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❷ 早川亜希 見参  作者: 内藤晴夢
傭兵 早川亜希
1/3

入口


アーマドスーツがズシリと重い。スーツのバッテリーが少なくなりパワーが落ち、体力も低下している。


 敵はあと三体。しかも動きの速いやつが。亜希の武器は敵の動きを察知して自動追尾するショットガンだが、これも二、三体が同時に襲い掛かってくると、解析に手間取ってわずかに反応が遅くなる。敵はそこをついてくる。

 だから亜希は敵が一体づつしか襲って来れないように、狭い路地に敵を誘い込む。

 だが敵もそんなことは読んでいる。一体が先回りして抜け道を鉄骨で塞いでいた。

 高速移動していた亜希は勢い余って、その鉄骨に頭をぶつけ、ほんの一瞬意識がとぎれる。 

 敵はその一瞬に狙いをつけてレーザーを撃ってくる。亜希は動物的な勘でよけたが・・・焦げ臭い。レーザーがボディスーツのヒップラインをかすめた。

「ちっ!」 

「よくもあたしの美尻に傷をつけたわね。」

 乙女のアドレナリンが一気に噴き出す。

 回転しながら体勢を整え、前方の敵を撃つ。敵の胸板に穴があく。  

 同時に飛び上がって後ろからの射撃をかわしながら身体をよじり、敵の頭を打ちぬく。


 ショットガンが亜希の動きを誘導するとはいえ、亜希の身体も柔らかくなければ対応できるものではない。鍛えてはいるがそろそろ燃料切れだ、こたえる。


 あと一体。一番手強いやつだ。他のとは動きが違う。リーダー格らしくほかの奴らより賢くたちまわる。油断はできない。


 いつもはスーツを着ると時速120kmで走ることができる。しかし今のスーツの状態では省エネモードで100kmがせいぜいである。

 この時速20kmの差は大きい。今はスピードでは互角。ぶつかればパワーではかなわない。


 ビルの角に隠れて様子を伺う。ヘルメット内のスクリーンには衛星画像によって相手の位置がわかるはずなのだが、映らない。息をひそめて相手動きをうかがう。


 図体のでかいやつの身体が衛星画像に映らないとしたら、遮蔽壁を使った建物の陰だ。このあたりの建物は何か重要なものが保管されているらしく、外部から簡単に透視できないようになっている。


 ヘルメットを脱いで建物の角から出してみる。すぐさまメットは撃ち落とされたが、亜希のショットガンはすかさずその弾道を計算して相手の位置を割り出し、自動的にアーマドスーツに連動して敵に向けられて撃つ。

 手ごたえはあった。だか、打ち落としたのは相手の片腕と銃だけだった。


 こういう時には後ろと上に気を付けるのが鉄則だ。亜希は前に倒れこみながら、身体をひねりながら仰向けになり、ショットガンで撃ちあげるととともに左手で腰の小銃を抜いて上から落ちてくる敵の腹部に弾を何発も打ち込む。


