表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

おませな9

作者: 笠間屋灯




 海釣り。

 それは私の趣味だ。


 川や湖のほうではない。

 もちろん、そちらでやる釣りもいいものだが、私は釣ったら食べるを信条としている。川魚も一応は食べられるのだが、下処理が面倒だ。


 ゆえに、家の人間が調理に手間のかからないという理由で、海を選んでいる。


 海釣りにも色々ある。


 皆がまず思い浮かべるのは、棒のようなウキが水面を漂う釣りだろう。

 それは文字通り、ウキ釣りと呼ばれるものだ。


 魚というのは、泳いでいる層が種類によって決まっている。

 底のほうにはヒラメやカレイといった魚。中層から上層にはアジといった魚らしい魚が泳いでいる。

 もちろん、サイズによって違ったりもするのだが、今はこれくらいで勘弁してやろう。


 ウキ釣りでは、ウキによって糸の位置を固定し、餌が水面から一定の距離になるように調節する。これによって、底層、中層、上層と、狙う層を決めることができる。ちなみに層のことを「棚」と呼ぶのが釣り人の常だ。


「そうして、のんびりと釣り糸を垂らし、ウキを見つめる。

 魚が食いつく合図であるウキが引っ込むのを、ひたすらに待つのだ」


 と、思っている人は、釣り初心者だ。


 実はウキ釣りというのは、針に餌を付けて待つだけでは、よっぽどではないと釣れないのだ。それこそ、一日粘っても釣れないこともある。


 釣れないことは、ボウズと呼ばれる。

 この言葉は釣り人に恐れられている。


 ゆえに、釣りには必ず、帽子をかぶっていかなければならない。

 これは絶対の掟の一つだ。

 帽子をかぶらなければ雷が落ちるのだ!


 ……話が逸れた。


 ではウキ釣りではどうするのか。


 それは撒き餌だ。


 餌を撒くことによって、魚の群れを呼び寄せるのだ。


 この作業が意外と忙しい。

 釣り糸を垂らす。撒き餌柄杓を振って餌を撒く。ウキが沈めば、魚がかかるように竿を立てる。

 そこで釣れれば良いが、餌だけ取られていることもある。目的の魚と違ったり、サイズが小さければ海へ返さなければならない。


 この流れをとっても、すこぶる面倒なのだ。

 のんびりとウキを見て過ごすことができない、忙しい釣りが、ウキ釣りなのだ。


 ゆえに、私はウキ釣りはしない。


 ならば何をするのかと聞きたいだろう。

 そう、私はチョイ投げという釣りをしている。


 これはお手軽で初心者向けの釣りだ。


 糸に錘を付け、その先に糸、そして針に餌という順で仕掛けを付けてある。それを竿を剣道のように振って遠くに飛ばすのだ。


 ウキがないので、底の魚を狙うことになる。

 だが、手間はそれだけ。お手軽この上ない。


 しかし、一つだけ、大きなハードルがあるのだ。


 それは餌の種類だ。ウキ釣りは、小さなエビに似たオキアミというものを使う。

 だが、こちらは青イソメとよばれるものを使うのだ。


 青イソメ。


 これは見た目が厳しい。そして、恐ろしいほどに不気味。


 ミミズのようでもあり、ソフトなムカデというか、そんな造形を想像してもらえばお分かりいただけるだろう。触れと言われたら、人類の八割が顔を引きつらせる代物だ。魚はこれが大好物なので餌に選ばれるのだ。


 これを針に付けるのだが、まず、ここで初心者は挫折する。


 そう、私はそれを乗り越えたのだ!


 そしてこれから、私はこの、チョイ投げという釣りをするべく、いつもの釣り座へと向かっているのだ。


「今日もかい?」


 漁師の英爺(えーじい)が声をかけてくる。私は軽く頷いて返事とした。ちなみに英爺の本当の名前は英一郎だ。


「一人か。気を付けえなぁ。海を舐めたらあかんぞ」


 今日は一人だ。いつも行動を共にする、同好の士である田辺氏は今日は用事があるのだ。


 英爺は海の男だ。ニコニコと笑顔を向けてくるが、泣く子も黙るベテラン漁師だ。


 助言をありがたく胸に刻むと、もう一度、しっかりと頷いて見せた。


 英爺も数度、ニコニコしながら頷き返してくれた。歴戦の漁師のお墨付きをもらえた。そのことで、私は、一層気合を入れて釣りに励める。


 私は釣り場に付くと、てきぱきと用意をした。


 竿にリールを付け、糸を出し、穴に通した。先に用意した仕掛けを繋げ、青イソメを針に付ける。

 ここまで流れるように作業をした。完璧だ。

 道具はコンパクトにまとめてあるし、足場も再度確認した。ライフジャケットも完璧だが、用心するに越したことは無い。


 だが、海は舐めたらいけない。釣りを始める前に、海に一礼をする。


 準備はできた。


 周りに人がいないことを確認し、竿を振りかぶる。


 そして振る。


 仕掛けは勢いよく沖へと飛んで行った。



 そして今、私は、竿を立てて、アタリを待っている。アタリというのは魚が針にかかったときの振動を言う。


 ゆっくりと糸を巻きながら、全身で集中する。


 英爺が好きなザトーイチの主人公のように、目をつぶりながら傾げてみたりする。カツシンのザトーイチは漢の中の漢だと英爺は良く言う。私もザトーイチにあやかりたい。





 そうして数時間、私は釣りをした。


 すばらしい、自然との戯れだった。


 道具もてきぱきとまとめ、ゴミも残していないことを確認すると、私は家路を急いだ。クーラーボックスの中には食べられる魚がいくつか入っているからだ。


「おう、釣れたんか?」


 再び英爺が声をかけて来た。私は頷いた。


「ほうかほうか。気ぃ付けて帰りぃよ」


 私は安心させるように頷いた。

 

 私は家路へと急いだ。

 そして、スキップ交じりで門をくぐった。







「ただいま」

「おかえりー。どうだった?」

「たくさん釣れたよ」

「よかったわねぇ。英爺と会った?」

「うん」

「これどうする?」

「塩焼きがいい」

「はいはい。あ、宿題は?」

「今日はないよ」

「シャワー先に浴びちゃいなさい」

「……」

「浴びちゃいなさい」

「わかったよ、おかあさん」


主人公は小学三年生

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おませさんだ!Σ(゜Д゜) タイトル忘れて大人だと思ってました。 釣りのお話も面白いっ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