第八章 魔獣使い 2.顛末
訝しげにヤーシアの指差す先を見れば、なぜか逃げもせずにマモルを見ている獣が一匹。
「マモル、お前、一目見たスキルは覚えられるんだろ? 【従魔術】を覚えてんじゃないのか?」
「へ?」
慌ててマモルがステータスボードをチェックしてみると、確かにそこには【従魔術】の文字が……
「どうしよう……」
この頃になると、賊の生き残りをふん縛った仲間たちも、マモルの傍にやって来ていた。
「なるほど……先程の魔獣はアーミンであったか。道理で目に見えぬ筈だ」
したり顔に独り頷いているハルスに、マモルが思わず訊き直す。
「……え? この小さいのが魔獣なんですか?」
マモルの実体験と認識では、魔獣というのは何れも巨大で凶暴で、人を見れば襲いかかってくるようなものである。子猫程度の獣を指して魔獣というのは、マモルにすれば意外以外の何物でも無い。
「あぁいや、魔獣というのは体内に魔石を有する生き物の総称でな、身体の大きい小さいや強い弱いは関係無いのだ。犬猫に襲われるものもおるしな」
驚愕するマモルに、ハルスは学者らしく授業を続けていく。
「このアーミンという魔獣は、小さいが素早く動いて他の小動物を襲う。ある程度は周囲の様子に合わせて体色を変える事もできるし……一匹ならともかく、姿を隠して群れで襲いかかって来るとなれば脅威であろう」
普段は群れを作る種類ではないから、従魔術師がスキルで使役していたのだろうと。
「んで? 結局あのチビはどうすんだ?」
辛抱強く待っているアーミンを指して問いかけるヤーシア。
……日本にいた頃は身体が弱く、入院生活ばかりでペットを飼う事もできなかった。新たな人生を得てからやりたかった事、それも上位にランクされる事の一つが、可愛いペットを飼う事であった。……人を襲うような魔獣であったのは予想外だが、これも縁というやつだろう。
何より、他のアーミンが逃げ去ったのに対して、あの子は自分を選んでじっと待ってくれている……
「……おいで、イヅナ」
そう呼びかけるとアーミン……イヅナは一声キュイと鳴いて、嬉しそうにマモルに駆け寄って来た。
「イヅナってのか? そいつ」
「あ、うん。僕の国では、飯綱使いっていう従魔術師みたいなのが使う動物を、飯綱とか管狐とか言うんだよ」
「なるほど。それでイヅナか。まっ、よろしく頼むぜ?」
マモルの肩に乗ったイヅナにヤーシアが挨拶すると、イヅナは理解したように頷いた。
「何か……頭良さそうだな、こいつ」
「実際にアーミンは賢いからな。況して従魔となったものは知能も高くなるというし、言われた事は理解していよう」
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「そういやさぁ、マモル……そのチビたちが襲って来た時、何か変な事しなかったか?」
ヤーシアは襲って来たアーミンたちが突然弾かれたように跳び上がるのを目撃していた。あの時は気にしてなどいられなかったが、今になって思い返せば、どうせマモルが何かやらかしたんだろうと思えてくる。
「あぁ、あれ? 試しに【力場】を張ってみたんだよ。本来は力場の乱れから侵入したものを感知したりするんだけど、力場に使われている電磁波や魔力などに触れた場合、衝撃を受ける事もあるからね」
レベルも低いし気休め程度だったのだが、意外に効いてくれて助かったと笑うマモル。デンキウナギなどの発電魚が持つスキルが元になっているのだが、デンキウナギの場合その発電能力は時に八百ボルトに達する。馬でさえ竿立ちになるくらいだから、身体の小さなアーミンなど下手をすれば即死である。
「……スキルのレベルが低くて助かったな、お前」
しみじみとした口調でイヅナに話しかけるヤーシアであった。