 敵は亜希の上にくたばった状態で落下する。


「おいおい、私に被さるのは100年早い。」そう言いながら亜希は真上に落ちた敵を押しのけ、敵の機能停止を確認した。   


 亜希は自分のスーツの破損をチェックし、近くの修理屋を目指す。


 修理屋は荒れ果てた町工場の片隅に住まいを構えていた。壊れかけたドアから、ぎしぎしというベッドのきしみと女のうめき声が聞こえる。

「よお。」

 悪びれもせずシングルベッドで女と一戦を交えているのが修理屋のNだ。亜希の出現にNは驚かないが、腹にのっている女が驚いた。「誰あんた。」


「あー。ちょっと急ぎの仕事を頼みたい。」亜希は女を無視してNに話しかける。

 無視されたことにいらだった女はにらみ返す。

「なによ!」勝気な女だ。ひるまない。

「あーいや、すまん仕事だ。仕事がないとお前も呼べない。」Nは女を腹の上からおろしながらいう。「すまん。今日はこれで……、また呼ぶからな。」

 女はそそくさと身づくろいをする。亜希は損傷したアーマドスーツを脱いで、下着姿になる。

 女は舌打ちして亜希の下着姿をみながら部屋をでる。女同士がお互いの体を値踏みして火花をちらす。


「悪いわね。すぐに敵がきそうなのよ。」

「おいおい。まさか追っ手にばれてないだろうな。」Mと呼ばれる男は急ぎパンツをはきながら言う。

「たぶんね。」

「勘弁してくれ。何回引っ越しさせりゃあ気が済むんだ。」ズボンのベルトをしめながら顔をしかめる。

「いいじゃない。引っ越し代は政府が持つんだから。」

「いろいろ雑費がかかんだから。」

「まあ、頼むわ。」

 Nは亜希が脱ぎ捨てたスーツを手にとって調べる。

「ずいぶんやられたな。」

「ああ、毎回敵の性能が上がってきている。このままじゃやばい。」

「やばいなんて言葉はベッドの中でいきそうな時だけにしといてくれ。」

「なんだそれ、さっきの女か?お前、女の趣味変わったな。」

「ああ見えても男をたててくれんだぜ、お前と違って。」

「私じゃたたないってのかい?」そういいなが亜希はパンティのふちに親指をかけた。

「おめえ、修理代を体で踏み倒すつもりか?」

「あたしの身体は修理代百回分には匹敵するからね。」

「バカ野郎。そんなことやってたら俺は食っていくものがなくなる。敵が近いならやってる間に襲われるぜ。」

「そりゃまずいな。先に修理を頼む。」

「敵が兵器をグレードアップしているなら、こちらもグレードアップしないとな。」

「敵のスピードに対応できる銃がほしい。」

「ああ。スーツに装着できる大きさで、追尾機能のついた小型の弾丸と、全身のスーツの駆動性をあげた装置を組み込む。時速二百キロで走れる」

「そりゃ助かる。」

「請求書はお前個人に?それとも内閣情報局に?」

「内閣に通らない分は私に請求して。」

「ツケってことか?」

 そうはいっても亜希がこの男に余分なつけを払ったことはない。亜希はNのスケベ感情を利用して踏み倒すつもりだ。利用できるものはとことん利用するのが彼女の流儀でもある。


 修理屋Nが何か言おうとしたとき、爆破音が聞こえる。

「きたっ」亜希はとっさに自分のスーツをつかむ。

 3メートル級の装甲スーツ兵が住まいを壊しつつあるのがみえる。


 亜希を追ってきたのだ。

「早すぎる!」スーツの装着が間に合わない。「半裸で戦うんなら追加料金もらわんといかんじゃないか」

 場違いの亜希の発言にNもさすがにイラッとする。

「そこは女なら『恥ずかしいから』とかいうところだろ。むやみに脱ぐからだ。」

「おい、何とかしろ。」亜希はスーツをなんとか着ようとするが、敵の攻撃をかわすのが、精一杯で、うまく装着できない。

「また寝床を変えないとなあ。」

 そういうや否やNは私の腕をつかんでベッドに引き込む。

「な、なにをする。」

 亜希はNの腕を振り払おうとしたが、ベッドの下から金属性の板がせり出して二人を包みこみ、ベッドが見る間に座席に変形した。」

「こ、これは。」

 外壁が下からせり出し、飛行艇に変形する。

「あんまりこういう事態が多いので、一応準備はしておいた。」

 ベッドがコックピットになった飛行艇は浮き上がり、隠れ家の壁をぶち破りながら飛び出した。

 敵は飛べないが、持っていたRPGロケットランチャーで飛行艇に向けてねらいを定める。

「やばい。」二人が同時に声を上げた。

 Nが突然亜希の股間に手を突っ込んだようにみえた。反射的に亜希はNの顔を殴りつけた。

「いてええ。操縦レバーがここにあんだよ。」

「なんつうとこに操縦レバーつけているのよ。」

「いやあんたの股間がレバーの上に載っかってんだよ。」

 敵は大きいわりに動きが素早い。弾丸が発射された。

「きたぞ」Nは操縦桿を大きく左にきり、機体を傾け弾丸をよけた。この男、女にはだらしないがメカには強い。官製のアーマドスーツを改良してここまでにしたのは彼の才能だ。ここはまかせるしかない。


 Nが操縦レバーについたボタンを押す。背後に発射音が聞こえた。小型ミサイルが発射された。そのミサイルが敵を撃破した。

「大したものね」

「想定内だ」自慢気にいう。


「どこへいくの?」

「基地へ」

「基地があるの?」

「君には言ってなかったが、広島に基地がある」

「広島って?なぜそんなところに?」

「巨石があるだろう」

「太古遺跡とかいわれている?」

「ああ、それに関係がある。」

 広島には太古の遺跡文明の名残といわれる巨石がある。数十年前ここに古代文明の遺産が眠っているということで大規模な工事が行われた。結局何もなかったということだった筈だが。

 コックピットはシングルベッド一台がソファに変形したもので狭い。

 亜希は安全地帯に到着するまで、この男と狭いベッドで密着してなきゃならないというわけだ。しかも下着のまま。

「あー、操縦レバーがもう一つでてきたみたいだけど?」

「いやあ。そ、それは私のプライベートな操縦レバーでして…はははは」

 もう一発、見舞ったのは言うまでもない。


「なんでそんなところにいくの?ラブホテルとかないわよ。」

「まったく。俺をなんだと思っている。」

「スケベエンジニア」

「なにー」

「はいはい前をみてね」


 広島まで1時間。この調子で漫談を続けながら向かったものだから思ったより早い。二人とも寝る暇などはなかった。というか一応これはベッドである。亜希にとってはこのスケベ男と一瞬でも同じベッドに寝たことは報告書に残せない。そんなことをしたら後世の語りぐさになってしまう。とはいえ結局Nがこっそり記録して残るのだが。


 広島の巨石が見えてきた。

「あれか?」

「そうだ」

 飛行艇が降下し始めると巨石の一部が開いて中に誘導されるように滑り込んでいく。

「なんじゃこりゃ?」

 ただの修理屋だと思っていた男が巨大な地下要塞に入り込んでゆく。政府にこんなものがあったのか?

「俺はただのスケベエンジニアだ。」どうやら少々へそをまげてむっとしている。

 奥の管制塔と連絡をとりながら狭いスペースに飛行艇を着陸させた。

「さ、楽しいベッドタイムは終わり。」

「おまえなあ勘違いされるから二度というな。」

「おっ、ここではまじめか?」

「もとから真面目だ。」Mはむっとして返す。


 二人は狭い通路を通って、エレベーターで下に降り、扉らしき石の壁の前で言葉を発した。

「フタマルサンゴーただいま帰還しました。」とMは言う。

 自衛隊式の数字のよみ方だ。だとすると政府機関か?

