第十五章 フォスカ家不正規戦~後方攪乱~ 2.補給線破壊
――イーサ戦線に対するマナガの増援――
フォスカ家としては、これを妨害するつもりなど欠片ほども無かった。イーサの連中には悪いが、現状でそこまで手を伸ばす義理もゆとりも、今のフォスカ家には無い。寧ろイーサに向けてマナガの手勢が移動する事で、フォスカ領の兵力が手薄になってくれれば万々歳である。
ただし、何もマナガが優勢に立つのを黙って見ている事も無いわけで……
「カーシン先生、ディクトさん、魔法でこんな事って可能ですか?」
・・・・・・・・
その荷駄隊はタマンからイーサへの補給部隊であった。先日イーサへの増援が送られた事で兵糧などの補給が追いつかなくなり、備蓄していた物資を送る事になったのである。
タマンからイーサまでは自領の中。危険はあるまいとの判断でさしたる護衛も付けられず、また、その事を不安に思う事も無く、荷駄隊はイーサへの道を進んでいた。
「……おい、何だありゃあ?」
「何がだ? ……何だ?」
自分たちの頭上に白っぽい何かが渦巻いている事に気付いた兵士たちが怪訝そうな、そして不安そうな声を上げる。だが……
「……小麦粉みてぇだぜ」
「どら……本当だ。何で小麦粉なんかが?」
「大方どっかのトンチキが、ヘマして袋をぶち撒けたんじゃねぇか?」
なるほど~、ありそうな話だ、という声があちこちで上がり、一度は高まっていた緊張が緩む。
そして――そのタイミングで空が燃えた。
・・・・・・・・
「上手くいったみたいですね」
「あぁ……しかし……予想以上の効果だな、粉塵爆発というやつは」
惨劇の仕掛け人は例によってマモルである。
風魔法で荷駄隊の頭上に小麦粉を浮遊させ、次いでその小麦粉に着火。瞬間的な爆燃によって局所的な酸欠状態を引き起こして、荷駄隊を昏倒させたのである。さり気無く荷駄の周囲に風魔法で空気の壁を作っていたため、周囲からの酸素の供給も受けられず、兵士たちは窒息するに至ったのであった。
「火魔法で壁を作ってもらう事も考えていたんですけど……風の壁だけで充分だったようですね」
「マモルの話を聞いた時には、正直言って半信半疑だったが……風の流れを遮断して炎を燃やすだけで、ここまでの効果が出るものなのか……」
唸りながら感心しているのは、今回の作戦を任せられたディクトであった。
「まぁ、今回は上手くいきました。火の壁で囲っちゃうと、下手をすると積荷に火が燃え移って台無しになっちゃいますから」
イーサに兵糧を送らせないだけなら、他にも色々とやりようはある。しかし、その兵糧を自分たちで頂戴しようとすると、延焼の危険がある火魔法は使いづらい。普通に襲撃する手もあったが、騒ぎを避けるためにはごく短時間でけりを付けたい。爆燃の炎を見られる危険性はあったが、人通りの無い状況下で仕掛ければ、明るい空に紛れて遠くからは見えにくいのではないか?
……見えにくいかどうかは正直なところ不明だが、シャムロに頼んでそれとなく人通りをブロックしてもらったお蔭で、目撃者はいないようである。
「おぃマモル、馬はどうすんだ?」
この作戦には、臨時にサブロとハルスの両名も参加している。元は馬役人だったせいか、サブロの関心は積荷よりも馬の方に向いていた。
「あ、そうですね……ディクトさん、馬に新鮮な空気を嗅がせてあげてくれませんか? 上手くすると息を吹き返すかもしれませんし」
「解った。試してみよう」
「兵隊どもはどうするのだ?」
「別に助けてやる義理も無いでしょう? どうせマナガの手下なんだし。……顔見知りとかがいないようなら、始末しちゃっていいんじゃないですか?」
――という事で、あっさりと始末された兵士の屍体を荷車に積んで、マモルたちはフダラ山地に転移する。幸い馬の方は息を吹き返してくれたので、農作業にでも役立ってもらおう。
「屍体も持ってくのか?」
「屍体が残ってなければ、マナガにも何があったか判らないでしょう? 食糧を持って脱走したのかもしれなければ、盗賊に襲われたのかもしれない。ひょっとしたら兵士の一部が盗賊を引き込んで、仲間を殺して食糧を盗んだのかも」
「お、おぅ……」
「徹底的にマナガに情報を与えない気であるな……」
「マナガは食糧は着いているものと思い、イーサではまだ補給を出していないのかと待ち焦がれる。事態の発覚まで少し時間を稼げるでしょうし、僕らが手を下したのかどうかも判らない筈です。その分こちらのフリーハンドが増えますからね」




