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なりゆき乱世2~もう一人の梟雄~  作者: 唖鳴蝉
第一部 戦乱の兆し 篇
14/55

第四章 異世界爆薬事始め 1.マモルの決断

「してマモル、相談というのは?」



 新生フォスカ家の新たな戦略指針を決めた会議から三日、マモルはカーシンの書斎を訪れていた。



「この前の会議ではそこまでお話ししませんでしたが、マナガ軍――もしくはマナガ軍を駆逐した連合軍――との闘いになった場合の事です」

「ふむ?」

「大軍に対する寡兵の闘い方は、敵を分断してから叩くのが常道です。先日お話しした罠はそのための手段ですが、このような闘い方を可能にするためには、敵をこちらの望む戦場……障害物が多く、大軍の展開に不向きな戦場に(おび)き寄せる事が前提となります」

「ふむ」

「そのような戦場として望ましいのはどこか、また、どうやってそこに敵を(おび)き寄せるかというのも問題ですが……今お話ししたいのは、それらの策が成らなかった場合の事です」

「……大軍と正面切って雌雄を決する……そういう展開に陥った場合だな?」

「そうです。いくら小規模の闘いで敵を削っても、大兵力で圧倒されては分が悪い。それを避けるためには、最低でも一回は敵の大軍を撃破してやる必要があります」



 浮かない顔で話すマモルを見て、カーシンは何となくマモルの言いたい事が判った。



「……爆薬を使おうというのか?」

「はい。少なくとも、その準備に取りかかっておく必要があろうかと」



 なるほど。確かに他の面々の前では話せない。爆薬の事自体、ユーディス姫にすら詳しく明かしてはいないし、こんな話をしたら……すぐにでも使おう、マナガの城を吹っ飛ばそう――などと言い出すのは明らかだ。



「マナガと連合軍、その両者が健在な状況では、どちらかを爆薬で吹き飛ばしても、もう一方が残る事になります。残った方がこちらの敵に廻り、爆薬の秘密を探ろうとするのは明らか。色々と好ましくない展開になります」



 マモルの主張はカーシンにも同意せざるを得ない。



「つまり……爆薬を使うにしても、それは両者が戦って消耗した後……我らにちょっかいをかける余力を失って後、という事だな?」

「その方が良いと思います」

「ふむ……(わし)も同感だ。少なくとも当面は、他の者には明かさぬがよかろう」

一度(ひとたび)爆薬を使ってしまえば、否応無く周囲の()(もく)を集める事になるでしょう。しかし爆薬の秘密が判らない間は、そして他国が真似できない間は、それは抑止力となるだろうと」

「抑止力か……面白い事を言う」

「それで先生、あの爆薬ですが、火種を押し付けたり少々叩いたりしたぐらいでは、爆発しない筈です。実用化のためには、安全に爆発させる方法を探らないといけません」

「……何やら奇妙な話になったな。要は誤爆を防ぎつつ確実に爆発させる――そういう事でよいのかな?」

「はい。僕らの世界では雷管、あるいはそれを高度に発展させた信管というものを用いていました」

「ふむ……マモル、その信管なり雷管なりは作れるか?」

「無理です。そもそも構造を知りません。ただ、原理としては小規模な爆発を起こして、その衝撃で誘爆させるものだった筈です」



 作れますかと問うマモルに、カーシンは否定的な答えを返す。



「そもそも、その爆発というのがどういうものか解らぬ。マモルの話だけでは、どうもこう……上手くイメージが固まらぬのでな」

「イメージですか……」



 言葉だけで爆発がどういうものか説明するのは、あるいは理解させようとするのは難しい。音速だの衝撃波だのといった概念から説明しなくてはならない。地味にマモルの手に余る。


 〝百聞は一見に()かず〟


 マモルは爆発の実演のため、黒色火薬の試作を決断した。



・・・・・・・・



「これがその――爆弾というやつか?」



 指先ほどの小さな筒を見て、カーシンが疑わしそうな声を発する。どこからどう見ても、マモルが言うような危険物には思えない。



「これはあくまで見本用です。僕の世界では爆竹といって……まぁ、子供の玩具(おもちゃ)でしたね。けど、爆発の概念を説明するには充分かと」



 紙の筒に詰まっているのは黒色火薬。マモルが木炭・()(おう)(しょう)(せき)から調製したものである。材料は全てカーシンの実験室に揃っていた。

 カーシンと相談した翌日から試作に着手したのだが、マモルとて黒色火薬の調製などは初めてである。他の者の目を盗み、暇を見つけての作業であった事もあって、試作品が完成したのは開始から四日後の事であった。その翌日、マモルはこうして試作品をカーシンに見せているのだ。この後はカーシンの【転移】で人目に付かぬ場所まで移動し、そこで試してみる予定である。

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