 石の扉が左右に開く。中は会議室のようになっており、正面の巨大ディスプレイには日本を中心にした世界地図が映し出されていた。

「ようこそ亜希さん。」軍服を着た30代の女性が近づいてきて席に案内される。奥に30代から60代くらいの男女が数名、楕円形の机を囲んでいる。

「大臣こちらが政府機関Jで秘密裏に活動している亜希さんです。」

「はじめまして右大臣の竹内です。お会いできて光栄です。驚かれたでしょうが、ちょうど今戦略会議中なので、わかりにくい点もあるかと思いますが、ご参加ください。後ほど詳細は中佐からご説明します。」

「あ、どうもおそれいります。」

 急にしおらしくなる亜希をみてNが吹き出した。

 簡単に一人一人紹介され、亜希とNも席についた。

 若いイケメンやモデル並の美女もいるが、ゴリラとおぼしき男女もいる。みな士官らしい制服を着ている。女性は二人。まだまだ男女不均衡だ・・・・などと、亜希は思わない。こんなクソみたいな仕事は亜希だって仕方なくやってるだけで、粗暴な男にやらせておけばいい。『ほんとはわたしだって女優をやりたかったのだ・・・』と場違いないいわけを心の奥に押し込める。

 正面のスクリーンには世界地図が映し出され、赤いエリアが90%を覆っている。

「もはや政府の防衛能力では防ぎようがありません。」

「それで君は例の作戦を実行したいという訳だな。」

「はい。これまでわれわれは政府機関の防衛力が限界にくるまで身を潜めていました。しかし、今後は我々の作戦をより積極的なものにしてゆく必要があります。」

 この戦略説明をしている女、頭がきれる。すごいやり手だ。


『私もこんな女になりたかった・・・・。なんて思ってるんだろ。』

 Nがまじめな会議中に机の下のスマホでメッセージを送ってくる。器用なやつだ。

『どうなっているか説明してから会議に出席させてほしかったね。』送り返す。

『それはすまんな、下着姿とエロ話で忘れてた。』

 亜希はMを睨みつける。


 中佐と呼ばれた女性は説明を続ける。

 これまで組織は少数精鋭ながら各地に潜入して敵を攪乱し、政府の自衛隊を助けてきた。しかし日本の法律では現在も諜報機関の存在は認められていない。それゆえ組織の存在は極秘にされてきた。極秘となれば予算も活動も制限される。

「敵の開発工場をつぶそうと考えています。」

「どうやって?」

 眼鏡をかけた中間管理職らしき男が出席者の気持ちを代弁して発言する。

「いま来られた亜希さんに協力を仰ぎ、敵のロボット工場に潜入して破壊します。その作戦をモデルケースとして後続部隊と日本政府に情報を送りたいのです。」

「なるほど・・・でもですね。工場のセキュリティは様々ですし、戦闘は臨機応変な面も多いですからマニュアル化はできないでしょう。それに同じ国であれば敵も研究してきますからセキュリティも攻撃のたびに変わってくるでしょう。臨機応変に動ける戦闘員を育てていただくことは可能ですか」中佐と呼ばれた女性が答える。

「それは本部のバックアップと個人の才能にもよります。工場の破壊任務を通じて後継者を育て、同時にこちらの装備も開発してゆくという同時進行で作戦を考えています。」

「分かりました。政府機関にはうまくいっておいていただけるんでしょうね。」

「はいそれはもちろんです。」政府の事務官らしきスーツの男が答える。

 どうやら亜希はこの非政府組織の活動に参加することになるらしい。

 亜希はかねてから政府の仕事を請け負っていたので、陰の軍隊「別班」の噂はそれとなく聞いていた。それに参加できる、しかもリーダーとして作戦を任されるとなれば断る理由はなかった。

 中佐と呼ばれていた女性が親しげに近づいてきた。

「お噂は以前から伺っていました。お会いしたかったのです。ご挨拶が後になって申し訳ありません。お聞きになったように私たちは政府非公認の戦闘組織ですが、貴方のこれまでの戦闘経験を活かしてご協力いただけないでしょうか?」

「それは私も望むところです。が、給料は出るんでしょうね。」急にリアルな話を持ち出す亜希。だが、相手がどのように反応し、どのように自分を評価しているかがわかる質問だ。

「もちろんです。これまでの1.5倍は保証しましょう。」

「ならOKです。ただし実行メンバーは私に選ばせてください。」

「いいでしょう。それと・・・、あなたの作戦には私も参加させていただこうと思っています。よろしいかしら?」

「え?それはかまいませんが中佐殿には少しきついかもしれませんよ。」

亜希は中佐の体を値踏みしながら言った。

 細腕で中肉中背、胸は少し大きく、お世辞にも実戦経験豊富とは言えない。顔から首、手やスカートの下から見えるふくらはぎや脛には傷がなく、実戦経験の欠如が見て取れた。いわゆる制服組だ・・と思った。

