第八章 魔獣使い 1.襲撃
手頃な馬車が見つからなかったために徒歩でサルドへと向かっていたマモルたちであったが、ゴーラムを発ってから三日目の午過ぎ――
「……停まって。前方の茂みに隠れている連中が」
――マモルが警告を発した。
「……盗賊の類か?」
「恐らく。それと……何か小さな動物たちの気配も」
「なんだそりゃ?」
「あ、あるいは……従魔術師がいるのではないか?」
ビクついた様子ながらもありそうな推測をしてみせたのはハルス・アーヴェイ。物識りだけにこういう時には役に立つ。
「従魔術師か……だとすればちと厄介だな」
「相手の狙いが判りませんから、ここは慎重に。ソーマさんは皆を護って下さい。……僕のスキルだと防衛には向きませんから……」
本人の名前とは裏腹に、マモルのスキルは護衛には向かない。寧ろ奇襲に向いたスキル構成であるから、これは合理的な分担であった。
「解った。ヤーシアは拙者の補助を頼む」
「……解った」
「何か来ました!」
マモルの叫び声と同時に、何かぼんやりとしたものがこちらに向かって走ってくるのが判った。大きさは子犬くらいだろうが、そのスピードは尋常ではない。先走った一匹がソーマに襲いかかったが、
「ギャンッ!」
それはソーマが一刀の下に斬り捨てた。
「――ぐわっ!?」
「がっ!」
間髪入れずヤーシアが茂みに向かって石を投げる。と、そのうち二発が命中したらしく、顔面を押さえて二人の賊が転げ出す。
「くっ! あの小娘をやれっ!」
従魔術師らしい男の号令一下、イタチのような獣がヤーシアに殺到する。動いていると、その姿はぼんやりとしか捉えられない。動きが速い事もあって、これらに狙われたら脅威だろう……普通の者であれば。
ヤーシアを護るように先に立ったマモル。目障りとばかりに殺到する獣たちであったが……
「ギャンッ!?」
「キッ!?」
何かに弾かれたように跳び上がって転げ回る。
「――な、何をやった!?」
答えもせずにマモルは姿を消した。【隠身】を、敢えて見せつけるかのように発動したのだ。
「――っ! お前たち! 戻れ!」
マモルの奇襲を警戒したのか、従魔術師の男は獣たちを呼び戻す。その間にもヤーシアは容赦の無い投石を放っており、盗賊たちの接近を阻んでいた。どうにか投石を掻い潜って接近した賊は、これも容赦の無いソーマの剣に斬り裂かれて命を落としていた。
従魔術師の男に焦りの色が浮かんだその時、カサッという小さな足音が聞こえた。
「――っ! あそこだ! あいつを襲えっ!」
マモルの奇襲を見破ったと見て取った男が、歓喜したように獣たちに命じ……そして、喉笛を斬り裂かれて絶命した。
「う~ん……【ウィンドカッター】も、威力は使える程度に上がったけど……まだ狙いは粗いなぁ……」
ブツブツと呟きながらマモルが姿を現すと、使役者を殺された動物たちは戸惑うように動きを止め、やがて一匹を除いて慌てたように逃げ出した。
「よぉマモル」
「ヤーシア、そっちも片付いたようだね」
「あぁ。色々口を割らせるために、生かしてあるやつもいるけどな。それより、あの魔物どもが追っかけてったのは何だ? マモルが下手を打つとは思えなかったから、マモルじゃないってのは判ったんだけどさ」
「あぁ、あれだよ」
事も無げにマモルが指差した先には、キョトンとした様子の野ウサギが一匹。
「何か、スキルがレベルアップしたみたいで、【講師】ってスキルが使えるようになってたんだよね。一時的にスキルを付与する事ができるみたいだったから……」
「……野ウサギに【隠身】をくっ付けて、囮にしたってのか?」
「ご名答」
はぁと溜息を吐いたヤーシア。心強いのは確かだが、最近マモルの逸脱っぷりに拍車が掛かっているような気がする。
「まぁ、マモルだしな。そっちはまぁいいとして……あいつはどうすんだ?」
「――え?」




