広島の地下基地
二人は狭い通路を通って、扉らしき石の壁の前で言葉を発した。
「フタマルサンゴーただいま帰還しました。」と言う。
自衛隊式の数字のよみ方だ。だとすると政府機関か?
石の扉が左右に開く。中は会議室のようになっており、正面の巨大ディスプレイには日本を中心にした世界地図が映し出されていた。
「ようこそ亜希さん。」軍服を着た30代の女性が挨拶にでて席に案内される。奥に30代から60代くらいの男女が数名、楕円形の机を囲んでいる。
「大臣こちらが政府機関で秘密裏に活動している亜希さんです。」
「はじめまして右大臣の竹内です。お会いできて光栄です。驚かれたでしょうが、ちょうど今戦略会議中なので、わかりにくい点もあるかと思いますが、ご参加ください。後ほど詳細は中佐からご説明します。」
「あ、どうもおそれいります。」
急にしおらしくなる亜希をみてNが吹き出した。
一人一人紹介され、亜希とNも席についた。
若いイケメンやモデル並の美女もいるが、ゴリラとおぼしき男女もいる。みな士官らしい制服を着ている。女性は二人。まだまだ男女不均衡だ・・・・などと、亜希は思わない。こんなクソみたいな仕事は亜希だって仕方なくやってるだけで、粗暴な男にやらせておけばいい。『ほんとはわたしだって女優をやりたかったのだ・・・』と場違いないいわけを心の奥に押し込める。
正面のスクリーンには世界地図が映し出され、赤いエリアが90%を覆っている。
「もはや政府の防衛能力では防ぎようがありません。」
「それで君は例の作戦を実行したいという訳だな。」
「はい。これまでわれわれは政府機関の防衛力が限界にくるまで身を潜めていました。しかし、今後は我々の作戦をより積極的なものにしてゆく必要があります。」
この戦略説明をしている女、頭がきれる。すごいやり手だ。
『私もこんな女になりたかった・・・・。なんて思ってるんだろ。』
Nがまじめな会議中に机の下のスマホでメッセージを送ってくる。器用なやつだ。
『どうなっているか説明してから会議に出席させてほしかったね。』送り返す。
『それはすまんな、下着姿とエロ話で忘れてた。』
亜希はNを睨みつける。
中佐と呼ばれた女性は説明を続ける。
これまで組織は少数精鋭ながら各地に潜入して敵を攪乱し、政府の自衛隊を助けてきた。しかし日本の法律では現在も諜報機関の存在は認められていない。それゆえ組織の存在は極秘にされてきた。
「敵の開発工場をつぶそうと考えています。」
「どうやって?」
眼鏡をかけた中間管理職らしき男が出席者の気持ちを代弁して発言する
「いま来られた亜希さんに作戦指導をしていただき、敵のロボット工場に潜入して破壊し、その作戦をモデルケースとして後続部隊と日本政府に情報を送りたいのです。」
「なるほど・・・でもですね。工場のセキュリティは様々ですし、戦闘は臨機応変な面も多いですからマニュアル化はできないでしょう。それに同じ国であれば敵も研究してきますからセキュリティも攻撃のたびに変わってくるでしょう。臨機応変に動ける戦闘員を育てていただくことは可能ですか」
「それは本部のバックアップと個人の才能にもよります。工場の破壊任務を通じて後継者を育て、同時にこちらの装備も開発してゆくという同時進行で作戦を考えています。」
「分かりました。政府機関にはうまくいっておいていただけるんでしょうね。」
「はいそれはもちろんです。」政府の事務官らしきスーツの男が答える。
どうやら亜希はこの非政府組織の活動に参加することになるらしい。
亜希はかねてから政府の仕事を請け負っていたので、陰の軍隊「別班」の噂はそれとなく聞いていた。それに参加できる、しかもリーダーとして作戦を任されるとなれば断る理由はなかった。
中佐と呼ばれていた女性が親しげに近づいてきて、
「お噂は以前から伺っていました。お会いしたかったのです。順序が逆になって申し訳ありません。お聞きになったように私たちは政府非公認の戦闘組織ですが、貴方のこれまでの戦闘経験を活かしてご協力いただけないでしょうか?」
「それは私も望むところです。が、給料は出るんでしょうね。」
「もちろんです。これまでの1.5倍は保証しましょう。」
「ならOKです。ただし実行メンバーは私に選ばせてください。」
「いいでしょう。それと・・・、あなたの作戦には私も参加させていただこうと思っています。よろしいかしら?」