しかし中佐はにこりと笑って「どうかしら。」と答えた。

 周りにいた幹部の顔に笑いが浮かんだ。

「おい、下でやれ。佐々木。」大臣がたしなめるように言った。

「はい、わかりました。」


 中佐の名前は佐々木というらしい。地下の体育館のようなところに案内され改めて自己紹介された。

 佐々木中佐は道場の真ん中に立ち、笑顔でいう。

 「ではどこからでもいいのでかかってきてください。」

 「あ、いや?さっきのせりふが気に障ったのなら謝ります。軍でも私と互角に戦える者はいない。」亜希がいう。

 「ええ存知ております。かまいません。思い切ってどこからでも。」

 やっかいな。女のプライドに火をつけてしまったと亜希は思った。Nは黙って様子をみている。

「おい、Nなんとかいえ。」

「いや、あんたはかなわない。」

「なに?」

「あんたは中佐にかなわない。」

「なにいってんだ。あの細腕に私が負けると思っているのか?」

「アーマドスーツをつけても互角だ。」

「ふざけんな。」

亜希は少々頭にきて寸どめの蹴りを入れた。

中佐はほとんど動かず。足に指先で触れた。

「ふざけるな!」

 言うが否や亜希は中佐に後ろ回し蹴りをお見舞いする。。。筈だった。

「消えた。」

 次の瞬間亜希の視界から中佐が消えた。と思ったら、亜希の真後ろにぴったりと張り付いていた。亜希は肘で中佐を攻めようとしたが、かわされ、両足の間に割って入られ、手を使わず軽く肩で押させるだけで、床に崩されてしまった。

「な、なんだ?」

 亜希は転がりながら体制をたてなおそうとしたが、中佐は逃さずヒールを亜希の背中に押し込み、亜希は無様な格好で固められ、立つことができない。

中佐はそのまま亜希の手足を絡めて押さえ込んでしまった。

「ま、まいった。」

 驚いた。亜希は負けたという屈辱感よりも、この細腕による奇妙な技術でおさえられたことに感動すら覚えた。

「こ、これは?」

 亜希は負かされたにもかかわらず相手に畏敬の念を感じた。

 次の瞬間中佐の顔が変化した。表面の皮膚が左右にスライドして、中の機械仕掛けが露わになった。

「私は全身の大半を爆発で吹き飛ばされ、機械によって再生されました。今の技術は各国の武術のデータを総合して編み出された私専用の格闘術です。」

「そ、そうでしたか・・。」

 亜希はサイボーグ化した相手に対してどういう言葉をかければいいのかわからなかった。そりゃ格闘面ではずるいという思いもあったが、人としての一部を失ったものも多いはずだ。

「こんな形で紹介させていただいたことをお許しください。我が国のサイボーグ技術を知っていただくには論より証拠と、Nが申しておりましたものですから。」

「おい、おまえもしかして、仕組んだな?」

「ひひ、ばれた?」


 その後亜希は住まいを基地に移し、毎日会議とシュミレーションという名の訓練を行った。

 潜入と敵の計画を事前につぶすのが、少人数で行えるもっとも効率的な方法であることはわかっていた。

 兵器の開発は大国が技術を握っているだけでなく、昨今は近隣の小国も技術開発をし始めている。核兵器はすでに当たり前になっていた。だが近年我が国が開発した反転電磁場装置の存在が明るみにでて、核兵器の威力が疑問視されるようになってきた。反転電磁場という装置は戦後日本の研究者が研究を行ってきたがそれを政府の研究者が引き継いで完成させたものである。

 電磁場を使って核エネルギーの爆発を反転させる装置である。これが知られれば、また核兵器をしのぐ兵器が開発されるだろうということで、この装置の存在は長い間秘匿されてきた。だが、作戦の全貌をしらない愚かなブロガーによってその存在が明るみにでた。数年前あわや日本崩壊といわれる寸前で原子力発電所のメルトダウンが収束できたのは陰でこの反電磁場装置が使われたおかげだった。

 問題は核兵器の爆発をくい止める装置があったとしても、超小型の核兵器がいきなり爆発すれば、それを防ぐ時間はない。反転電磁場装置はそれなりの距離と配置、電力がないと機能しない。

「敵もサイボーグを開発し、人体に核兵器を埋め込む実験をしているのよ。」

 さすがの亜希もぞっとした。それをされたら、簡単には相手を倒せない。相手を倒したとたん核爆発がおきる。

「その核サイボーグは何体できているの?」

「まだ一体のみ。しかもその彼は敵の実験場から脱出してレジスタンスとして潜んでいるの。」

「そんな秘密を私にばらしていいの?」亜希は新参者の自分がそこまで信頼されているとは思っていなかった。

「敵国の中枢に忍びこんでもらわなくてはならないのよ。それくらい知っていないと困るわ」

「それで、その核サイボーグを倒すんでないとしたらどうするの?」

「計画全体を闇に葬るのよ。」

「それはかなり難しくない?できるということがわかってしまうと何十年も研究する奴が出てくる。アイデア盗用というやつだ。」

「すこしでも引き延ばして対抗策を編み出しかないのかしらね。」

「いま考えられるのは・・」Nが割り込んできた。「核エネルギーを事前に探知する装置の精度をあげること。そしてこちらも反電磁場装置を小型化して、あらゆるところにおいておくことだね。」

