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なりゆき乱世2~もう一人の梟雄~  作者: 唖鳴蝉
第三部 戦乱の拡大 篇
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第十七章 風雲サイカ領 4.騒乱の収拾(その2)

 タマン城の自室でマナガは(しき)りに唸っていた。

 先日ケイツから停戦の申し出があり、中々の好条件であったので食指も動きかけたのだが、急いでその話に乗るべきかどうか決めかねていた。ところが、ここへきて再び事態が混迷に陥るかのような兆しを見せ始めたのである。


 事の次第はこうであった。



・・・・・・・・



 ニシカの砦に居座ったベイルは、トーチ領での一件で懲りたのか、住民への過度の襲撃は慎んでいた。が、前線へと向かう兵士たちには容赦の無い攻撃を加えており、一度など一個中隊の兵士が夜襲を受けて壊乱させられるという事まであった。

 ケイツとの交渉を有利に運ぶためにも、いっその事然るべき規模の部隊を派遣してベイルを討伐すべきかとマナガが考えていた矢先……



「――おいっ! 何だ、あの明かりは!?」

「砦の方です! まさか……何かあったのでは」

「引っ返すぞ! 急げ!」



 「狩り」に出ていたベイルが目にした「明かり」の正体は、所々で火の手を上げる砦の姿であった。



「――畜生がっ!」



 ()(ぎし)りするベイルだが、既に敵兵は姿を消した後。どうやらベイルたちが戻って来る気配を察知して、素早く撤退したらしい。襲撃の手際といい撤退の見事さといい、侮るべからざる相手のようであった。その正体は……



「サイカ兵だと?」

「証言を(まと)めてみると、どうやらそういう事のようですな。イドを占拠した部隊とは別口のようです。イドへの増援か……あるいは我らに対するための別働隊かまでは判りかねますが」



 ショウゼンの推測は良いところまで当たっていたが、事実はそこから更に一捻りしたところにあった。ニシカの砦を襲ったのは、兄と(たもと)を分かったマタイ・サイカの一派であったのだ。彼らはマナガに臣従する気は無く、かと言ってサイカ領に侵入したベイルと手を組む気もさらさら無く、()わば独自の判断でニシカの砦を襲ったのであった。マナガは勿論、兄のマガイも予想できぬ動きであった。



「ここは元々サイカの砦ですからな。守りの甘い部分なども熟知しているのでしょう」



 ベイルたちの留守を狙って動いたという事は、こちらの動きは逐一見張られているという事だろう。



「……被害は?」

「死者が五名ほど――いずれも新兵ですな。他に負傷者が十名ほど。あと、食糧の一部が焼き払われましたが、当面の活動に支障はありません」



 如何(いかが)なさいますか――というショウゼンに、ベイルは不機嫌そうに答えた。



「それなりの見せしめってやつが必要だろう」



 翌日、精兵を率いたベイルは最寄りの村へと殺到した。(おび)えて狂乱する村人たちの前で一斉に矢を放つと、それらは綺麗に並んで突き刺さった――村の直前の地面に。そのままベイルは村へ突入――の直前で綺麗なUターンを決めて見せ、そのまま疾風の如く駆け去った。


 ――再度夜襲をかける気なら、次は容赦しない――


 サイカに、そしてマナガに対する明白なメッセージであった。

 かつてトーチ領で苛烈な(こう)(りゃく)ぶりを見せ付けたベイルだけに、その警告は無視できぬ重みを持っていた。悪鬼ベイルが無差別なテロ活動に走ったりすれば、サイカは流血の(ちまた)となりかねない。領主としてそれだけは避けねばならなかった。



 ()くしてサイカは、そしてマナガは、サイカ領に巣喰ったベイルに対して有効な手を打てずにいたのである。



・・・・・・・・



「こうなると……ケイツが余計な事を言ってくる前に、手打ちの話を(まと)めるしかないか」

本編はこれで完結し、次話はエピローグになります。

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