第九章 塩の町 3.土産物(その2)
上客来たれりと喜んだ親爺との間で、熾烈な値切り合戦が展開する。周りの客まで思わず足を停め手を止めて、成り行きを見守り始めたほどであった。
丁々発止の遣り取りの末に、件の泥の塊を含めた幾つかの品々を、銀貨三十枚で買い取る事に成功したヤーシア。店の親爺はホクホク顔だが、カーシンなら倍額出しても喜んで引き取るだろう――特に古代魚。そういう意味ではこの取り引き、双方が満足する良い買い物であったと言えよう。……当のヤーシアも、ちゃっかり一番高そうな勾玉を手に入れている辺りは強かである。
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「……で? さっきの泥んこ、何なんだ? マモル」
その後もあちこちと見て廻り、ヤーシアが事情の説明を要求したのは、一行が宿に引き取った後の事であった。ちなみに、サブロとハルスで一部屋、マモルたち三人で一部屋を取っている。また、部屋を汚したら迷惑料を払うという約束で、イヅナの同室も宿側に認めさせている。
「あぁ、これ? 泥が固まってて判り難いけど、植物の繊維で編んだポシェットだよ」
「ふむ……マモルが執着していたのは、その中にあるもののせいか?」
「はい。【鑑定】で見ても泥の塊としか表示されないようで、店の人にも判らなかったんでしょうね。僕には特別なスキルがありますから」
予てからマモルは【反響定位】と【遠隔触覚】を併用して地中探査を行なっていたが、このほどそれらが統合進化する事で【超音波探査】という新スキルが誕生し、【肖る者】のサブスキルである【登録者】によって、この世界のスキルとして登録されたのであった。
泥の塊を見たマモルが何の気無しにそのスキルを使ってみると、泥の内部構造が脳内にしっかりと表示された。……中にコインのようなものがある事も。
マモルが水魔法で泥を洗い流すと、その中から現れたのは光り輝くコイン。ヤーシアも思わず息を呑むが、マモルの目が釘付けになったのは、そのコインに刻まれていた紋様であった……埋蔵金と爆薬と一緒に回収した謎のコインに刻まれていたのと全く同じの。
「……マモル……これって、わけありか?」
「まぁね……ひょっとしてヤーシア、今まで何も訊かなかったのは?」
「あぁ。あのおっちゃんたち、悪人じゃないみたいだけど、余計な事まで知らさなくていいだろ? だから、あたしも訊かない」
きっぱりと言い切るヤーシア。それに黙って同意するソーマ。
マモルとしては話してもいいかとは思うが、やはりカーシンの了解を得るのが先だろうと思い直す。
「解った。ありがとう、二人とも」
「けどさマモル。それが古代遺物だってのはあたしにも判るけど……」
あぁ、判っちゃうんだ――と、一瞬遠い目をするマモル。その様子を心配そうに見守るイヅナ。
そして……そんな様子に一切頓着しないヤーシアと、笑みを堪えるソーマ。
「――それが何だって泥んこの中に入ってんだ?」
「……考えられるのは、先史人が古代遺物を発掘していたって事だろうね」
その事の意味を論じるより先に、カーシンから預かっている魔動通信機――カーヴィに渡したのとは別のもの――が着信音を鳴らす。
「……マモルです。あぁ、カーシン先生、食糧その他は手に入りました。今はサルドの町に来ています。岩塩と穴掘りの道具は手に入ったので、この後は布や衣料品を買って帰ろうかと。お土産もありますから、楽しみに……はい?」
『旧トーチ領の方がちとややこしい事態になったのでな。明日にでも適当なところに転移マーカーを打ってくれ。儂が【転移】で迎えに行く』
次回からは毎週火曜・金曜の20時更新となります。




