第三章 新生フォスカ家 4.フォスカ家戦略会議(その3)
マモルが放った爆弾のせいで顔を強ばらせたまま硬直したユーディス姫。
その心境を慮ってか、カーシンがしばし休憩の動議を提出し、それは満場一致で採択された。
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「よぉマモル、あまりお姫様を虐めんなよ。固まってたじゃんか」
「別に虐めたわけじゃないよ? けど、前もって決めておかないと、土壇場になって意見が纏まらないようじゃ困るんだよ」
「そりゃそうかもしんないけどさぁ……」
「別に難しく考える事は無いんだよ? 敵討ちを優先するか、領地回復を優先するか。ただし、両方っていうのは無理、それだけの事なんだけどね」
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二時間ほどの休憩を挟んで再開された会議の冒頭、少し落ち着いた様子のユーディス姫から所信表明があった。
「マモルの諫言を受けて決めた。領地の回復を優先する。マナガの首を取るのはその後だ」
「……一日か二日、ゆっくりお考えになってからでもよかったのでは?」
「いや、こういうのは早めに決めておかんと、皆が迷惑する。……大丈夫だ。首を取るまでのしばらくの間、マナガめを手玉に取ってやるだけ。そう考えれば何ほどの事もない」
まだ少し顔色は悪いが、きっぱりと言い切った姫の表情に迷いの色は無い。そう見て取ったマモルは、恭しく姫に一礼した。
「私が未熟なせいで、マモルには余計な気苦労をかけてしまったな。私の事は気にせずに続けてくれ」
いつの間にかカーシンではなく、マモルが司会進行役のように思われている。マモルは視線でカーシンに問いかけるが、カーシンはしらりとした表情で、そのまま続けろと視線を返す。まぁ、次の議題に関する限り、マモルが司会を務める方がやり易いかもしれない。
「解りました。それでは次の議題は、マナガが雇った対魔術戦の部隊についてです」
この話は初耳だったとみえて、ユーディス姫を始めとする数名の表情が動く。が、誰一人として口を開く者はおらず、マモルの説明を待っている。
「カガさん……ニッケン様の部下の中に、その闘いをご覧になった方がおいででした。マナガはフォスキア城を攻める時に毒と騙し討ちという手を使いましたが、魔術戦に対する対策も練っていたようです。乱戦に持ち込んで範囲攻撃を封じ、目潰しや煙幕で狙いを惑わし、飛び道具を使って遠間から仕留める……魔法の攻撃が何度か直撃しても、意に介さずにそのまま襲いかかって来たとか」
「ふむ……察するに、抗魔法の護符のようなものであろう。数を揃えておけば、それなりには使えるのでな」
「先生はこの手の……対魔術兵にお心当たりが?」
「対魔術戦の技術自体は、昔から研究されておったからな。そういった戦術を専門にする集団がおっても不思議は無い」
「具体的な戦術についてはご存知ですか?」
「先程マモルが言ったようなものだな。条件を選んで範囲攻撃を封じる、煙幕などを使って攻撃の狙いを付けさせぬ、姿を隠して遠間から狙い撃ちする、護符や特殊な防具を使って、魔法攻撃に対する抵抗性を高める……大体そんなところであろう」
「あの……よろしゅうございますか?」
怖ず怖ずと手を挙げたのは相談役兼軍師のゼム。元が旅芸人だけに、あちこちで見聞きした知識の広さは半端ではない。
「……手前も耳にした事がございます。ニガラの衆と呼ばれる方々は、特異な武器と体術を使い、魔術師相手にも引けはとらぬとか。マナガが雇ったのも彼らではないかと……」
(ニガラ衆……忍者みたいな連中かな……?)
もしもそうなら対策を考えておいた方が良い。
「その、ニガラ衆と似たような……間諜に長けた一族は、他にはいないんですか?」
忍者の相手は忍者にさせるのが――時代劇の――鉄則だろう。そう考えたマモルの質問は……
「……いるような事を聞いた事はあるが……詳しくは知らないな」
「同じく」
「拙者は聞いた事があるが……何分東国の話ゆえな。この辺りの事は知らぬ」
「申し訳ございませんが、生憎と……」
(あぁ……最悪独力で打ち破るしか無いか……)