの体験で、性質がもう適応的な次元に止まれないほどになってしまっていたのだから。


 今日もまたその純粋現象〈パイオニア・オーヴァー・C〉は駆動し続ける。

 この世を書き換える、ユートピアを具現化する、それだけのモノとして。


 姉を想い、結果的に姉を苦しめる装置となってしまったその現象。

 だが、それに思い至ることは遂になく。


 世界への挑戦として。可能性として。


 それは別の世界への飛翔なのか。

 また今の世界を変転させる為のモノなのかすら、全ては曖昧で。


 故に、それは〝災害〟と呼ばれ得る、一つの化け物の一角として数えられていた。




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