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なりゆき乱世2~もう一人の梟雄~  作者: 唖鳴蝉
第三部 戦乱の拡大 篇
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第十四章 イーサ戦線 3.策士ショウゼン

「けっ! クソ面白くもねぇ!」



 前線後方の酒保でエールを空けながら荒れているのはソン・ベイル。

 一時はトーチ領の奥深くまで侵攻しながらも、上層部の判断による戦線整理に伴って後退させられ、現在は()(にく)の嘆を(かこ)っている身であった。



「何だって順調だったこっちが干されて、他人の手柄顔を指(くわ)えて眺めてなきゃならねぇんだ!?」



 ベイルとて戦の素人ではない。自分たちだけが突出する事による包囲殲滅や補給線遮断、その危険性が存在する事には気付いている。しかしそれは他の戦線を維持しようとした時の話。軍勢を(まと)めて一気にトーチ領に雪崩れ込めば、勝ちの目は充分にあると睨んでいた。

 連合軍首脳部がその作戦を採らなかったのは、どこの馬の骨とも知れぬベイルに先手を任せる危険性と、万一ベイルが戦功を上げた場合の面倒を考慮したためである。美味しい餌を新参に食い荒らされて(たま)るものか。


 とは言え、首脳陣もそれだけが理由でベイルを下げたわけではない。正面決戦を挑むためには、連合軍が用意した戦力は少し見劣りがするのである。チクチクとマナガの戦力を削っていく消耗戦を企図していたため、消耗しても惜しくはない傭兵を戦力の主体に配置した。数こそ多いが、()わば二線級の部隊である。マナガの精鋭と戦えば、いいように翻弄されて食い裂かれるであろう。


 ――だが、それでもマナガ軍を疲弊させる事はできるのではないか?


 確かにできるだろう。ただ、連合軍には次弾の用意が無いだけである。今から準備にかかっても、万端整う頃にはマナガも態勢を回復している。

 それだけでなく、今回用意した兵力の大半が傭兵なのである。もしも彼らが降伏してマナガ軍に加わったら……


 そんな危険を冒すわけにいかない連合軍としては、戦線を整理して他の場所で新たな戦端を開く事こそが最適解なのであった。



「干し上げられたこちとらを尻目に、イーサじゃ連戦連勝の勝ち星を拾ってるてぇじゃねぇか。忌々しい」



 まぁ、勝ち星とは言っても小競り合いを続けている程度のものなのだが。

 宣伝の意味もあってやや大袈裟に戦果を吹聴しているのだが、ベイルには気に入らない話であったようだ。

 ちなみに、イーサ戦線が順調と聞いて面白くないのはベイルだけではない。ここの将兵は――それこそ上はシカガ家の将軍クラスから下は一兵卒に至るまで――我が身と引き比べて面白くないのは同じだったりする。


 そして、そんなベイルに策士が不穏な事を(ささや)いた。



「順調なら、少し遅らせてやればいいでしょう」



・・・・・・・・



 ショウゼンの策自体は単純なものであった。単に手慣れた配下を使って、サームの町に噂を流しただけである。曰く――



〝連合軍がイーサを、そしてサームを手に入れた場合、誰を領主に据えるつもりなのか〟



 ここでマナガが流した連合軍の悪評――実態はベイルの悪行――が効いてくる。何しろ女子供に至るまでの皆殺しを是とした連合軍(・・・)である。その支配弾圧は今まで以上に残忍苛烈なものとなるのではないか?


 根拠の無い不安と言ってしまえばそれまでだが、逆に根拠が無いために、それを明確に否定する事もできない。連合軍への不安と不信は、それまでにシカミ家が醸成した厭戦気分を一気に吹き飛ばした。結果、シカミ家の策略は頓挫する事になった。



「底の浅い場当たり的な調略など、少し(つつ)いてやればこのとおりですよ」



 シカミ家にとって特に痛かったのが、代官が使いものにならなくなった事であった。実はシカミ家は、代官とは別に反マナガのレジスタンスに接触、独立支援と引き替えに後方攪乱してもらう約束を取り付けていた。ところが、ショウゼンの策で代官が逃げ腰になった事でスケジュールに狂いが生じた。いきり立つレジスタンスは約束が違うとシカミを非難。両者の間がギクシャクする事になったのである。()(はや)シカミ家は当てにできぬとレジスタンスたちが勝手に活動を始めたが、これは(いささ)か先走りが過ぎた。それまで慎重の上にも慎重を期して極秘に準備を整えてきた――この辺りはシカミ家からの入れ知恵とアドバイスが大きい――のが、ここへきて素人の不手際から、計画が露呈するに至ったのである。


 それを察知したイーサ軍は、一部過激レジスタンスによる大規模テロ活動とそれに伴う連合軍の侵略を警戒してマナガに通報。マナガはただちに増援を派遣して独立派を牽制・摘発。



 ――そういう流れになる筈であったのだが……


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