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魔眼女とノーブル・ウィッチ  作者: 藤宮はな
第1章
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第1章魔女・その夜1

 夏という季節は怪談が語られたりするが、暑い時期だからこそ肝を冷やしてしまおうということなのか。それともお盆という行事があるために、霊との遭遇も増えるのか。


 寝苦しい夜が続くが、これが本格的に夏に突入したらどうなるのかなんて思う。

 そうは言うものの、私はいつも目が覚めると、素早く起きて、服を着替えてからキチンと眼鏡を掛ける。顔を洗う時に、またすぐに外すのだけど。


 目が悪い訳じゃないのに、それを装って生きるのは実は結構面倒だ。いや、ホントにそう。


 何故かというと。水泳授業なんかは、先生がゴーグルに魔眼封じを掛けてくれるとは言え、それはそれでいつも掛けてられればいいんだけど、そうもいかないし、中々平穏に体育の授業も受けられない。


 だからと言って、この魔眼にはまだ使い道はないんだから、しょうがない。恐らく、先生の親心で私には組織の仕事が回らないようにしてくれているのだろうから、ありがたいことではある。


 制服を着て起きると、大抵先生は先に起きていて、もう朝食を済ませている。先生の朝はパンと決まっているらしく、軽くでも食べる主義らしいが、あまり多くは摂らないようだ。


 先生が紅茶党なので、私も紅茶が大好きだが、朝は先生とは違ってカフェラテだとか牛乳を飲んでいることが多い。


「おはよう、空。今日は少し話があるから、午後の予定は空けておくように」


「? 話ですか。はい、今日は確か図書館に行くくらいですから、そんなに遅くはならないとは思いますけど」


 ふむ、と紀美枝先生。・・・・・・何か変な間があった気がするのだが。


「君がそう言う時は、いつもその通りに帰っては来ないということだな。図書館に寄ると聞いた時はいつもギリギリまでいる場合が多い。自覚はないのだろうが、まったく誰に似たのか」


 涼しく問題はないというように、眼鏡を整えてミルクティーを飲む先生。


 うーむ。よっぽど信用ないんだな。というか私ってそんなに時間にルーズだったのか。


 いや図書館や本屋で時間を忘れてしまうのは、絶対に先生の影響なのだから、それは私の責任ではないはず。


 それに多分、私の人格形成には先生が多大な影響を持っているはずで、必然的に誰かに似たのなら、それは先生以外にいないではないか。


 しかし反論しても無駄だろうし、どうだこうだ言っても先生はそれも既に分かっているだろうから、私は素直にコーヒー牛乳を入れて、クロワッサンをお皿に乗せて座る。

 先生はいつも通りに、これ以上何も話すこともないのか、黙って新聞を読んでいる。


 組織の任務なども振られることはあるだろうが、暁の一族は退魔士の一族で、姉のかなめさんも先生もその仕事を担当している。

 要さんは時々会うのだが、傍目にはどちらがお姉さんか分からなくなるくらい、先生の方が落ち着いて見える。


 それはまぁ、眼鏡が知的な感じに仕上げてくれる、というのとはまた別問題なのだ。うん、あの人のことは今考えるのはよそう。思い出すだけで、何だか頭が痛くなりそうだ。


 そして、やはり表向きの仕事も持っていないと怪しいということなのか、先生はこの家の一階を事務所に探偵業をやっている。

 探偵が儲かるのか、というのは実は私もよく分からないけれど、先生の場合は仕事として探偵としての職務を淡々とこなしているとは言えども、それは組織の任務の副業的な側面しかないのかもしれない。


 私が食事をして、もしゃもしゃと咀嚼していると、ああそうだと先生は奥へ一度引っ込んで、何やらキラリとした物を持って来た。何だろう。それナイフじゃないですか。


「ああ、これをやろう。虚実機関きょじつきかんで何かする際には必要になるだろうから、持っているといい。私達、退魔士には便利な概念武装になっている」


 そう、正真正銘ナイフである。・・・・・・これを持ち歩けと? 物騒だなぁ。


「何、切れ味はいいだろうが、たかが小型のナイフだ。通り魔をしようというのでもなければ、それほど強力な物でもあるまいよ。だからこそ、それを効果的に使うことを考えて欲しいな」


 えーと。先生みたいに式神を使ったりなんかは教えて貰えないんだろうか。


「ふむ、君、何か不満そうだな。式神は使役するのに、骨が折れる。しかし、そんなに言うならそれもセットで渡して置こう。だが、あまりこちらには頼らないようにな。君はまだ未熟だ」


 手に渡される、その紙の束。一つにまとめられている。先生の「未熟」という言葉を噛み締める。


「とにかく、その件についても話をする。出来るだけ話をする時間を取れる時刻に帰って来ることを祈っているよ」


「は、はい。何だか信用なさそうですけど、とにかく調べ物をしたらすぐに帰りますよ」


 どうだかと思っているかは定かではないのだが、先生はもう今朝の仕事のための用意をし始めたので、私も急いで学校に行く支度をするのだった。

 図書館には返却する予定もあったので、その本を鞄に詰めて。




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