「つまり敵の核兵器の位置を正確に知る装置を開発し、その装置の近くに反電磁場装置をおけばいいということね。」

「しかしその反電磁場の位置を知られてはならない。」

「わからないように部品の一部に組み込むしかないわね。」

「一般人の目を欺くのはできるだろうけど、研究している科学者には見破られるわね。」

「その点はNの腕の見せ所ね。」

「核兵器の位置を知る装置はもうすでにできあがっているんだ。」Nが得意げにいう。

「あんたが造ったんじゃないでしょう。」亜希がすかさずつっこむ。

「まあそうなんだが、設置は多少手伝える。」

「反転磁場装置は敵に発見されないように、核兵器の近くに設置しなければならない。そのためには敵の基地に潜入する必要があるの」

「実は反転磁場装置は私の体にもすでに組み込まれているの。」中佐がいう。

「サイボーグ核兵器が発見されたからには反転磁場サイボーグも必要になってくるからね、対策として組み込まれたわけ。ただそのため1センチほどウエストが太くなったので中佐には恨みを買ったがね。」Mが自慢げにアピールする。

「よけいなことはいわんでいいでしょう。」中佐がNをにらみつけた。

「作戦のポイントはできるだけ核兵器と反転磁場装置をセットにして行くことと、製造拠点の機能を破壊すること。技術者を亡命させることね。」

「しかし相手が亡命を望まなかったら。」

「望ませるしかないわ。多少強引な手を使ってでも。」

「誘拐、埒にならないかしらね。」

「ある意味なるわね。とことん話し合って理解してもらうかしらね。」

「それでも祖国に忠誠を誓おうとする科学者はいるでしょうね。」

「いずれにしても核開発をやめてもらわないと」

「それよりも、核の抑止力がなくなったら、核以外の大量殺戮兵器がひろがるんじゃない?また。」

「それを懸念しているのよ。」

「ガスとか細菌ウイルスもあるからね。」

「それぞれ中和したり無効にしたりする研究はされているけど、次々新しい大量破壊兵器が開発されて追いつかないのが現状よね。」


 組織にはIQ二百を越える人間がいて、彼らの意見は優先される。しかしその彼らがいうには、この戦いは一筋縄ではいかない。敵の背後には悪魔がいるというのである。

「いやいや。」亜希はあきれたようにいう。「まじ、帰ろうかな。」

「まてまて、なんかのたとえだろう。」Mが亜希を押しとどめる。

「いや、言葉を換えて説明する。我々の世界は幾層ものことなった次元が重なってできている。その次元の波動がより粗いものから微細なものまで、百八の階層がある。

「それって百八つの鐘からとったんじゃない?」亜希が投げやりにいう。

 古代人はどこからかこの数字を発見し百八つの煩悩などという行事に残したが、鐘の響きは波動を意味する。おそらく古代の超能力者はこのことをわかって仏教の行事にもりこんだのだろう。

「いやいや。もはや・・」

 言い掛けて亜希は口をつぐんだ。みなの顔があまりにも真剣だったからだ。

「この世界の粗い次元から、この世界に干渉がある。他の次元には他の生き物が存在している。微妙な世界からも微妙な生き物からの干渉がある。」

「それが天使と悪魔ってわけ?」

「そうだ。悪魔と呼ばれる負の意識生命体はこの世界を粗い世界に引っ張ろうとする。粗い世界に引っ張られると、世界の調和は崩れ、破壊が繰り返され、戦争が起きる。」

「なるほど。」SFとしてはおもしろいと、亜希はこれをサイエンス・フィクションと考えるようにした。

「世界が破壊の極に達すると今度は微細な側からの牽引力が強くなり、世界は調和に向かう。」

「振り子の原理ね。」亜希が頷く。

「こうして世界はこれまで破滅を六回繰り返してきた。」

「その六回という数字はどこからきているの?」

「先の108の基礎になる6という数字からきている。六はダビデの星のとがった部分。3を二つ重ねたもので、。。。。。。」亜希の理解できない説明が続く。


「つまり今度は7回目がくるということ?」

「そうだ。古代中国の言い方をすれば天数ということか」

「じゃあ防げないってこと?」

「これまで6回は防げなかった。高度に文明が発達したけど完成するまえに破滅した。」

「今度が違うのは?」

「神は7日目に世界を造った。」

「おいおい」今度はキリスト教かよ。といいかけてまたもや言葉を飲み込んだ。

「完成の大きな転換がくる。古代人はあるいは、各階層の生物、天使とか悪魔とかいう存在は、このときを自分側に引き寄せようといろいろ画策してきた。」

「なんだ結局大戦争がおきるってこと?はっるまきうどんとかだっけ。」話についていけなくなった亜希はわざとふざけたようにいう。

「ハルマゲドン」中佐が口を挟む。

「天数ではこのハルマゲドンはこれまでで最高。最後。すべてのものを壊滅させる。」

「出直しか。」

「それから振り子が最後の調和に向かうというのだが。」

「人類絶滅するんじゃね?」亜希がいう。

「その可能性はあり、予言者によってはそういうものもでている。」

「数学ではどうなのさ。」

「振り子を安定させるには中央にもってくることで、ふりはばを小さくすることが必要で、これまでと同じようにしていては、調和の時代がきてもまた破壊の時代が訪れる。」

「ところがこの振り子の世界そのものの質が変わる。」

「え?どういうこと?」

「人類がステップアップして上のランクになり、壊滅と再興の繰り返しが、調和の中の変化、四季のような変化としてちょうど冬と、夏はあっても人類の季節として甘受する時代に突入する。」

