亜希と亘
広島についた亘は巨石の地下に誘導された。彼にとっては妄想といわれつづけた研究が現実であると確認できた瞬間で感無量だった。しかも地下組織の要請を受けての来訪である。
岩のドアが開くと亜希が立っていた。
「やあひさしぶり。」
「元気だった?」亜希にとってはふった相手との再会。奇妙な気分だが、少しよそよそしさをただよわせながら亘を奥の部屋に案内した。
そこには右大臣をはじめ主要なメンバーがそろっていた。
「よくきてくれた。概略は中佐から聞いたと思うが、君の力を借りたい。」右大臣が席に案内する。
「はい、しかし私のようなものでお役に立てますかどうか。」
「ようこそ。中佐の雪です。経緯をお話しします。」
雪中佐が話のポイントを絞って話す。
亘は予備知識があるので、中佐の説明を一度聞いただけで事態の深刻さを理解した。
「各地のアンドロイドの工場を破壊したいのですね。」
「ええ、でもそれだけでいいのかというところでゆきづまっているわけ。」
「それはそうでしょう。」
「え?」
「今回の戦いは目に見える戦いとともに思想戦を加え、霊的な戦争も仕掛けられています。」
「?霊的?」
中佐と亜希は顔を見合わせた。
「天使に悪魔にあんたまで霊とかいいだすわけ?」
「わかりやすく説明したいだけだ。昔、殷と周との戦争があったことは御存じですよね。」
「あの頃は目に見えない存在がまだ認められていたから、双方に呪術師がいました。しかしいまは、科学で目が曇ってしまっていますから、みに見えない次元の存在が関与していることがわからないのです。」
「おいおい流行りの呪術大戦やる気?」
亜希がちゃかしていう。
雪中佐は困惑した表情で亘をみていた。さすがに人選を誤ったのではないかという思いがよぎった。
場違いな雰囲気を作り出すのは亘の得意技であったが、亜希もここまでとは思わなかった。
「私達の見ている現界は、もっと無限の次元の一部で、幾層にも重なっていて、互いに干渉しあっています。」
「なるほど多次元空間の理論というわけか。」Nが口を挟んだ。「それならわかる。」
「そう。空間の密度、波動などの差で幾層もの世界が存在していて、この現界はそのちょうど中間にあります。」
「それが、戦略とどういう関係があるのよ。」亜希が結論を早く話せといわんばかりに急かす。
「いまこの世界は荒い波動の次元が、共鳴していてそれが現れている。実は人間が、異次元の波動を受けて、世界を変えて行く重要な中継点なのですが、人間の大半がこの事実を忘れて物質欲にはまって荒い波動を中継するたようになってしまったので、世界の飢、病、戦争をとめられなくなってしまったんです。」
「だから?」亜希はいらいらしながら亘の話を聞いていた。
「敵の工場を叩くとともに、敵の開発中のサイボーグを味方につけられないか?」亘は突拍子もないことを提案する。
「あのさあ、破壊するだけで精一杯なのに、そんなにうまくゆくわけないじゃん。作戦が難しくなってこちらのリスクが高まるだけよ。」亜希はあきれたように言う。
ところが中佐は違った。
「いやまて、囲碁と同じだ。敵を抹殺していくだけでは解決しない。敵を味方に付ければこの戦況を一気に変えられる。」
「しかし、改心を迫ったたところでやはりこちらが圧倒的な力を示さないと納得しないでしょう。」戦略室長が発言する。
「兵隊を動かしているのは将校で、将校を動かしているのは将軍だ。そして将軍にアクセスしているのはおそらく背後の権力者で彼らには異次元の存在が知識を与えている。だから将軍を殺しても異次元の存在は入れ物になる人間を替えて共鳴するだけだから変わらない。」
「異次元の波動を変える方法は?」
「他人数で思念をあつめ、言語の組み合わせによって空間に特定の振動を作りだしていく。」
「音響兵器というわけか?」Nが問う。
「少し違う。言語兵器だ。しかも対象を破壊するのではなく、脳の思考を正常化する装置だ。」亘は当時とはうって変わったように話し始める。ちょっとかっこいいと思わざるを得ない。
「古代人は波動を変え、天国と呼ばれる次元と共鳴するために、様々な呪文を作った。それにより一定期間人類は何後もなく平和に暮らしていたこれが楽園伝説。ところが何かの原因でこの呪文の原理を悪用して魔法を生み出したものたちがいた。」
「ちょっとまてこんどは魔法か?ついていけんぞ。」亜希はおいてゆかれたような気がした。
「あ、すまん。魔法というのは太古の科学に過ぎない。呪文もその応用。」
「で、結局工場破壊はどうするのさ。」
中佐が話を戻す。
「結局、核兵器搭載のサイボーグが量産される。それを止めるには、どうすればいいか。」課長がため息混じりにいう。
「サイボーグが人間ならば洗脳されていても人間的な感情を増大させれば戦闘意欲をうしなうのではないか。」Nが思いついたようにいう。「言語パターンの組み合わせでサイボーグの人間的感情を強化する。そういう兵器を作ればいいんだ。」
「そんなことができるの?」亜希はNに聞く。
「うん。言語兵器という言葉でひらめいた。人間の脳は言葉に反応する。相手がどの言語でそだってきたかわかれば、その言語の波動を直接脳に送り込んで、戦闘意欲をなくすようにすればいい。」
中佐が聞く。
「どのくらいで兵器化できる?」
「半年もあれば」
「3か月でやって。」
「わかりました。」
中佐は訓練に言霊の練習を入れることを考えていた。
「亘さんは味方の言霊の訓練計画を作って。」
「え、しかし私は言霊については専門ではないので、誰か専門家が必要です。」
「一人いるわ。連携を取るわ。」
「わかりました。」
亘は解散した後亜希にこっそり聞く。
「あの人、何者?」
「え?あの電話の女子だけど?なにか?」
「え、いや、あの、え~~。」
亜希がざまみろと思ったのはいうまでもない。