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なりゆき乱世2~もう一人の梟雄~  作者: 唖鳴蝉
第三部 戦乱の拡大 篇
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第十五章 フォスカ家不正規戦~後方攪乱~ 1.通信攪乱

 ヒュイーっという指笛の音が響くと、それまで一直線に飛んでいた鳥が急に速度を落とした。そのまま円を描いていたが、やがて何かを見つけたように急降下する。


 数刻の後、使い鳥は嬉しげに一人の男の手に止まっていた。



「よーしよーし……ウリクか、少し痩せたか? ……ドークの事だ、お前の体調なんか気にも留めず、毎日決まった餌しか寄越さないんだろう」



 (いたわ)るように話しかける男。そして、男に不満を訴えるかのようにピィと鳴く小さな鳥。(もっと)も、姿形こそ小鳥と言ってもいいが、その実は小型の猛禽類に近い種類である。しかしこの時この小鳥は男に甘えるような仕草を見せており、その様子は普通の小鳥と何ら変わるところは無かった。


 ――使い鳥。離れた者同士が連絡を取り合う時に使われる、一種の伝書鳩のような鳥である。


 小鳥に優しく話しかけている間も、男の手は間も休み無く動いて小鳥の毛並みや痩せ具合をそっと探っていく。やがて男は水の入った容器を取り出すと、使い鳥に与えた。小鳥は嬉しげに水を飲むと、男が与えた餌を(ついば)んだ。


 男はそっと使い鳥の足に着けられた筒を開けると、中の通信紙を取り出した。



「……これでは、マナガ側の通信内容は筒抜けですね」

「幸い、この子たちはまだ私の事を憶えていてくれたようです。それでも、きちんと世話されているならここまで寄り道をするような事はありませんから――ドークのやつは相変わらずお座なりな世話しかしていないようですな……」



 男の名はトバといい、かつてフォスカ家に仕えていた鳥役人――使い鳥の飼育係――であったという。マナガの反乱に際し、フォスキア城で飼われていた使い鳥を全て解き放って行方を(くら)ましていた。これは地味ながらファインプレーと言えるもので、このせいでマナガは今日に至っても通信網の維持に難を抱えているのであった。ちなみに、ドークというのは彼の不肖の弟子であって、現在マナガに雇われて鳥役人をしているらしい。



「トバさんが来てくれて助かりました。うちでも使い鳥を使えるようになりましたし」

「お役に立てるようならヘレケも喜ぶでしょう」



 ヘレケというのは、トバがフォスカ陣営に取り込んだ使い鳥の名前である。

 数日前にイーサ方面からマナガに向けて飛ばされた使い鳥をトバが誘引、運んでいた通信文を確認したところ、イーサ方面の不安定な現状を報告し増援を要請するものだった。この情報はマナガに伝わらない方が良い、もしくは知るのを遅らせた方が良いと判断したマモルは魔動通信機で上部に具申、承認を得た後で、使い鳥のリクルートは可能だろうかとトバに相談したのである。

 トバは――どうやってかは判らないが――使い鳥(ヘレケ)の意向を確認した後で問題無いと回答。フォスカ陣営はマナガに向けての情報の遮断と、ついでに使い鳥の確保に成功していた。

 ちなみにマナガは少し経ってからイーサ方面の情報を要求。イーサ側は連絡が届いてない事に驚いたが、何らかの事故に遭ったのだろうと判断して改めて情報を送達した。送られた情報に基づいてマナガは増援の派遣を決定したのだが、それに至るまでに貴重な時間を空費する事になったのである。

 


「複写、終わりました」

「……見事なものですな。【複製】でしたか?」

「その下位互換の【複写】ですね、文字を複写する事しかできません。カーシン先生に覚えさせられましたよ……」

「さて、それでは……さぁ、ウリク、行っておいで。面倒をかけるが、もうしばらくの間はドークに付き合っておくれ」



 使い鳥は男の話を理解したようにチチッと鳴くと、()(ごり)惜しそうに飛び去って行った。



「……イヅナ、もう出てきてもいいよ」

「キュッ!」



 マモルの呼びかけに応えて、少し離れた茂みからヒョイと小さな獣が姿を現した。アーミンと呼ばれる捕食性の魔獣である。使い鳥を警戒させないため、姿を隠していたらしい。背景に合わせてある程度体色を変えられるので、じっとしていれば使い鳥の眼にも気付かれる事は無い。



「お気遣い戴いて恐縮です。マモル様の従魔ですか?」

「マモルでいいです。……えぇ、僕の仲間です。イヅナといいます」

「キュッ!」

「ははは……これはご丁寧に。トバといいます、お見知りおきを」



 マモルの紹介に答えるように一声鳴いたイヅナに対して、トバという男は笑みを浮かべて丁寧に挨拶している。腰が低いというより、人にも鳥獣にも同じように接する性格とみえる。従魔術師(テイマー)には時折みられる性向であるが……



「おっしゃるとおり、従魔術の素養も少しはありました。けどまぁ、親代々フォスカ家で鳥役人を務めておりましたからな。所謂(いわゆる)従魔術師(テイマー)ではなく、そのまま鳥役人となりました次第で」



 従魔術の素養のお蔭で少しは鳥たちの気持ちが解るようになりました――と語るトバであったが、同じく従魔術の心得のあるマモルの見たところでは、さっきの使い鳥は従魔術とは無関係にトバを慕っているようだった。鳥役人として大成したのは、従魔術云々というよりもトバの性格と技倆、そして努力が大きいのだろう。



「さて――ここも一応はマナガの支配地ですから、あまり長居は無用でしょう。そろそろ引き揚げるとしましょうか」

()(よう)ですな。マナガが増援をイーサに送ったという事を、一刻も早く姫様にお報せしませんと」


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