「なるほど。しかしその前にハルマキウドンがあるわけね。」

「ハルマゲドン」Mが真面目にやれと目配せを送る。

「あ、それ。」

「いまの話だと人類が戦争に巻き込まれるのは仕方がないって話?」

「いや。太古人類と天使人類は、それを最小限にできるよう太古から仕掛けをつくってきている。」

「なになに。」

「世界の宗教をAIに分析させてわかったことだが、108の階層を造った存在が

  地球上の大半を支配した悪魔計画があるなら天使の計画もあるだろうという話がでる

。少人数で対抗するなら天使の計画に載っかるのがいいという。

 味方が劣勢になったのは、天変地異で太古のシステムが壊れたからだという。何でも人類は何度も崩壊しては復活している。この崩壊は自然災害でおきたといわれているが、原因は人類にあったらしい。

 ムー大陸の時はクリスタルによる発電方式がとられていたがそれを軍事利用しようとしてそれが誤作動を起こし、地下のガスチェンバーに火がつき、大陸が沈むところまでいった。

 今回核兵器の開発や原子力の開発の背景にも兵器開発の目的がある。原子力は少量のウランで莫大なエネルギーを生み出すが故に利用されていると説明されているが、実は目的は核技術の導入であった。おそろしいことに、原子力発電所があれば、核兵器をつくるのにさほどじ時間はかからない。

 科学者は真空が無限のエネルギーをもっているという数式を発見していた。ただ20世紀の物理学者はそれを理解できていなかった。地下組織はそれに気づいていた。だが同時にそれが、世界を滅ぼす兵器の開発に結びつくことも知っていた。

 組織の科学者は戦略部隊と議論した。問題は戦うことでなく、人心の覚醒であると。野心をもった人間やテロリスト、間違った政治のもとでの科学開発は危険であり、人心を進歩させねばならないと。

 人類全体が争いをなくすには、思想がかわる必要がある。しかも強制ではなく、自然に。

和解し、強調することを学ばねばならない。そのことがわかるような教育システムを武器とするような発想が必要であると。

亜希の頭ではよくわからないような説明をうけた。

で。

どうしろと? 各国に説いてまわるのか?人の良心に火をつける必要がある。

だが、家族でさえ言い争いはなくならないのに、そんなことが可能なのか。太古にはそれが実現している時期もあった。

いかに。こういうシステムを全世界に広めていた。

いかにそれを実現するのか、いかに可能なのか。

議論は袋小路にはいった。

作戦の参謀長が必要だな。


右大臣がつぶやく。

「そういう人材がいますか?」

中佐の半電脳でも戦術はたてられるが、戦略となると、大局的判断を要し、既知の知識によるAIの計算だけでは結論にならなかった。

『こういう話、あいつなら。』亜希は、かつて袖にした元カレを思いだしていた。

「いないことはないが別に何ができるという人じゃない・・・極めて凡庸古代に妙に興味をもっていていま私たちが聞いている話をほとんど知っていたわ。」

中佐と右大臣が顔を見合わせた。

「つまりこの話に自力で到達していたということか」

「ええ、当時は私は全く興味がなくて外を走り回っていたから、そいつと長くは続かなかったけど、悪い奴ではなかったわ。ただ運動はからきしだったけどね。」

「我々の話につながるのはだいたいオタクたちだ。彼もそうではないのかね?」と右大臣が怪訝な顔つきする。

「まさにオタクの見本ね。でも、彼は太古のシステムの話をしていたわ。」

「なんともいえないが、彼と連絡を取ることはできるか?」どのような可能性でも利用しようとする中佐は興味をもった。

「えーと確か携帯に電話番号がのっているはずだけど。削除したかなあ。あー迷惑メールにはいってる。よく残ってたものだわ。」亜希はすぐに電話をかける。

「あーもしもし?わたる?」

「あ、はい。」

「ちょっと話し聞きたいっていう人がいるんだどいい?」

「え?何の話し?」

「太古の文明がどうのという話よ。」

「おめえ、信じなかったじゃん。」

「ん・・まあ・・・ね。いま興味のある娘いてね、話聞きたいって。とりあえず電話かわるね。」

 亜希は神崎の返事を待たずに中佐に電話を渡す。

 中佐は若い女性の声で電話にでる。

「すいません。わたし、そういうことにとっても興味があって、電話で少しだけ聞いていいかしら。」

「ああ、いいですよ。」は警戒心を解く。

「太古の文明っていつ頃の研究しているんですか?」

「人類はじめ以来っすよ。特に日本の超古代文明は興味ありますよ。」

「へえ、日本にも超古代文明ってあるんだ。」

「まあね。断片的だけど文献も残っている。竹内文書とか。そんなの興味あるの?」

「それ、知ってます。それで、昔のその古代人が今の人類を予見してなにかシステムをつくたって話をきいたんですけど。」

「そんなはなしどこで聞いたんだい?マニアックだね」そう言いながら神崎も少々興味をひかれた。

「あんまりいうと頭がおかしいと思われるから言わないんだけど・・・まあいいや。亜希とはもうあんまり関係ないし。」

 スマホの音声をスピーカーにしていることを神崎は知らない。亜希はなんとなく顔をしかめて聞いていた。

「まあ、私は本当に興味があるので聴きたいの。電話でごめんなさいね。」

 中佐は若い女の子を演出してお願いしてみる。

「ああ、電話じゃ全部話せないけど、太古人は僕らが想像できないような技術をもっていて、来るべき人類の災難を予知していたんだ。で、その回避方法もね。ただ、それをじゃまする勢力も存在して、隠れている。所在は僕だってわかるわけはない。けれども手がかりは、遺伝子、歴史、地理、言語だね。そして特殊な数学もからんでいるだしいけどそれは僕の専門じゃないからわからない。とにかく古代人は古代の科学技術を使ってじゃまする勢力を出し抜いて、人類を存続させようとしていたんだよ。」