「え?それはかまいませんが中佐殿には少しきついかもしれませんよ。」
亜希は中佐の体を値踏みしながら言った。
細腕で中肉中背、胸は少し大きく、お世辞にも実戦経験豊富とは言えない。顔から首、手やスカートの下から見えるふくらはぎや脛には傷がなく、実戦経験の欠如が見て取れた。いわゆる制服組だ・・と思った。
しかし中佐はにこりと笑って「どうかしら。」と答えた。
周りにいた幹部の顔に笑いが浮かんだ。
「おい、下でやれ。佐々木。」大臣がたしなめるように言った。
「はい、わかりました。」
中佐の名前は佐々木というらしい。地下の体育館のようなところに案内された。
佐々木中佐は道場の真ん中に立ち、佐々木中佐が笑顔でいう。
「ではどこからでもいいのでかかってきてください。」
「あ、いや?さっきのせりふが気に障ったのなら謝ります。軍でも私と互角に戦える者はいない。」亜希がいう。
「ええ存知ております。かまいません。思い切ってどこからでも。」
やっかいな。女のプライドに火をつけてしまったと亜希は思った。Nは黙って様子をみている。
「おい、Nなんとかいえ。」
「いや、あんたはかなわない。」
「なに?」
「あんたは中佐にかなわない。」
「なにいってんだ。あの細腕に私が負けると思っているのか?」
「アーマドスーツをつけて互角だ。」
「ふざけんな。」
亜希は少々頭にきて寸どめの蹴りを入れた。
中佐はほとんど動かず。足に指先で触れた。
「ふざけるな!」言うが否や亜希は中佐に後ろ回し蹴りをお見舞いする。。。筈だった。
「消えた。」次の瞬間亜希の視界から中佐が消えた。と思ったら、亜希の真後ろにぴったりと張り付いていた。
亜希は肘で中佐を攻めようとしたが、かわされ、両足の間に割って入られ、手を使わず軽く肩で押させるだけで、床に崩されてしまった。
「な、なんだ?」
亜希は転がりながら体制をたてなおそうとしたが、中佐は逃さずヒールを亜希の背中に押し込み、亜希は無様な格好で固められ、立つことができない。
中佐はそのまま亜希の手足を絡めて押さえ込んでしまった。
「ま、まいった。」
驚いた。亜希は負けたという屈辱感よりも、この細腕による奇妙な技術でおさえられたことに感動すら覚えた。
「こ、これは?」
亜希は負かされたにもかかわらず相手に畏敬の念を感じた。
次の瞬間中佐の顔が変化した。表面の皮膚が左右にスライドして、中の機械仕掛けが露わになった。
「私はサイボーグなんです。全身の大半を爆発で吹き飛ばされ、機械によって再生されました。今の技術は各国の武術のデータを総合して編み出された私専用の格闘術です。」
「そ、そうでしたか・・。」
亜希はサイボーグ化した相手に対してどういう言葉をかければいいのかわからなかった。そりゃ格闘面ではずるいという思いもあったが、人としての一部を失ったものも多いはずだ。
「こんな形で紹介させていただいたことをお許しください。我が国のサイボーグ技術を知っていただくには論より証拠と、Nが申しておりましたものですから。」
「おい、おまえもしかして、仕組んだな?」
「ひひ、ばれた?」
その後亜希は住まいを基地に移し、毎日会議とシュミレーションという名の訓練を行った。
潜入と敵の計画を事前につぶすのが、少人数で行えるもっとも効率的な方法であることはわかっていた。
兵器の開発は大国が技術を握っているだけでなく、昨今は近隣の小国も技術開発をし始めている。核兵器はすでに当たり前になっていた。だが近年我が国が開発した反転電磁場装置の存在が明るみにでて、核兵器の威力が疑問視されるようになってきた。反転電磁場という装置は戦後日本の研究者が研究を行ってきたがそれを政府の研究者が引き継いで完成させたものである。
電磁場を使って核エネルギーの爆発を反転させる装置である。これが知られれば、また核兵器をしのぐ兵器が開発されるだろうということで、この装置の存在は長い間秘匿されてきた。だが、作戦の全貌をしらない愚かなブロガーによってその存在が明るみにでた。
問題は核兵器の爆発をくい止める装置があったとしても、超小型の核兵器がいきなり爆発すれば、それを防ぐ時間はない。反転電磁場装置はそれなりの距離と配置、電力がないと機能しない。
「敵もサイボーグを開発し、人体に核兵器を埋め込む実験をしているのよ。」
