プロローグ
前作「なりゆき乱世」の続きになります。本作だけ読んでもお楽しみ戴けるよう心掛けておりますが、宜しければ前作にもお目をお通し下さい。ちなみに、本作における登場勢力は――
フォスカ家:家を乗っ取られた旧領主勢力。主人公が参加して、現在お家再興の真っ最中。
マナガ家:フォスカ家乗っ取りを皮切りに、次々と周辺の領地(イーサ家・トーチ家・サイカ家)を併呑して成り上がった新興勢力。
ケイツ家:新興勢力マナガに対抗するこの地域の太守。
シカミ家・シカガ家・ワナリ家・アタギ家:ケイツに協力してマナガに対抗する領主たち。
ウォード家:遠国にあって天下を窺う野心的な領主。フォスカ家とは縁続きながら、フォスカ家消滅後のこの地域の覇権を狙ってマナガと結ぶ。ただし、フォスカ家の姫が生き残ってお家再興を目論んでいると知ってからは、その動きも微妙になりつつある。
「人材の勧誘ですか?」
埋蔵金の一件が一段落した頃、ユーディス姫からマモルが新たに相談――と言うか、実質的には依頼――されたのは、今のフォスカ家に不足している人的資源の確保についてであった。
「――と言うより、為人を見極めてきてほしい相手がいる」
「はぁ……」
かつての部下であれば為人云々などとは言い出さないだろうし、依頼の対象は未知の人物という事になりそうだ。人材の払底が甚だしい現状に鑑みて、見ず知らずの者であってもリクルートの対象に加えざるを得ないのは解る。……マモルに解らないのは、そして解りたくないのは、それを自分に振る理由である。人材の鑑定など、人生経験の乏しい子供に割り振る仕事ではないだろう。
「あ、いや。何も面談して見定めろと言っているわけではない。周囲の評判などをそれとなく訊き込んでほしいのだ。……いや、マモルにばかり面倒を押し付けてすまぬとは思っているが、現状では他に動ける者がおらんのだ」
不審かつ不満げなマモルの表情を見たのか、ばつが悪そうな顔で釈明するユーディス姫。確かに現状のフォスカ家陣容は著しく貧弱である。当主たるユーディス姫と大老格のカーシン以外で考えてみると、サティとカフィの侍女二人は論外として、それ以外で人の目利きができそうなのはゼムとソーマの二人だけ。探る相手が荒事上等の輩であった場合には、ゼム単独では不安がある。その場合、護衛ができそうなのはマモルたちだけ。ソーマはそもそもマモルのパーティメンバーであるから、結局はマモルが動く事になる。
――これは早いとこ陣容を固めないと、無茶振りは永遠に終わりそうにない。
そう悟ったマモルは、溜息を一つ吐いて依頼を了承するのであった。
「……で、探ってほしいという人物は?」
「うむ。東の方で盗賊の頭目のような事をやっているらしいのだが……どうにも得体が知れなくてな」
盗賊のところでマモルの眉間に不穏な気配が漂ったが、まぁ待てと言って姫が話を続ける。
「盗賊に身を落としてはいても、反マナガの志を残している者という可能性もあるしな。ハジ村調査の時に出会った二人とやらもそうだったのだろう?」
そう言われてみると、マモルも強く反対はしにくい。それに、現在の状況では贅沢を言えないというのもまた事実なのだ。
「……解りました。その人物の名前は?」
「うむ。その男の名は……」
本日はもう一話投稿します。次回投稿はおよそ一時間後の予定です。