第六章 フォスカ軍食糧問題 2.食料計画
少し短いです。
――新生フォスカ軍の食糧をどうするか。
これは地味に頭の痛い問題であった。
何しろ現在フォスカ家の残党は、フダラ山地に隠れ住んでいる状態である。居留地が広いとは言っても、さすがに農地を作れるほどではない。外部を開墾しようにも、ここは名だたるフダラ山地。カーシンの館ほどに山奥ではないとは言え、出てくる魔獣も並みではない。農地の開墾とその維持など、考えるだに愚かな事であった。
しかしそうなると、食糧をどこから持って来るかという話になる。旧領民の中にはフォスカ家に心を寄せる者も少なくない。彼らから買い集める事は可能だが、そうすれば必ず代官の、延いてはマナガの察知するところになろう。
「まぁ……しばらくは姫から提供された軍用食があるから問題無い。味はともかく、量だけは充分あるらしいからな」
あぁあれか――と内心で納得するマモル。言うまでもない事だが、かつてマモルたちがヤト村に仇なしていた盗賊たちを始末した時に、戦利品として獲得したマジックバッグの中身である。
ちなみにこの軍用食、ソーマが喝破したとおり、軍需物資の横領品であった。それが判明した経緯は、件の軍用食と武器を新規採用の兵士たち――具体的に言うと落ち武者たち――に提供した事が発端となっていた。彼らの中に旧・イーサ家の浪士が――凸凹コンビを含めて――数名おり、その彼らが一様に怪訝な表情を示したのである。その表情を見て訝しく思ったカガが浪士たちに事情を訊ね、返って来た答えが「イーサ家のものに酷似している」というものであった。
カガ経由でその事を聞いたマモルがやって来て、実は是々然々と事情を説明したところ、彼らの怒り狂う事。そんなやつらはイーサ家の面汚し、火事場泥棒の類であると烈火の如く憤激し、討伐したと聞けば能くやってくれたと大喝采。その物資をマモルが接収したのも、それをユーディス姫に提供したのも、更にはそれが廻り廻って自分たちに戻って来たのも、これ神々の采配に他ならぬと、いたく感心する事頻りであった。
まぁ……確かに奇妙な因縁には違い無い。
「けど、量はともかく味はあの調子ですからね。長期にわたって三食アレばかりというのは、健康にも精神衛生にも良くなさそうですし……どこかで食料を調達する必要はあると思いますよ?」
「うむ……」
ちなみにマモル本人は【光合成】【窒素同化】【融解吸収】で充分栄養を賄えるが、一般人はそうはいかない。マモルも普通に食事は摂るが、栄養摂取と言うよりも、消化管が萎縮しないようにという意味が大きかったりする。そのせいで普段から小食になり、大人たちを心配させているのはここだけの話。
「幸いにして、当座の軍資金は充分以上に確保できましたし、食料の入手と備蓄を考えるべきではないでしょうか?」
「ふむ……確かに三食アレでは志気にも関わってくるな……姫に上申しておくか」
「それが良いと思います。ただ……完全に購入に頼るというのも不安ですし、幾らかは自前で確保する事も考えるべきでしょうか」
「うむ。幸か不幸か寄って来る魔獣を狩れば、肉だけは充分に確保できそうだ。ただ……主食となる麦の類は如何ともな……」
「樹木ならいくらでも生えていそうなんですけどねぇ……」
エネルギー源となる炭水化物を、どこからどういう形で入手するか。
新生フォスカ家が抱える食糧問題は、意外に深刻なのであった。