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なりゆき乱世2~もう一人の梟雄~  作者: 唖鳴蝉
第二部 戦乱への備え 篇
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第七章 買い出し部隊 3.サイモン商会

「……お求めのものは、確かに当商会でも幾つか扱っております。ただ、幾つかは当商会では扱いかねますし、大量にとなると中々難しい部分もございまして……」



 丁寧な口調でマモルに対応しているのは、ここサイモン商会の会頭サイモンである。馬車を乗り継いで四日後、マモルたちはゴーラムのサイモン商会を訪れていた。


 ユーディス姫とカーシンの紹介状――()(かつ)に表には出せない代物――を携えてやって来た一行を店の奥に(しょう)じ入れると、会頭サイモン自らが応対に当たった。その際にサイモンは、この一行のリーダーがマモルであると一目で見抜いていた。

 この世界、十三歳から職に就けるとは言っても、それはあくまで駆け出し扱い。なのに十を超えたかどうかという歳の子供が、海千山千の商人を相手に、曲がりなりにも商談を進めているのだ。しかしサイモンの方は(ごう)も動じず、マモルを一人前の取引相手として対応していた。



「こちらで扱っていないものとは?」

「塩と医薬品、それに土木や大工の道具類でございますね。医薬品などはギルドとの兼ね合いもございますし、道具類はそもそも大量に動く品ではありませんので」

「それ以外のものは大丈夫ですか?」

「はい。何しろこんなご時世でございますから、軍需品を集めても目立ちはいたしません。ただ……それが軍関係者以外に大量に流れるというのは、手前にとってもそちらにとっても、あまり(おおやけ)にはしたくない事で……」

「一度に大量に購入するのは難しいと……何度かに分けての購入は問題ありませんか?」

「そうして戴けるなら、あとは手前の方で何とかいたします」



 押しも押されもせぬ大商会の会頭を相手に交渉しているのは、(とし)()もゆかぬ子供なのだが、誰一人それを不思議と思っていないようなのが、(はた)から見れば不思議である。当のマモルは諦めているだけだ。



「あと、塩に関してでございますが、どうせならサルドの町をお訊ねになっては?」

「サルド……ですか?」

「はい。岩塩を掘り出している町でございまして、採掘に使う道具などもそれなりに売っておりますから」

「なるほど……他の場所で買うより多く、人目を引かずに買える――と?」

()(よう)でございます」



 しばし思案していたマモルであったが、これについては後で仲間と相談しようと決める。何も今すぐに決める必要は無いのだ。



「ご教示ありがとうございます。後ほど仲間たちとも相談してみますが、恐らくご意見に従う事になると思います」

「差し出がましい真似を致しました」

「いえ、こちらこそ」



 ……十代初頭と五十代の会話とは思えない。



「それと……木材の類は自前で用意なされるとか伺いましたが、板の方は大丈夫なので?」



 丸太などは幾らでも手に入るだろうが、それを板に()くには専用の道具と職人が必要になる。それを懸念してのサイモンの発言であったが、



「ご心配には及びません。そういった技術をお持ちの方もいらっしゃいますので。……ヤト村という村をご存じですか?」



 ヤト村と聞いたサイモンの目がすぅと細められる。良質の炭を生産していたヤト村の事は、商人なら大抵の者が知っている。――そのヤト村が先日突如として消え去った事も。



「……ひょっとして、ヤト村の失踪(しっそう)は……?」

「失踪? ……いえ、単なる疎開なんですけど」



 疎開に至る事情を説明するマモル。この辺りの情報は明かしてもいいだろうと、事前に合意は得ているのだ。



「……そのような事が……いえ、貴重な情報をありがとうございました。それで、ものは相談でございますが……ヤト村の炭を少し融通して戴けませんでしょうか? あそこの炭は良質な事で評判をとっておりまして、それが手に入らなくなったという事で、業界は大層な混乱になっておりますもので」



 そこまでの事情を知らなかったマモルたちは、話を聞かされて驚くしか無かった。良質の炭を求める商人たちが各地で炭を買い漁った結果、炭の相場と馬車の相場、おまけに傭兵の相場までが大きく変動しているのだという。



「……あの……炭相場はまだ解るんですけど……馬車と傭兵というのは……?」

「各地で買い集めた炭を運ぶためでございますよ。その際には護衛も必要だという事で、冒険者だけでは足りなくなったようで……」

「うわぁ……」



 何か自分たちが動くたびに、あちこちに多大な迷惑をかけているような気がして凹むマモル。移転の件は仕方のない流れだったとは思うが……今後はもう少し深くまで検討した方が良いかもしれない。



「……炭については、この場で即答は致しかねます。村の方々の意向も確かめてみませんと。……何より、フダラ山地に移転したわけですから、今までのように原木が手に入るかどうか……」

「フダラ山地でございますからなぁ……」



 何せ魔獣の(ばっ)()するフダラ山地である。木を伐りに出るのも命懸け……という表現は、決して大袈裟ではないのだ。



「それで……代金ですが、この金塊でよろしいでしょうか?」



 そう言ってマモルが取り出したのは、姫から預かった金塊であった。先日フォスカ家の埋蔵金として手に入れた分である。フォスカ家の家紋が刻印されたその金塊を見て、サイモンは再び目を細めたが、何も詮索せずに(うなず)いた。刻印などは後でいくらでも消せる。一言断って【鑑定】をかけていき、確かめ終わると満足げに(うなず)いた。



「問題ございません。これらは当方で鋳溶かしてから使用いたしますので」

「ありがとうございます」



 ちなみにマモルが財布を預かっているのは、自分が財布を持つと落とす確率が非常に高いとソーマが白状したからである。天稟(てんぴん)とまで言われた要領の悪さが、こんなところでも仕事をしているらしい。



「そうそう。これは申し上げておいた方が良いと存じますが、十日ほど前、先程のお話にも出ましたベイル傭兵団と名告(なの)るならず者たちが、この町にやって参りました。一泊して立ち去ったのでございますが、何でもシカガ領のタセラを目指すとか」

「タセラ……いえ、貴重な情報をありがとうございます」

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