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魔眼女とノーブル・ウィッチ  作者: 藤宮はな
第4章
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第4章暁紀美枝の見ていた景色4

 外は暗い場所もあるが、街灯や店の中の灯が煌々と照っている所もあって、時々私は薄暗い方に差し掛かると、異界に迷い込んだのではと錯覚してしまうこともある。


 ユーリはそんな日本の町が珍しい訳でもないだろうが、少しウキウキしている気が。

 というか、最初の頃より楽しそうだ。もうちょっと危機感とか緊張感がないといけないのではないかなぁ。


 そう思ったことを率直に言うと、何やらにへへと崩した笑みを浮かべて、こんなことを言う。


「だってなんだか、夜のお散歩デートみたいでさ。ソラといるのが心地良くて、これが終わるのが名残惜しい気持ちになっちゃう」


 ふーん。そんな恥ずかしい台詞言っちゃうんだ。私はどう返せばいいんだろう。


「あ。でも気を抜いてるんじゃないわよ。とにかく規格外の存在だから、あれは慎重にやりすぎてもまだ足りないくらいだし」


「大体、ユーリったらいつも逃げられてたんでしょ。もっと焦りとかないの?」


「ひっどーい。対策は色々打ってたのよ? 方々に手を回して、沢山エージェントも派遣したし、わたしも能力を最大限に使った。でも、あれはそれらを全部飲み込んで、竜巻のように発生しては養分を蓄えてるの。わたしが生き残ってるだけでも、ある意味奇跡みたいなもんなんだから」


 あー、なるほど。苦労はしてたんだ。じゃあ何で今回は単独でここに来たんだろうか。捨て身の気分だったのかな。


 私はやはり突っ込んで聞くことが出来ないでいる。それを聞いてしまえば、今の関係ではいられなくなってしまいそうで。


「あー。あの子にもいい加減放っておけばいいって、散々馬鹿にされたっけなぁ。安息同名に任せてればいいとか。・・・・・・でもいいの。ソラが今は一緒だから。死地に行くのでも、今回は今まで以上に覚悟を決められる」


「・・・・・・そっか。まぁ、私も死にたくはないけど、機関の人間はとにかくどんな任務でも皆、危地に向かわせられる訳だし、異論はないよ。ただあんまり隠し球があるとやりづらいなって思うけど」


「・・・・・・うん。シン・クライムのことね。あれを理解しようと思えば、人間だった頃のことを話さないといけないけど、彼はもう魔術師だった時代を忘れて、ただの災害としての現象になってしまっている。ね、だから人間としての情報は入れない方が、精神衛生上はいいと思う」


 うん。そうだね。

 確かにこんな目的があったとか、何かの研究が益になることであったとか、そういう話を聞かされない方が処理はしやすいでしょう。

 機関の構成員が対象に同情心を持ってしまう訳にはいかない。

 それに魔物として理性を失ってしまった人間は、理性的な魔族と違って、もう引き返すことは出来ないのだから。


「それにしても、この国はあちこちに、コンビニ?って言うのかしら。そういう便利なお店が夜もやってるのねぇ」


 ――――ああ。コンビニをちゃんと知らないなんて、流石に外国の人でも情報を見なさすぎじゃないの、ユーリ。

 例えばヨーロッパとかだと、日曜日は営業していないお店がほとんどで、夜の営業なんかもそうないって聞くけど。

 宗教的なものだとも聞くし、そりゃあそんな認識でいつまでもいたら、日本がちょっと変にも見えて来るかも。

 といっても、日本だって営業時間を短縮するだとか、延々進まない議論はしているみたいで、どういう未来になるのか、私にも予測は出来ない。


 そう言えば、借りて来た本を全然読めてないなと、コンビニの雑誌売り場を外から眺めながら思う。

 任務が終わったら、たっぷり本を読む時間が欲しい。出来るだけこんな風な非日常な日常を忘れられる類の本がいい。


 しかし、それにしても、だよ。


 日本人の中でも、私が特別背が小さいのかもしれないのを考慮しても、ユーリは割と大きいな、と感じる。色々と。

 モデル体型とでも言うのか、しかもそんなに痩せぎすでもなく、太ってもいない為に、その顔の良さと髪の艶やかさも相まって、私はどうしても落ち着いてはいられない。


 こんな美人で明るい魔女だなんて――反則じゃないのよ。


 それに私を好意的に見てくれてるのも、魔眼のお陰なのか、それとも先生の威圧のせいなのか、とにかくあんまり褒められても、却って居心地が悪いくらい。


 そう思うと、歩のあの落ち着き払っていても、所々に毒舌が混じり、気の置けない関係っていうのは貴重だったんだな、と痛感してしまう。小松さんともまた違うあの感じ。


 今夜は少々、星の瞬きも明るく感じて、何だか穏やかな一日になってしまった。


 どうやら今日は何も探索の成果はなさそうで、シン・クライムはまたも隠れてしまったということなのだろうか。


 臭いを辿れるってことだったけど、警察犬でも即発見なんてこともないんだし、多少はそれらしい近場を当たるしかないのかしら。


「ソラ。多分シン・クライムは、寄生先を見つけて拠点を作っているんだと思う。それでどこかから、自動で刻む術式を構築しているのかも」


 それって。危険な兆候なのでは?


「術式って。それは――――」


 こくりと神妙に、先程とは打って変わった表情で、ユーリは一つ頷く。


「そう。この町の魔力としてのエナジーを吸い上げてしまうのよ。そうやって力を増大させて〈異次元の沼〉を育てているの。恐らくは、あれで異界としての新世界を作りたかったんでしょうね」


「そんな風な目的がシン・クライムにはあったのね・・・・・・。でもそれがこちら側に漏れ出して来たら、この世界自体も只では済まないわよね」


 ジッとこちらの目を見据える魔女。それは決意と不安がない交ぜになった、複雑な心情だ。とはいえ、意志の固い眼差し。


 でも魔女とはいえ、あんな泥が世界に溢れてしまったらどうなるのか、と見えないハザードの様な存在に怖れもあるのか。


 想像もつかないけど、様々な世界としての色を塗り替えてしまうくらいの汚れというのか、邪悪の塊ではあるから、私もそれを聞いてうっと気持ち悪さを感じてしまう。


「あまり生身の人間がその先を想像しない方がいいわよ、ソラ。あれは誰が見ても、吐き気を催すグロテスクな現象なのですもの」


「・・・・・・うん。ありがと。でも私達はあれと真っ正面切って戦わないといけないからね、そうも言ってられないよ。大丈夫。とにかく私も正気は保つように訓練は受けてるし、それには耐えてみせるから」


「あまり無理はしないで。わたしが大方の仕事は請け負うから」


 顔を伏せるユーリの顔は暗い。さっきまであれほどはしゃいでいた女の子とはまるで思えない。

 どうにか私の能力で、このお姫様の様な素直の魔女さんの曇りを晴らしてあげられないかしら。ただそれだけを願いたくなる。


 ――――だって、それは憂いを表出する大人の情念を見せた女性のようで。


 私も確かに緊張感は大事だとは言ったのだけど、ここまで落ち込ませる気はなかった。

 かなり困っちゃう。

 とにかく私も気を引き締めて、いつでも全力で相手を消し去る為の覚悟を決めないと。


 それは今夜ではないけれど。

 すぐにやって来る。

 忍び寄る影のように。

 その化け物はすぐ近くに巣くっているのだから。




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