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なりゆき乱世2~もう一人の梟雄~  作者: 唖鳴蝉
第三部 戦乱の拡大 篇
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第十六章 ワナリ 3.サイカの兄弟

〝サイカ兵を(まと)めて山間(やまあい)の間道を進み、イドの町を落とせ〟


 マナガからのその命令は、元・サイカ領主にして現・サイカ代官のマガイ・サイカにとっても予想外のものであった。



「……我が軍は山での戦いを想定しての調練を行なっておりますからな。山間(やまあい)を進むに不安はありませぬが……その場合、マタイ様の御座(おわ)します地を通らねばなりませぬが……」

「マナガは約束を守ってくれた。サイカの民に危害は加えぬとの約束をな。ならば、今度は我らが約束を守る番だ。そう言えば弟も解ってくれよう」



 ――サイカ家はマナガに臣従するに際して一つの条件を出していた。すなわち、サイカの領民に危害を加えない事。マナガがその条件を守る限り、サイカ軍は一兵卒に至るまでマナガの配下としての職責を全うするであろうと。マナガはその条件を呑んだ。ただし、サイカ家の全てがその取り引きに納得したわけではなかったのである。

 元・サイカ領主マガイ・サイカの弟マタイ・サイカは、領民の事を第一に考える兄には共感を示したものの、覇道を進むマナガに付くのは間違いと考えて兄と(たもと)を分かった。マタイに同意する者のほとんどが彼に付き従い、サイカ衆は二分される事になった。マタイ派のサイカ衆は山に隠れ住み、密かにサイカ領の独立を狙う事となったのである。


 今回マガイ派のサイカ衆が間道を抜けるに当たって問題となったのは、その間道がまさにマタイ派の住まう場所を通っているという事実であった。

 志の違いから(たもと)を分かった以上、次に相見(あいまみ)える時は敵として戦う。それが両派の別れの時に()わされた(やく)(じょう)であった。それに従うなら、現・サイカ代官マガイ・サイカがマナガの命に従って間道を抜けようとする以上、弟マタイとの一戦は避けられぬ事になる。しかし、事が領民を守るための約束に関わってくるとあっては、マタイ派の面々も矛を収めないわけにはいかなかった。

 結局、今回に限っては通行を認めるという事になって、無事イドを奇襲したまではよかったのだが……



・・・・・・・・



「しかし……面倒な役目を仰せつかったものですな」

「イドの城を落としてそこに立て籠もれ。場合によってはソールを急襲する展開もあるが、別命あるまで動いてはならぬ。イドもソールも無理して占領を続ける必要は無い。場合によっては疾風の如く撤退せよ、か」



 確かに面倒な命令ではあったが、マナガとしてはワナリに兵を進める気は無い。彼の目的は連合軍を混乱させる事、もしくは停戦交渉のための得点稼ぎに過ぎなかったのだ。場合によってはワナリ領主を討ち取り、その後は電撃的に撤退するのも考慮のうち。なればこそ、戦上手で山間に強いと定評のあるサイカ衆を用いたのだ。元領主であるマガイ自らの出陣を命じたのも、彼の力量を買っての事であった。



「色々と毀誉(きよ)褒貶(ほうへん)の激しい()(じん)ではあるが――」

「はて? 褒はありましたかな?」

「……混ぜっ返すな、爺。少なくとも、用兵というものに()けた(じん)ではあるようだ」

「それは確かに。我らでは思い付かぬ策でございましたからな」

山間(やまあい)で調練を繰り返しているとは言え、こういう事態を想定しての事ではなかったからな……」



 山で精強という評判を(ほしいまま)にしているサイカ衆であるが、彼ら自身が山の民というわけではない。山間での戦いを想定した訓練を行なっているのは、侵攻して来た敵を山間部や丘陵地に引き摺り込んでのゲリラ戦を展開する事で、領の防衛を図ろうという戦略であった。ちなみにこれは、かつてフォスカ家との戦いの際に、山間部からの奇襲を受けて敗退した事を教訓としていたりする。



・・・・・・・・



 一方、サイカ兵の奇襲を受けたワナリ領は混乱の極みにあった。

 本来ならサイカ戦線維持のための支援・防衛拠点として使われる筈だったイドの町が戦線構築前に占領された事で、ワナリは逆にサイカの侵攻を警戒せねばならぬ立場に陥ったのである。何しろイドとソールは目と鼻の先。馬を乗り潰すつもりで駆けるのなら、一日で届く距離なのだ。


 領都ソールとその南東にあるナガの町を臨時の拠点として、ワナリは大慌てで兵の動員を図っていた。その結果ソール周辺の兵力に厚みが生じ、領都の守りは万全となった――と言いたいところだが、それをさせなかったのが他ならぬサイカ兵の存在であった。


 実は、この世界の領都にはありがちな事だが、ソールは山を背負うような位置に建設されている。魔獣が(ばっ)()する山地を抜けて敵軍が侵攻するような事態は、(はな)から想定していないという事であった。では逆に、魔獣が領都を襲う事についてはどうなのかと言えば、高い城壁の存在と、魔獣が好む樹林地を廃した空間の存在がその(おそれ)(ふっ)(しょく)している。強大な魔獣は濃い魔力や魔素を必要とするが、樹林を伐り開いた耕地や草原ではそれだけの魔力・魔素が少ないため、魔獣は寄って来ないのであった。


 こういう前提の上に建てられたソールの町だが、山間機動を得意とするサイカ兵にはこの前提が通用しないのではないか? さりとて集まった戦力を後背部にも廻すとなると、今度は前面の防衛が手薄になりかねない……



 半ば混乱しての結果とはいえ、領境付近に兵を集めたワナリに対抗して、サイカの側も領境に兵力を集中した。



 そして、この事が更なる混迷への道筋を開く事になったのである。

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