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なりゆき乱世2~もう一人の梟雄~  作者: 唖鳴蝉
第一部 戦乱の兆し 篇
16/55

幕  間 ジン・ケイツ

「――すると、我がシカガ領の正面が主戦場になると?」



 ケイツ領の領都ゴーラムにあるケイツの居城、その一室で領主ジン・ケイツは、シカミ・アタギ・シカガ・ワナリの各領主が派遣した使者たちと会合を持っていた。使者とは言っても、議題がマナガに対する今後の戦略、主催者が近在一帯の大領主ジン・ケイツとあって、各領主とも宿老クラスの者を派遣している。

 先程ケイツに問いかけたのは、シカガ家から派遣されて来た者であった。自領が戦の正面にくると聞き、厳しい表情を隠さない。が、ケイツは薄くにやりと笑って、その懸念を拭い去る。



「確かにヘグを目指すのであるから、貴領がその正面という事になる……表向きは、な」



 思わせぶりなジン・ケイツの台詞(せりふ)に、居並ぶ一同も表情を変える。



「陽動……であると?」

「狙いは中央突破と思わせておいて、その隙を()くと?」

「ある意味では、な」



 今度は他の使者たちも厳しい表情を隠さない。下手をすると自分のところにお鉢が廻って来る事になる。

 そんな一同の顔を楽しげに見回し、ケイツは言葉を続ける。まったく……考えの浅い者たちだ。



「シカガ領に集めておいた兵は、実際にトーチ領――今となっては旧・トーチ領だが――に侵攻する。ただし、ゆっくりと、な。我らが各々兵を集めての軍勢となれば、トーチ領だけでは応じきれぬ。マナガめが増援を寄越すは確実。本領が手薄になった頃合いを見計らって、今度はイーサとサイカにちょっかいを出す」

「我々が!?」

「三正面作戦をしかけると!?」



 あまりにも大胆な作戦案に驚くが、考えてみれば各領主がそれぞれ自分の正面のマナガ領に侵攻するだけだ。それらを同時に行なう事で、マナガ軍の破綻を誘うというのだ。これならいけるかもしれない……と、使者たちの顔には浮かんでいた。

 ただ……ケイツはそのような危険な賭に打って出る気は無かった。



「まぁ待たれよ。そう(はや)ってもらっては困る。イーサとサイカへの仕掛けも、別に本格的な侵攻というわけではないのだからな」

「「「「何ですと!?」」」」



 あまりな発言に全員が驚愕の声を上げる。一体、この老人は何を考えている?



「三方面で戦端を開く事で、マナガも我らの意図と爾後の展開が読めなくなる筈。どれが陽動でどれが本命かなど関係無い。どこか一つが(ほころ)びれば、そこから一気に突入される事は明らかゆえな」



 ケイツの言葉に黙って(うなず)く一同。確かに、三正面作戦とはそういうものだ。



「マナガとしては三正面に相応の戦力を張り付けねばならん。何せこれらの三正面は、いずれもマナガに併呑された領地。各領を守る代官は、いずれも各地の元領主たち。我らに呼応して寝返らんとも限らぬからな」



 こちらには侵略者マナガからの解放という大義名分があるのだと(うそぶ)くケイツを見て、マナガ陣営の切り崩しが真の目的かと悟る使者たち。



「それもある。が、最大の目的はマナガめの兵力の()(つぶ)しよ。小競り合いを仕掛ける事で、じわじわとマナガの兵力を疲弊させる。今回の戦はその序幕に過ぎぬ。ゆえに、(はや)ってはならぬと申し上げた次第」



 総兵力に勝る連合軍の長所を生かした長期消耗戦。それこそがケイツの真の狙いであった。


 ……そしてこの時までは、ジン・ケイツは(おの)が戦略に(ほころ)びが生じようなどとは思いもしなかった。



 新生フォスカ家の戦略会議から遡って二十日ほど前の事であった。

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