さすがの亜希もぞっとした。それをされたら、簡単には相手を倒せない。相手を倒したとたん核爆発がおきる。
「その核サイボーグは何体できているの?」
「まだ一体のみ。しかも彼は敵の実験場から脱出してレジスタンスとして潜んでいるの。」
「そんな秘密を私にばらしていいの?」亜希は新参者の自分がそこまで信頼されているとは思っていなかった。
「敵国の中枢に忍びこんでもらわなくてはならないのよ。それくらい知っていないと困るわ」
「それで、その核サイボーグを倒すんでないとしたらどうするの?」
「計画全体を闇に葬るのよ。」
「それはかなり難しくない?できるということがわかってしまうと何十年も研究する奴が出てくる。アイデア盗用というやつだ。」
「すこしでも引き延ばして対抗策を編み出しかないのかしらね。」
「いま考えられるのは・・」Nが割り込んできた。「核エネルギーを事前に探知する装置の精度をあげること。そしてこちらも反電磁場装置を小型化して、あらゆるところにおいておくことだね。」
「つまり敵の核兵器の位置を正確に知る装置を開発し、その装置の近くに反電磁場装置をおけばいいということね。」
「しかしその反電磁場の位置を知られてはならない。」
「わからないように部品の一部に組み込むしかないわね。」
「一般人の目を欺くのはできるだろうけど、研究している科学者には見破られるわね。」
「その点はNの腕の見せ所ね。」
「核兵器の位置を知る装置はもうすでにできあがっているんだ。」Nが得意げにいう。
「あんたが造ったんじゃないでしょう。」亜希がすかさずつっこむ。
「まあそうなんだが、設置は多少手伝える。」
「反転磁場装置は敵に発見されないように、核兵器の近くに設置しなければならない。そのためには敵の基地に潜入する必要があるの」
「実は反転磁場装置は私の体にもすでに組み込まれているの。」中佐がいう。
「サイボーグ核兵器が発見されたからには反転磁場サイボーグも必要になってくるからね、対策として組み込まれたわけ。ただそのため1センチほどウエストが太くなったので中佐には恨みを買ったがね。」Nが自慢げにアピールする。
「よけいなことはいわんでいいでしょう。」中佐がNをにらみつけた。
「作戦の一つはできるだけ核兵器と反転磁場装置をセットにして行くことと、製造拠点の機能を破壊すること。技術者を亡命させることね。」
「しかし相手が亡命を望まなかったら。」
「望ませるしかないわ。多少強引な手を使ってでも。」
「誘拐、埒にならないかしらね。」
「ある意味なるわね。とことん話し合って理解してもらうかしらね。」
「それでも祖国に忠誠を誓おうとする科学者はいるでしょうね。」
「いずれにしても各開発をやめてもらわないと」
「それよりも、核の抑止力がなくなったら、核以外の大量殺戮兵器がひろがるんじゃない?また。」
「それを懸念しているのよ。」
「ガスとか細菌ウイルスもあるからね。」
「それぞれ中和したり無効にしたりする研究はされているけど、次々新しい大量破壊兵器が開発されて追いつかないのが現状よね。」
組織にはIQ200を越える人間がいて、彼らの意見は優先される。しかしその彼らがいうには、この戦いは一筋縄ではいかない。敵の背後には悪魔がいるというのである。
「いやいや。」亜希はあきれたようにいう。「まじ、帰ろうかな。」
「まてまて、なんかのたとえだろう。」Mが亜希を押しとどめる。
「いや、言葉を換えて説明する。我々の世界は幾層ものことなった次元が重なってできている。その次元の波動がより粗いものから微細なものまで、108の階層がある。
「それって百八つの鐘からとったんじゃない?」亜希が投げやりにいう。
古代人はどこからかこの数字を発見し百八つの煩悩などという行事に残したが、鐘の響きは波動を意味する。おそらく古代の超能力者はこのことをわかって仏教の行事にもりこんだのだろう。
「いやいや。もはや・・」言い掛けて亜希は口をつぐんだ。みなの顔があまりにも真剣だったからだ。
「この世界の粗い次元から、この世界に干渉がある。他の次元には他の生き物が存在している。微妙な世界からも微妙な生き物からの干渉がある。」
「それが天使と悪魔ってわけ?」
「そうだ。悪魔はこの世界を粗い世界に引っ張ろうとする粗い世界に引っ張られると、世界の調和は崩れ、破壊が繰り返され、戦争が起きる。」
