第十三章 トーチ戦線 1.補充兵
「足りねぇ……」
前線付近の陣屋で作戦図を眺め、ベイルは不機嫌そうにそう呟いた。
ある時点までは連戦連勝のベイル勢であったが、先陣を切って奇襲急襲を仕掛けるベイル勢と後続のシカガ軍との連絡を絶つ策を採られてからというもの、孤立したベイル勢が包囲攻撃を受ける事が多くなり、無視できない損害を被っていた。現在は被害の大きさを理由に、先鋒から外れている状態である。そして先陣役のベイル勢が外れた事でシカガ軍の侵攻も足踏み状態となり、戦線は膠着状態に陥っていた。
「……ったく、シカガの腰抜けどもが当てにならねぇ以上、自分たちでどうにかするしか無ぇんだが……そうしようにも手駒が足りねぇ」
「我が軍は、形の上ではシカミ家からシカガ家への出向という事になっていますからな。シカガ軍から我が軍に兵を補充するのは、色々と差し障りがあるわけで」
ベイルの呟きに律儀に答えたのは軍師のショウゼン。シカミ家とシカガ家の裏事情を推察しての説明――ついでに事実――であったが、
「けっ、そんななぁ表向きだろうが。単に俺たちが気に食わねぇ、やつらの本音はそういうこったろう」
「恐らくは。ただ、建前であろうと本音であろうと、我が軍が兵力の補充に難を抱えているのは事実でございます……今までは」
思わせぶりな軍師の台詞に、ベイルは頭を回らせて問いかける。
「すると……?」
「はい。些か交渉に手間取りましたが、何とか呑ませる事ができました」
「よぉしっ! それでこそ俺の軍師だ! 話が纏まったってんなら、何もこんなところで燻ってる必要は無ぇ! さっさと出かけるぞ!」
「御意」
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上機嫌のベイルたちが訪れたのは、シカガ軍の懲罰部隊であった。
どこの軍にも問題児というのはいるもので、命令不服従、私闘乱闘、物資の横領横流し、敵前逃亡、非戦闘員の住民への暴行など、兵士として素行に問題のある者たちを収監している部隊である。
「ベイルだ」
「話は上から聞いています。……ですが、本当によろしいので? 自分が言うのも何ですが、我が軍でも始末に負えないゴロツキばかりですよ?」
「始末に負えないゴロツキを、同じく始末に負えない札付きの俺たちが貰い受けようってんだ。話の平仄は合ってるだろうが」
妙に上機嫌なベイルの切り返しに、どういう表情でどう答えるべきか解らなかったらしい兵士は、微妙な表情で一礼するのに留めた。
・・・・・・・・
十分ほどの手続きを終えたベイルは、集められた不良兵士たちの前に立った。
「ベイルだ。たった今からお前たちは俺の部下って事になった」
「あぁ? いきなりやって来て何様のつもりだ? 手前みてぇな青二才に、俺たちが従う理由なんざ無ぇだろうが?」
せせら嗤うような声で不服従を宣言した古参兵。その他の者も口にこそ出さないが、同じような意見と見える。
ベイルは無言でその兵士に近づくと……抜く手も見せずに抜剣して、反抗した兵士の首を斬り飛ばした。返り血を浴びて半身朱に染まったベイルが、恐怖に引き攣る兵士たちを見回し、静かだがドスの利いた口調で宣言する。
「手前たちにゃ二つの道がある。俺の下に付いて生き延びるか……それとも、ここで死ぬかだ」
圧倒的な恐怖と、そしてそれを上回る絶対的なカリスマによって、ベイルは兵士たちを掌握し、新たな補充兵を得たのであった。