 そこまで話して神崎は我に返り。自分の話が電話の相手に伝わっていないだろうと感じられた。

「まあSFだよねえ。」

「私のうちは神社で古文書があって古くからの伝承がかいてあるのよ。神武天皇より前の気の遠くなる時代からのね。」

「え!君のうちはなんなんだ。」

「物部氏の子孫なのよ。蘇我氏が抹殺した歴史が残ってるの。」

「機会があったら見たいんだが。」

「ええ、父の許可が得られれば。」

「じゃあ、話しやすい。太古の文明は事実で、文明は6回滅んでいる。こんなこというと右翼と間違えられるけどね。でも太古からそうなんだ。そして神々という異次元の存在は一人の王を中心に世界を元にもどそうとしているんだよ。」

「知ってるわ」

『好きだ~』と神崎は心の中で叫んだ。亜希だけがこの神崎のスケベ心の叫びが聞こえた・・気がした。

「問題は古代からの計画の詳細がつかめないことと、どうすればこの不利を逆転できるかということなのよ。」

「あ、いや、すいませんでしたー」という謝罪する自分の姿をワタルは思い描いた。

「その二つの問題は・・・僕にもわからない。だから僕は行動を起こせていない。」


 神崎はこれまでの人生を振り返っていた。卒業後会社に入ったはいいがブラック。負け組。職を転々としながら太古の情報を集めてきたが、それも行き詰まっていた。

 亜希は神崎の言葉を聞きながら、別れた頃のことを思い出していた。あの頃は陰鬱な妄想癖のあるこの男に嫌気がさして離れた。だが彼の言っていることはここにきて大半真実であることがわかったし、信じてやれなかった自分は彼にいささか負い目を感じた。

「でどうなのよ。私たちと一緒に戦う気はあるの?」

「え?私たちって?」

中佐が亜希を押しとどめて穏やかな、しかし大人のやや低い口調で話す。

「実は私たちは古代天皇につくられた隠密組織と関係があるの。」

え?若い子じゃなかったの?

「電話でそんなこといわれても大丈夫なん?」

「そこまではね。」

「それ以上はきてもらわないと。」

「どこへ?」

「広島」

「巨石のところ?」神崎は広島の巨石文明のことを知っていた。

「さすがね。」

「あそこの秘密がわかると太古の計画がわかるようになると予言があるから。」神崎はある預言者の言葉を思い出していた。

「その秘密組織でも困ったことが起きているので手伝ってもらいたいのよ。」

「しかし、仕事があるし・・」

「中佐、私が拉致しましょうか。」亜希がまた割ってはいる。

「わ、わかった。とにかく行く気はあるが、仕事の方はなんとかしてくれ。」

「組織であなたを雇い、替わりに別の人間をあなたの職つけるわ。」

「退職金と定年は?」神崎はかつてこの手の勧誘で壺を買わされそうになり、痛い目にあったことがあった。こういうところを亜希とはいつの間にか影響されいたのかもしれないと内心面白がりながら中佐に言った。

「中佐、ちょっと活入れてきても入れてきてもいいですか?」

中佐は笑いながら答えた。

「安心しなさい終身雇用。年金付きよ。」

「わかりました。これから向かいます。」

 神崎はとりあえず職場に電話をかけて有給休暇をもらい、旅行の支度をして広島に向かった。

「以外と行動早いわね。」

「彼は日頃の仕事よりも、このことに熱中していましたから・・。でも彼を雇うなんて大丈夫ですか?ある意味ヘタレですよ。」

「私の聴覚は相手の心と身体の状態を声で分析し、脳の一部は言葉で分析できるようになっているの。だからこの任務に適しているかどうかはさっきの会話でほとんどわかるのよ。」

「へええ、そんなもんですか。」

「逃がした魚は大きかった?」Nがまたよけいなことをいう。

「なにいってんのよ。私はねそういう基準で相手は決めないわよ。」

「じゃなにで決めるのさ。スタミナ?」言うやいなや亜希の蹴りがNの臀部に命中した。


 広島についた神崎は亜希の指示に従い巨石の地下に誘導された。彼にとっては妄想といわれつづけた研究が現実であると確認された瞬間で感無量だった。しかも地下組織の要請を受けての来訪である。