「なるほど。」SFとしてはおもしろいと、亜希はこれをサイエンスフィクションと考えるようにした。
「世界が破壊の極に達すると今度は微細な側からの牽引力が強くなり、世界は調和に向かう。」
「振り子の原理ね。」亜希が頷く。
「こうして世界はこれまで破滅と再生を六回繰り返してきた。」
「その6回という数字はどこからきているの?」
「先の108の基礎になる6という数字からきている。六はダビデの星のとがった部分。3を二つ重ねたもので、。。。。。。」亜希の理解できない説明が続く。
「つまり今度は7回目がくるということ?」
「そうだ。古代中国の言い方をすれば天数ということか」
「じゃあ防げないってこと?」
「これまで6回は防げなかった。高度に文明が発達したけど完成するまえに破滅した。」
「今度が違うのは?」
「神は7日目に世界を造った。」
「おいおい」今度はキリスト教かよ。といいかけてまたもや言葉を飲み込んだ。
「完成の大きな転換がくる。古代人はあるいは、各階層の生物、天使とか悪魔とかいう存在は、このときを自分側に引き寄せようといろいろ画策してきた。」
「なんだ結局大戦争がおきるってこと?はっるまきうどんとかだっけ。」話についていけなくなった亜希はわざとふざけたようにいう。
「ハルマゲドン」中佐が口を挟む。
「天数ではこのハルマゲドンはこれまでで最高。最後。すべてのものを壊滅させる。」
「出直しか。」
「それから振り子が最後の調和に向かうというのだが。」
「人類絶滅するんじゃね?」亜希がいう。
「その可能性はあり、予言者によってはそういうものもでている。」
「数学ではどうなのさ。」
「振り子を安定させるには中央にもってくることで、ふりはばを小さくすることが必要で、これまでと同じようにしていては、調和の時代がきてもまた破壊の時代が訪れる。」
「ところがこの振り子の世界そのものの質が変わる。」
「え?どういうこと?」
「人類がステップアップして上のランクになり、壊滅と再興の繰り返しが、調和の中の変化、四季のような変化としてちょうど冬と、夏はあっても人類の季節として甘受する時代に突入する。」
「なるほど。しかしその前にハルマキウドンがあるわけね。」
「ハルマゲドン」Nが真面目にやれと目配せを送る。
「あ、それ。」
「いまの話だと人類が戦争に巻き込まれるのは仕方がないって話?」
「いや。太古人類と天使人類は、それを最小限にできるよう太古から仕掛けをつくってきている。」
「なになに。」
「世界の宗教をAIに分析させてわかったことだが、108の階層を造った存在が
地球上の大半を支配した悪魔計画があるなら天使の計画もあるだろうという話がでる
。少人数で対抗するなら天使の計画に載っかるのがいいという。
味方が劣勢になったのは、天変地異で太古のシステムが壊れたからだという。何でも人類は何度も崩壊しては復活している。この崩壊は自然災害でおきたといわれているが、原因は人類にあったらしい。
ムー大陸の時はクリスタルによる発電方式がとられていたがそれを軍事利用しようとしてそれが誤作動を起こし、地下のガスチェンバーに火がつき、大陸が沈むところまでいった。
今回核兵器の開発や原子力の開発の背景にも兵器開発の目的がある。原子力は少量のウランで莫大なエネルギーを生み出すが故に利用されていると説明されているが、実は目的は核技術の導入であった。おそろしいことに、原子力発電所があれば、核兵器をつくるのにさほどじかんはかからない。
科学者は真空が無限のエネルギーをもっているという数式を発見していた。ただ20世紀の物理学者はそれを理解できていなかった。地下組織はそれに気づいていた。だが同時にそれが、世界を滅ぼす兵器の開発に結びつくこともしっていた。
組織の科学者は戦略部隊と議論した。問題は戦うことでなく、人心の覚醒であると。野心をもった人間やテロリスト、間違った政治のもとでの科学開発は危険であり、人心を進歩させねばならないと。
人類全体が争いをなくすには、思想がかわる必要がある。しかも強制ではなく、自然に。
和解し、強調することを学ばねばならない。そのことがわかるような教育システムを武器とするような発想が必要であると。
亜希の頭ではよくわからないような説明をうけた。
で。どうしろと?
