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なりゆき乱世2~もう一人の梟雄~  作者: 唖鳴蝉
第三部 戦乱の拡大 篇
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エピローグ

 ~フォスカ~


 その月の丁度半ば頃、フダラ山地にあるフォスカ軍兵営兼居留地――未だに正式名称が決まっていない――では、夜半に月見の祭りが開かれていた。この国ではこの時期に開かれる祭りは無いというが、当面マナガはフォスカ家にちょっかいを出している暇は無いだろうという事で、()わば束の間の平穏とも言うべきこの時期を利用して、息抜きをしようという事になったのである。ちなみに、発端となったのはまたしてもマモルの十五夜発言であり、祭りの口実に持って来いとばかりに全員が話に乗ったというのが実情である。



「どうやら皆も楽しんでくれているようだな」



 心持ちほっとした表情で言ったのはユーディス姫。正面切っての戦乱には巻き込まれていないとは言え、このところ殺伐とした毎日を送っていただけに、仮令(たとえ)この一夜限りであったとしても、争いを忘れ祭りを楽しんでもらえているのは嬉しい事のようであった。



「しかしマモルよ、この月見というのはお前の国の風習だと言うが……祭りとは違うのか?」

「神事祭礼というよりも、年中行事の一つになってるんですよ。元々がどうなのかまでは知りませんけど。お供え物もお月様に対するものですね」

「この国では月の神も信仰されているのだが……」

「それはそれで構わないんじゃないですか? 身も蓋も無く言ってしまえば、宴会の理由でしかないわけですし」

「本当に身も蓋も無いな……」



 マモルの視線の先では、シカミ軍から脱走してフォスカ軍に参加してくれた新参兵が、古参の兵たちと楽しげに酒を()()わしていた。居留地に疎開してきたヤト村の村人や、旧フォスカ家で鳥役人を務めていたトバの姿も見える。今回の祭りは、彼ら新参の者たちの歓迎会・懇親会という意味もあったのである。ちなみにヤト村の村人たちが浮かれているのは、いままで食べられるなどと思っていなかったダグやマーロの実をアク抜きした結果、悪くない食糧に化けたという事が大きい。上手くすれば食糧問題が一気に解決しかねないとあって、それを神――とマモル――に感謝する祭りのように捉えているらしい。



「……こうして見ると、平和な村祭りの光景なのだがな……」



 ――サイカ領やワナリ領では、平和とはほど遠い日々が続いているのだが。



「治にいて乱を忘れずと言いますけど、乱にあって寸暇を楽しむ心構えも重要じゃないかと思うんですよね」



・・・・・・・・



 ~反マナガ連合軍首脳部~


「さて、マナガとの(いさか)いも一段落付きそうになったところで、今後の事を考えねばならぬ。領内の問題は各々で決めてもらうとして……今この場で決めておかねばならぬ事が一つある」



 ケイツは一旦言葉を切って参加者たちの顔を見回すと、(しか)め面で言葉を継いだ。



「……他でもない、あの道化者の事だ」



 それを聞いた一同の顔に、あぁやっぱりという表情が浮かぶ。今回の紛争を良くも悪くも引っ掻き回した張本人、ソン・ベイルの処遇についてである。



「……公式にはあの馬鹿はシカミ家の雇用する傭兵であり、シカガ家へ出向という形になっておる。しかして現状は、サイカ領の一角に居座って領境を(おびや)かすという、手柄とも迷惑とも言いかねる立場になっておる。マナガとの手打ちに際してあの厄介者も引き上げて来るわけだが……はてさて、これをどうしたものか……」



 老獪(ろうかい)なケイツには珍しい事に、心底困惑したという表情で溜息など()いているが……それも無理からぬ事ではあった。


 シカガ家預かりという形になっていたベイルがトーチ領に侵攻して、無辜(むこ)の村人を虐殺するという暴挙に出たために、連合軍の戦略は根本から崩れ去る羽目になっていた。ベイル憎けりゃ連合軍も憎いとばかりに、満々たる殺意を隠しもしないトーチ領民の怨嗟を一身に受ける羽目になったシカガ家など、内心ではベイル討つべしの声に賛同したいと思っているだろう。

 しかしその一方で、機を見てサイカ領に侵攻してニシカの砦を乗っ取ったベイルのお蔭で、マナガの鬼手に間髪入れず応じる事ができたのも事実なのである。

 問題児ではあるがそこそこ有能なので、ここで手放すという選択肢は無い。と言うか、首輪を付けずに放流した場合、どこで何をやらかすかが怖い。かと言って、手近に置いておくには野心的過ぎる。処置に困る危険人物をどうしたものか。



「……当シカガ家では、あのならず者はお引き受け致しかねる。ただでさえトーチ領軍との緊張が高まっている状況なのだ。ここであやつが舞い戻った日には、何が起きるか予想できませぬ」

「……申し訳ないが、当シカミ家でも御免を被りたい。確かに書類上は当家の雇用となっているが、あやつがヤト村でしでかした一件のせいで、我がシカミ家の評判まで(かんば)しからぬ事になっていますのでな。それは自業自得と諦めるにしても、調略の不首尾が祟ってただでさえイーサ領との間がおかしな事になっておるところへ、何をやらかすか判らぬあのような危険物を置いておくのは物騒に過ぎる。()して、当シカミ領の先にはサームがある。あやつがサームに妙なちょっかいを出したとしても、当家では責任を負いかねる」



 苦い顔をしてベイルの受け取りを拒否するシカガ家とシカミ家の(いくさ)()(つけ)。拒否の理由が納得できるものだけに、無理に押し付けるのは(はばか)られる。そうすると、残るはアタギ領・ケイツ領・ワナリ領なのだが……



「……ここはひとつワナリ家にお願いできまいか。()(たび)の戦では御家にとって悪い働きはせなんだと思うし、何より、山間を通っての奇襲を仕掛けたサイカの正面に山賊崩れを配置するのというのは、そう悪い策ではないと思うが」



 穏やかなケイツの提案に、黙って頷くサイカの(いくさ)()(つけ)。どうやら予め両者の間で談合が交わされていたらしい。



「では、あの悪戯者(いたずらもの)めはイドの町の代官に任じるという事で、宜しいかな?」



・・・・・・・・



 ~マナガ~


 その日、マナガは届いたばかりの密書を読み終えて満足そうな笑みを浮かべた。



(思っていたより時間がかかったが……ようやく腰を上げてくれたか……)



 マナガは読み終えた密書に火を着けると、跡を残さぬように念入りに焼いた。



(ウォード家が動くのは来年になってからになるとの事だが……それまでにこちらも準備だけはしておいた方が良いだろうな。次の戦はケイツが正面に立つ事になる。他の連中にはこっちを牽制させる腹だろうが……逆に言えば、他の連中はこっちにかかりきりになるとも言える。……まぁ、ウォード家の前に立とうというほど性根の座ったやつらはおるまいが……)



 マナガは目を(つむ)って何かを考えていたが、やがて決心が着いたというように目を開いた。



「あのじゃじゃ馬の動きも気になるし……冬の間に少し調べさせてみるか……?」



 マナガとケイツたちとの間で停戦が成立する、その一日前の事だった。

本作はここで一旦終わりとします。話の続きはいずれまた。


後枠は「転生者は世間知らず」の第二幕。12日金曜日のこの時間帯からお送りします。

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