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なりゆき乱世2~もう一人の梟雄~  作者: 唖鳴蝉
第一部 戦乱の兆し 篇
9/55

幕  間 ソン・ベイル

(思えば遠くへ来たもんだ……)



 ベイルは感慨深げに、そして幾ばくかの苦笑混じりに、これまでの半生を振り返っていた。



・・・・・・・・



 彼の出身は東部の寒村であると言われているが、確かなところは判らない。

 後に乱世の(きょう)(ゆう)として広くその名を知られるソン・ベイルであるが、子供時代の彼はどこにでもいる悪ガキの一人、それも、どちらかと言えば仲間の陰に隠れているような臆病な子供に過ぎなかった。


 最初の転機が訪れたのは、旅の占術師が村に立ち寄った時の事。一時の戯れか気の迷いか、その占術師は子供であったベイルの相を観て、将来は英雄か――もしくは大盗賊になるだろうと予言したのである。

 この予言は、村人たちには不吉な報せとして受け取られたが、少年ベイルにとっては違った。自分は選ばれた者であるという自覚と自負は少年に自信を与え、それまでケチなチンピラ予備軍でしかなかった彼に強烈なカリスマ性をもたらしていた。いつしか彼は村の悪童たちの中でも一目置かれる存在になっていたのである。


 第二の転機は、ベイルの村を襲った夜盗たちがもたらしてくれた。

 夜盗たちに襲われた村人は散り散りに逃げたが、幼いベイルは夜盗の仲間に入る事で生き延びた。その後、盗賊たちに小突かれたり殴られたり、時にはお(こぼ)れに(あずか)ったりしながら、ベイルは盗賊のやり口というものを身に着けていった。

 そうしたある日、ベイルは酒瓶(さけがめ)に遅効性の毒を入れる事で、宴会真っ最中の盗賊たちを皆殺しにしたのである。



(色々世話になったけど……もう覚える事は覚えちまったからな。あんたたちを生かしておく必要も無くなったんだ)



 二年以上一緒に過ごした盗賊たちを皆殺しにしたのは、村の者たちの仇討ち……などではなく、



(俺の(もの)を荒らした(むく)いってやつを受けてもわらないとな)



 ――という、ある意味で自分勝手な理由であった。

 ともあれ、後年乱世の(きょう)(ゆう)と呼ばれる事になるソン・ベイルは、この時その第一歩を踏み出したのである。


 なお、ベイルが盗賊の仲間に入ったのは、単に命が惜しかったからではない。

 末は英雄か大盗賊かと言われたベイルだが、彼のみるところ両者の本質に大きな違いは無かった。あるとすれば、前者は勝ち組で後者は負け組だという事ぐらいだろう。下克上上等のこのご時世だと、一層それが()く解る。



(だったら……一国一城の主を目指すのに、盗賊から始めるってのもありだよな……)



 そのためにこそ、ベイルは敢えて盗賊の仲間に入り、そのやり口を学び取ったのである。偵察の仕方、馬の世話や乗り方、夜襲の仕掛け方、合図の方法……覚えるべき事は多く、それらは戦の兵法と何ら変わるところが無かった。


 人格や才能がどうこうという以前に、運命によって見出された者。その運命の荒波を天性の嗅覚で泳ぎ切る事ができる者。ベイルはそんな人間の一人であり、危険と利益を的確に嗅ぎ付ける嗅覚は、()(はや)スキルと呼んでも過言ではなかった。



(けど……国盗りを狙おうにも、一人じゃどうにもならねぇか……)



 ここに至って、ベイルは二つある選択肢のどちらを選ぶか、頭を悩ませる事になった。このまま盗賊稼業に進み、先に仲間を集めるか。それともどこかの領主に仕え、そこの一員となって仲間を得るか。要は仲間を集めるのを先にするか、仕官を優先するかという問題である。どうせ国盗りを視野に入れる以上、領主たちとのコネや知識も必要になる。仕官は既定の方針だとしても、それを急ぐか後に回すか。


 ――とは言え、悩んでいた時間は長くはなかった。


 ベイルは(ぞう)(ひょう)の一人に甘んじるつもりなど毛頭無く、一廉(ひとかど)の武将として雇われるつもりであった。ならば悩む必要など無い。ただ、自分の事を売り込むに当たっては、役に立つ存在である事を見せつけねばならない。そのためには、使える手勢を従えている必要がある。



(なら……盗賊稼業をおっ始めて、仲間を集める方が先か)



 盗賊稼ぎに手を染める事自体には、ベイルは何の忌避感も感じなかった。今の時勢は強さが全て、善だの悪だのの出る幕は無い。強い者は腹一杯食べて、弱い者は飢えて死んでいく。死ぬのが嫌なら強くなるしかない。それを体現しているのが、日々抗争に明け暮れている領主たちではないか。自分がそれを()(なら)って何が悪い。



「悪党と罵られようとも、俺の運命は俺が決める」



 盗賊になる事には(ごう)逡巡(しゅんじゅん)しなかったベイルであったが、仲間選びには気を(つか)う事になった。戦場で生き延びる事を考えれば、必要なのは使える部下だ。虚仮(こけ)(おど)し用の(あたま)(かず)など、今はまだ必要ではない。



「俺に()いて来れるやつだけが俺の仲間だ!」



 自分の運は自分で試すとばかりに先陣を駆け抜けるベイル。ヘマをすれば死ぬ。それは自分も子分も変わらない。自分と同じように子分を扱うという意味では、ベイルは平等主義者であった。ベイルに続く者は、いずれも彼を慕って集まってきた腕利き揃いである。ベイルの指示の(もと)、神出鬼没、変幻自在に戦場を駆け巡る。その数は既に五十騎に迫ろうとしていた。



(思ったより早く仲間は揃った。あとは……機会ってやつか)



 その機会は、ベイルの予想より早く現れては消え……その度に期待と落胆を繰り返す事になった。

 マナガという男が騒乱の火種を蒔いたかと思ったらすぐにそれを回収し、フォスカ家の姫を手に入れるかと考えていたらその姫はマナガの手に落ち……たかと思うと脱出し……


 結局は地道な就活に頼る事にして傭兵団を結成し、未だに焦臭(きなくさ)い情勢の中でシカミ家に雇われる事になったのがつい先日の事であった。



・・・・・・・・



「お頭、シカミ家に雇われた後はどうなさるんで?」

「団長と呼べ、団長と。……何しろ戦模様ってやつがまるで判らんしな。しばらくはシカミ家の言うとおりに動くしか()ぇだろうよ。それから先は……まぁ、機会を見てってやつだな」

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