各国に説いてまわるのか?
人の良心に火をつける必要がある。
だが、家族でさえ言い争いはなくならないのに、そんなことが可能なのか。
太古にはそれが実現している時期もあった。
いかに。
こういうシステムを全世界に広めていた。
いかにそれを実現するのか、いかに可能なのか。
議論は袋小路にはいった。
作戦の参謀長が必要だな。
右大臣がつぶやく。
「そういう人材がいますか?」
中佐の半電脳でも戦術はたてられるが、戦略となると、大局的判断を要し、計算だけでは結論にならなかった。
『こういう話、あいつなら。』亜希は、かつてふった元カレを思いだしていた。
「いないことはないが別に何ができるという人じゃない・・・極めて凡庸古代に妙に興味をもっていていま私たちが聞いている話をほとんど知っていたわ。」
中佐と右大臣が顔を見合わせた。
「つまりこの話に自力で到達していたということか」
「ええ、当時は私は全く興味がなくて外を走り回っていたから、そいつと長くは続かなかったけど、悪い奴ではなかったわ。ただ運動はからきしだったけどね。」
「我々の話につながるのはだいたいオタクたちだ。彼もそうではないのかね?」
「まさにオタクの見本ね。でも、彼は太古のシステムの話をしていたわ。」
「なんともいえないが、彼と連絡を取ることはできるか?」
「えーと確か携帯に電話番号がのっているはずだけど。削減したかなあ。あー迷惑メールにいれてた。よく残していたものだわ。」
「あーもしもし?わたる?」
「あ、はい。」
「ちょっと話し聞きたいっていう人がいるんだどいい?」
「え?何の話し?」
「太古の文明がどうのという話よ。」
「おめえ、信じなかったじゃん。」
「ん・・まあ・・・ね。とりあえず電話かわるね。」
亜希は中佐に電話を渡す。
中佐は声を若い女性の声に調整して電話にでる。
「すいません。わたし、そういうことにとっても興味があって、電話で少しだけ聞いていいかしら。」
「ああ、いいですよ。」わたるは警戒心を解く。
「太古の文明っていつ頃に興味があるのですか?」
「人類はじめ以来っすよ。特に日本の超古代文明は興味ありますよ。」
「へえ、日本にも超古代文明ってあるんだ。」
「まあね。断片的だけど文献も残っている。竹内文書とか。そんなの興味あるの?」
「ええ。、それで、昔のその古代人が今の人類を予見してなにかシステムをつくたって話をきいたんですけど。」
「そんなはなしどこで聞いたんだい?マニアックだね」
そう言いながら亘も少々興味をひかれた。
「あんまりいうと頭がおかしいと思われるから言わないんだけど・・・まあいいや。亜希とはもうあんまり関係ないし。」
スマホの音声をスピーカーにしていることを亘は知らない。亜希はなんとなく顔をしかめて聞いていた。
「まあ、私は本当に興味があるので聴きたいの。電話でごめんなさいね。」
中佐は若い女の子を演出してお願いしてみる。
「ああ、電話じゃ全部話せないけど、太古人は僕らが想像できないような技術をもっていて、来るべき人類の災難を予知していたんだ。で、その回避方法もね。ただ、それをじゃまする勢力も存在して、隠れている。所在は僕だってわかるわけはない。
けれども手がかりは、遺伝子、歴史、地理、言語だね。そして特殊な数学もからんでいるだしいけどそれは僕の専門じゃないからわからない。とにかく古代人は古代の科学技術を使ってじゃまする勢力を出し抜いて、人類を存続させようとしていたんだよ。」