表面は岩盤のドアが開くと亜希が立っていた。

「やあひさしぶり。」

「元気だった?」亜希にとってはふった相手との再会。奇妙な気分だが、少しよそよそしさをただよわせながら神崎を奥の部屋に案内した。

 そこには右大臣をはじめ主要なメンバーがそろっていた。

「よくきてくれた。概略は中佐から聞いたと思うが、君の力を借りたい。」

「はい、しかし私のような者でお役に立てますかどうか。」

`中佐が話のポイントを絞って話す。

 神崎には予備知識があるため、中佐の説明を一度聞いただけで事態の深刻さを理解した。


「各地のアンドロイド、ロボットの工場を破壊したいのですね。」

「ええ、でもそれだけでいいのかというところで行き詰づまっているわけ。」

「それはそうでしょう。」

「え?」

「今回の戦いは目に見える戦いとともに思想戦を加え、異次元間の戦争も仕掛けられています。

「?異次元?」

 中佐と亜希は顔を見合わせた。


「あんたまで悪魔とかいいだすわけ?」


「昔、殷と周との戦争があったことは御存じですよね。」一応二人の基本的な教養を確認する。中国古代の大戦争だ。「あの頃は目に見えない存在がまだ認められていたから、双方に呪術師がいました。しかしいまは、科学で目が曇ってしまっていますから、みに見えない次元の存在が関与していることがわからないのです。」


「おいおい流行りの呪術大戦やる気?」

亜希がちゃかしていう。

 佐々木中佐は困惑した表情で神崎をみていた。人選を誤ったのではないかという思いがよぎった。

 場違いな雰囲気を作り出すのは神崎の得意技であったが、亜希もここまでとは思わなかった。

「私達の見ている現界は、もっと無限の次元の一部で、幾層にも重なっていて、互いに干渉しあっている。」神崎は続ける。

「なるほど多次元空間の理論というわけか。」Mが口を挟んだ。「それならわかる。」

「そうだ。空間の密度、波動などの差で幾層もの世界が存在していて、この現界はそのちょうど中間にある。」

「それが、戦略とどういう関係があるのよ。」

「いまこの世界は荒い、負の次元が、共鳴して、それがこの物質界に現れている。実は人間が、異次元の波動を受けて、世界を変えて行く重要な中継点なのだが、人間の大半がこの事実を忘れて物質欲にはまって粗い負の波動を中継するたようになってしまったので、世界の飢、病、戦争をとめられなくなってしまったんだ。」

「だから?」亜希はいらいらしながら神崎の話を聞いていた。

「敵の工場を叩くとともに、敵の開発中のサイボーグを味方につけられないか?」神崎は突拍子もないことを提案する。

「あのさあ、破壊するだけで精一杯なのに、そんなにうまくゆくわけないじゃん。作戦が難しくなってこちらのリスクが高まるだけよ。」亜希はあきれたように言う。

ところが中佐は違った。

「いやまて、囲碁と同じだ。敵を抹殺していくだけでは解決しない。敵を味方に付ければこの戦況を一気に変えられる。」

「しかし、改心を迫ったたところでやはりこちらが圧倒的な力を示さないと納得しないでしょう。」戦略室長が発言する。

「兵隊を動かしているのは将校で、将校を動かしているのは将軍だ。そして将軍にアクセスしているのは実は背後の権力者で彼らには異次元の存在が知識を与えている。だから将軍を殺しても異次元の存在は入れ物になる人間を替えて共鳴するだけだから変わらない。」

「異次元の波動を変える方法は?」

「他人数で思念をあつめ、言語の組み合わせによって空間に特定の振動を作りだしていく。」

「音響兵器というわけか?」Mが問う。

「少し違う。コトダマ兵器だ。」神崎は当時とはうって変わった別人のように話し始める。

「古代人は音声波動を変え、天国と呼ばれる次元と共鳴するために、様々な呪文を作った。それにより一定期間人類は何後もなく平和に暮らしていたこれが楽園伝説。ところが悪魔とかサタンとか言われる存在が人類に干渉し始めてこの呪文の原理を悪用して魔法を生み出した。」

「ちょっとまてこんどは魔法か?ついていけんぞ。」亜希はおいてゆかれたような気がした。

「あ、すまん。魔法というのは太古の科学に過ぎない。呪文もその応用。」

「で、結局工場破壊はどうするの?。」中佐が話を戻す。

「結局、核兵器搭載のサイボーグが量産される。それを止めるには、どうすればいいか。」


「サイボーグが人間ならば洗脳されていても人間的な感情を増大させれば戦闘意欲をうしなうのではないか。」Mが思いついたようにいう。「言語パターンの組み合わせでサイボーグの人間的感情を強化する。そういう兵器を作ればいいんだ。」

「そんなことができるの?」亜希はMに聞く。

「うん。コトダマ兵器という言葉でひらめいた。人間の脳は言葉に反応する。相手がどの言語でそだってきたかわかれば、その言語の波動を直接脳に送り込んで、戦闘意欲をなくすようにすればいい。」

 中佐が聞く。「どのくらいで兵器化できる?」

「半年もあれば」

「3か月でやって。」

「わかりました。」

 中佐は訓練に言霊の練習を入れることを考えていた。

「神崎さんは味方の言霊の訓練計画を作って。」

「え、しかし私は言霊については専門ではないので、誰か専門家が必要です。」

「私の父が詳しいから父を呼ぶわ。連携を取ってちょうだい。」

「わかりました。」


神崎は解散した後亜希にこっそり聞く。

「あの人、何者?」

「え?あの電話の女子だけど?なにか?」

「え、いや、あの、え~~。」神崎の淡いした心ははかなくも砕け散り、

亜希がざまみろと思ったのはいうまでもない。




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