第七章 買い出し部隊 1.出発
「何だよ、またおっちゃんたちと一緒か」
「何だとは何だ、小娘。お前たちだけじゃ色々と不安だから、世慣れた俺たちが付き添ってやってるんだろうが」
「そうだぞ。このような大任、子供たちだけに任せておけるわけが無いであろうが」
「一応拙者もいるのだがな」
「あ、いや、ソーマ殿の見識を疑うわけではござらぬが……その……」
「そろそろ移動しませんか?」
食糧問題の解決策として、とりあえず外から購入するという事が決定されたが、問題は誰が買い出しに行くかである。ユーディス姫やカーシンなどが外に出るわけには勿論いかず、さりとて元・浪士たちに任せるというのも些か心許無い。彼らが自ら認めたとおり、戦いそのものには慣れていても、輜重関連の業務については暗い者ばかりであったのだ。
結局、表に出ても――比較的――問題無さそうなマモルたち三人に、事情通の凸凹コンビを付けて送り出す、そういう事に話が纏まったのであった。最初に目指すはゴーラムのサイモン商会。ユーディス姫を一時匿ってくれていた商人である。こちらの事情を知っているので、その分取り引きはスムーズに進む筈だ。
「じゃあ先生、お願いします」
「うむ」
「先生、神殿のマーカーって百年ぐらい前のだったんだろ? 大丈夫なのか?」
「心配は無用だヤーシア、ちゃんと前回打ち直したゆえな。……前回のままなら些か危なかったが」
最後に不安になるような事を漏らしたが、カーシンの転移は無事五人をアブートのカノン神殿に送り届けた。
……ただし、問題無くとは到底言い難く……
転移した一同が最初に目にしたのは、目を見開いて硬直している男――黒猫のカーヴィと呼ばれる、シャムロの密偵の姿であった。
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「……ったく……一体何事かと思ったぜ……」
「あはは……お騒がせしました……」
不測の事態に双方絶句して硬直する羽目になったが、商売柄というのかカーヴィが素早く立ち直る様子を見せたのと、お供の黒猫が不思議そうにニャアと鳴いたのが切っ掛けとなって、マモルたちも我に返った。
素早く何事も無いふりをすると、ややこしそうな交渉はマモル――と、混ざる気満々のヤーシア――に任せ、大人たちはのんびりと見物に勤しむ事にしたようだ。現実逃避という見方もできるが、それでも見物がてらちゃんと周りの様子にも目を配って、誰かやって来たりしないかどうかを見張っているのは、さすが兵役経験者であった。
「けどおっちゃん、何であんなとこにいたんだ? カーシン先生は人目に付かない場所って言ってたぜ?」
マモルに紹介されて改めて見れば、確かにシャムロと一緒にいるのを見た事がある。そんなカーヴィに気を許したのか、遠慮の無い問いを放つヤーシア。
「……目立たない場所ってなぁ、俺たちみたいな者にも都合が好いんだよ」
「ははぁ……」
それはそうだと納得するマモル。今後の転移ではこの点も考慮する必要がある。後でカーシンにも確認しておこう――と、心のメモに書き記す。
「それで、カーヴィさんはずっと神殿にいたんですか?」
前回の邂逅から既に一ヵ月以上経っている。その間ずっと神殿にいて何かをやっていたのかと訝るマモルであったが、
「馬鹿言え。俺もシャムロの旦那もそこまで暇じゃねぇ。」
――と、言下に否定された。
「あの後シガラへ戻ってたんだが、お隣さんたちの動きがおかしいってんでな。どうせ黒幕はジン・ケイツだろうと踏んで、動きを探っていたわけだ。しかし……マモルの方でも気付いていたのか。結構優秀な間諜がいるんだな?」
「どうだかね。偶々気付いただけじゃないのか?」
「いやぁ、それは違うぞヤーシア。こういうなぁ見るべきところに目を配ってなきゃ気付かねぇもんだ。漫然と見ているだけじゃ駄目なんだよ」
「そうかなぁ……」
依然納得がいかない様子のヤーシアをよそに、マモルとカーヴィは互いの情報を照合していく。お互い明かせない情報はあるが、それでも双方多くの事柄を知り得たのは幸いであったと言えよう。
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「カーヴィさん、これをお預けしておきます」
「……何だ? こいつぁ」
「カーシン先生がお作りになった魔動通信機です。シャムロさんにお渡し下さい。今回と前回は運好く会う事ができましたけど、この先は随時連絡が取れる方が良いだろうという事で」
「そりゃまた……解った。お互いその方が都合が好さそうだからな。シャムロの旦那に渡しておく」
「お願いします」




