第十六章 ワナリ 1.凶報――もしくは驚報
マナガvs連合軍の第二戦線となるイーサ戦線であるが、このところ一進一退の膠着状態に陥っていた。フォスカ陣営やショウゼンが裏で密かに掻き回したというのもあるが、一番の理由はどちらもサームを巻き込みたくないという事情が大きかった。
街道の結節点にあるため古くから交易で栄え、かつてはフォスカ家とイーサ家双方が容認する自由都市であったサームを失う愚は、どちらの陣営にとっても避けたい事であったのだ。ゆえに、サームに戦火が及ばないように双方注意して干戈を交える羽目になり、結果として両者ともに決め手を欠くという事態がダラダラと続いていたのである。
さすがに連合軍首脳部はこの状況が宜しくないという共通認識は持っていたものの、だからどうするという名案が浮かばないのも事実なのであった。
当初はワナリ辺りで新たな戦線を構築するという考えであったのだが、こうも思惑から外れた事態が続くとさすがに考え直したくもなる。これでワナリまでが妙な事になったら、首脳部の戦争指導そのものが問われかねない。
……とは言え、今の状況が続く事は、それはそれで宜しくない。
イーサ戦線での厭戦気分と連合軍の悪評、これらの蔓延は完全に首脳部の想定外であった。しかもトーチ戦線での一件だけではなく、ベイルとシカミ家はヤト村絡みでも何やら不始末をやらかしていたらしい。お蔭でその件に纏わる不信感まで、連合軍が背負い込む羽目になった。
マナガにちょっかいをかけて兵力を磨り減らすという作戦目的に関しては――関してだけは――ある程度の達成をみたと言えよう。……だが、自分たち連合軍の評判という一点においては、さながらドツボに嵌ったも同じの状況に陥っている。
こんな状況のまま、当初の計画案に従って、ワナリで新たな火の手を上げていいものか。
「……損害らしい損害がさほど大きくない今の段階で、こちらから兵を引くというのも……」
シカガ家の代表が苦渋の表情を浮かべる。
トーチ戦線は激戦となったが、投入した兵士の大半は傭兵であり、正規兵への損害は小さいのが実情である。この状態で兵を引けば、連合軍はマナガ相手に怖じ気付いたという印象を周りに与えかねない。戦国領主としてそれは避けたいところである。しかし……
「……確かに、物質的な意味ではな」
一方で連合軍の評判という意味では、無視できない風評被害が生じている。戦の大義などどこへ行ったやら。
「……だが、大義や外聞という点では、甚だ好ましからざる事態になっておるのも事実。次の作戦まで、少し間を置いた方が良いかもしれぬ」
「なるほど」
「確かに」
このように、連合軍首脳部の面々は、今後自分たちはどうするべきかという観点で事態を眺めていた。
――だから、誰もその事を予見できなかった。
「ワナリ領のイドが落とされただと!?」
――戦には相手という者がおり、その相手は――自分たちの思惑ではなく――相手自身の思惑に従って動くのだという、ある意味で当たり前の事を。