そこまで話して亘は我に返り。自分の話が電話の相手に伝わっていないだろうと感じられた。
「まあSFだよねえ。」
「私のうちは神社で古文書があって古くからの伝承がかいてあるのよ。神武天皇より前の気の遠くなる時代からのね。」
「え!君のうちはなんなんだ。」
「物部氏の子孫なのよ。蘇我氏が抹殺した歴史が残ってるの。」
「機会があったら見たいんだが。」
「ええ、父の許可が得られれば。」
「じゃあ、話しやすい。太古の文明は事実で、文明は6回滅んでいる。天皇は世界の中心。こんなこというと右翼と間違えられるけどね。でも太古からそうなんだ。そして神々という異次元の存在は天皇を中心として世界を元にもどそうとしているんだよ。」
「知ってるわ」
「好きだー」とワタルは心の中で叫ぶ自分の姿を想像し、つい思いが言葉に出てしまった
「え?問題は古代からの計画の詳細がつかめないことと、どうすればこの不利を逆転できるかということなのよ。」
「あ、いや、すいませんでしたー」という謝罪する自分の姿をワタルは思い描いた。
「その二つの問題は・・・僕にもわからない。だから僕は行動を起こせていない。」
亘わたるはこれまでの人生を振り返っていた。会社に入ったはいいがブラック。負け組。職を転々としながら太古の情報を集めてきたが、それも行き詰まっていた。
亜希はモニターでワタルの言葉を聞きながら、別れた頃のことを思い出していた。あの頃は陰鬱な妄想癖のあるこの男に嫌気がさして離れた。だが彼の言っていることはここにきて大半真実であることがわかったし、自分は信じてやれなかった。
「でどうなのよ。私たちと一緒に戦う気はあるの?」
「え?私たちって?」
中佐が亜希を押しとどめて穏やかな口調で話す。
「私たちは古代天皇につくられた隠密組織なのよ。」
「電話でそんなこといわれても大丈夫なん?」
「そこまではね。」
「それ以上はきてもらわないと。」
「どこへ?」
「広島」
「巨石のところ?」亘は広島の巨石文明のことを知っていた。
「さすがね。」
「あそこの秘密がわかると太古の計画がわかるようになると予言があるから。」
「その秘密組織でも困ったことが起きているので手伝ってもらいたいのよ。」
「しかし、仕事があるし・・」
「中佐、私が拉致しましょうか。」亜希がまた割ってはいる。
「わ、わかったとにかく行く気はあるが、仕事の方はなんとかしてくれ。」
「組織であなたを雇い、替わりに別の人間をあなたの職つけるわ。」
「退職金と定年は?」
「中佐、ちょっと活入れてきても入れてきてもいいですか?」
中佐は笑いながら答えた。
「安心しなさい終身雇用。年金付きよ。」
「わかりました。これから向かいます。」
ワタルはとりあえず職場に電話をかけて有給休暇をもらい、旅行の支度をして広島に向かった。
「以外と行動早いわね。」
「彼は日頃の仕事よりも、このことに熱中していましたから。でも彼を雇うなんて大丈夫ですか?ある意味ヘタレですよ。」
「私の聴覚は相手の心と身体の状態を声で分析し、脳の一部は言葉で分析できるようになっているの。だからこの任務に適しているかどうかはさっきの会話でほとんどわかるのよ。」
「へええ、そんなもんですか。」
「逃がした魚は大きかった?」Nがまたよけいなことをいう。
「なにいってんのよ。私はねそういう基準で相手は決めないわよ。」
「じゃなにで決めるのさ。スタミナ?」言うやいなや亜希の蹴りがNの臀部に命中した。