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なりゆき乱世2~もう一人の梟雄~  作者: 唖鳴蝉
第三部 戦乱の拡大 篇
33/55

第十二章 フォスカ家不正規戦~遅延工作~ 1.気の進まない計画

「ベイルという男……想像以上に残虐な性格のようだな……」

「残虐と言うよりは、目的のためには手段を選ばぬお方なのでございましょうな」



 ユーディス姫の(つぶや)きに応じたのは猿楽士の……いや、元・猿楽士のゼムであった。旅芸人時代に見聞(けんぶん)した各地の情勢に関する知識を買われて相談役のような地位に収まったが、想像以上に軍事的な才能がある事が判明し、今はユーディス姫の軍師か軍監のような役割を果たしている。


 そんな彼らが見つめているのは、マナガ領をめぐる戦況図。フダラ山地の山奥に逼塞(ひっそく)している彼らの(もと)にも、魔動通信機を渡したシャムロなどから、途切れ途切れにではあるが戦の情報は入って来る。ゆえに盗賊上がりのベイルがシカガ軍に出向させられた事も、シカガ軍の先鋒を受け持っている事も、そして……過日の暴挙の事も知り得ていた。



「補給拠点を潰すためとは言え、村もろとも補給陣地を焼き払うとは……」

「見せしめを狙っての事でしょうね。マナガ軍に協力する者は、村人であっても容赦しないという」

「盗賊だけあって、やる事がえげつねぇよな」

「ヤト村の事も焼き払うつもりだったようだし……ベイルとしては手慣れた()り口なのかもね」

「ただ……今回はそれが裏目に出たようでございますな」



 ゼムの指摘どおり、無辜(むこ)の村人たちを(ことごと)く殺戮したベイルの所業は、(かえ)ってトーチ領全員の怒りを掻き立てた。ベイル討つべしの声が高まり、領を上げて徹底抗戦の構えをとったのである。

 密かにトーチ領の切り崩しまで(もく)()んでいた反マナガ連合軍はこの結果に困惑したが、戦術的には侵攻の手助けになったのは事実。今更内通の裏取引を持ち掛けられる状況でもなくなり、そのままトーチ領への侵攻を続けるしか無くなった。


 この状況に高笑いしたのがマナガである。ベイルの浅慮な行動のお蔭で、トーチ領は反ベイル、反シカガ軍で(まと)まった。放って置いても彼らは死力を尽くしてシカガ軍に当たるだろう。

 この状況を最大限利用すべく、マナガはシカガ軍――ベイルではない――の残虐行為を、領内外に広く喧伝する策を採った。自分たちが補給陣地を村に置いた事には触れず、シカガ軍は無辜(むこ)の住民を巻き添えにする事も(いと)わない、否、それを戦略として採用していると、大声で非難の論陣を張ったのである。

 これに渋い顔をしたのが反マナガ連合軍である。彼らとしては、マナガに侵略された土地の解放者を以て任じるつもりであったのが、ベイルという馬鹿のせいでその(もく)論見(ろみ)は露と消えた。(しゃく)(さわ)るが、今は現在の戦線を維持していくしか手の打ちようが無い。


 こういったところが現在の状況であった。



「マナガめの(はら)はともかく……このベイルという男のいる位置が厄介だな」

「トーチ領の正面……万一ここが抜かれた場合、ベイルはそのままフォスカ領に侵攻ですか……」



 マモルとしては、トーチ領の戦意の高さとマナガの戦術眼を考えて、そう易々とここが抜かれる事はあるまいと考えている。トーチ軍が旧領都ヘグに立て籠もれば、連合軍とて簡単には落とせないだろう。

 ただ……山賊上がりのベイルの事を考えると、面倒なヘグを迂回して、直接美味そうな餌を狙う可能性は無視できない。その場合、(じゅう)(りん)されるのはフォスカ領の可能性が高い。姫の懸念は理解できた。



「……立場上、大っぴらにはやれませんが……ベイル軍の侵攻を遅らせる必要がありますか……」



 ぼそり(つぶや)いたマモルに、ユーディス姫の視線が飛ぶ。



「手前もそれは考えましたが、どういう策を採れば良いのか思い至りませんで……」



 ゼムも一応検討はしたようだ。



「ベイルは盗賊上がりですからね。戦略目標とか、連合軍としての連携とか、そういうものは一切無視して勝手に動きそうですよね」

「命令無視とか、平気でやりそうな感じだよな」

「恐らく目的は戦功のみ。一国一城の主を夢見ている口かと」

「言い換えると……ベイル本人に(せい)(ちゅう)を加える必要があるわけです」

「友軍の被害とか救援とか……何も考えずに動きそうな()(じん)のようですからなぁ……」



 ベイルの側面や後背に展開する部隊を脅かす事でベイルの行動を制する手は、どうやら使えなさそうだ。



「……気は進みませんが……本当に気は進みませんが……思い付いた手が一つあります」

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