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天冥聖戦 本編 伝説への軌跡  作者: くらまゆうき
シーズン5 アーム戦役
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第5−9話 だから叶えたい夢

 信頼を得るという行為は人間関係において、もっとも難しい事の一つだろう。



他人同士が互いを認め合い、心を許すという現象は美しい事ではあるが儚くも簡単に崩壊する事でもある。



だがそれはその程度の関係性だったのだと認める他ない。



 それほどまでに信頼を得るという事は難しいのだ。



ましてや敵だった相手とは困難を極めるだろう。



 レミテリシアと対峙している鵜乱は落ち着いた表情だが、瞳だけは殺気を放っている。



新たに家族として迎え入れてもらいたいというレミテリシアの覚悟に対して戦士の礼儀を持って戦うのだ。




「ありがとう。 全力で行かせてもらう」

「もちろんですの。 戦士の戦いに手加減は許されませんわ」




 美しき戦士長と儚き元将軍は互いに武器を構えると、瞬きほどの速さで斬りかかった。



鵜乱が羽を広げて宙に舞うと、重力を味方にして重たい剣を浴びせた。



それを見事に双剣でいなして羽を掴んで地面へと叩きつけた。



 倒れた鵜乱は足払いを寝転んだ状態から繰り出してレミテリシアを転倒させると、手を使わずに体を反らせた反動で立ち上がった。



すぐさま盾で彫りの深い、綺麗な顔を強打して剣を振りかざしたが歴戦のレミテリシアはこれを容易く交わして双剣を叩き込んだ。



呼吸する事すら忘れてしまう彼女らの戦闘を目の前で見ている甲斐と夜叉子の白くて綺麗な手には汗が滲み出ていた。



 双剣が小麦色の頬をかすめると、赤い血が緩やかに滴った。



頬を斬られた程度で臆するわけもない戦士長は、その場で跳ね上がると両足でレミテリシアのふっくらとした胸元に蹴りを浴びせ、羽をばさばさと音を立てながら斬り込んだ。



のけぞって体勢を崩したレミテリシアだったが、背後にあった壁を蹴って勢いを取り戻すと空中で双剣を再び叩き込んだのだ。



 互いの刃物が同時に彼女らの鎖骨にのめり込む鈍い音を鳴らした。



首元から血を流す両者は、絶句してしまうほどの苛烈な戦闘を行っているというのに表情はなんとも清々しかった。



この時間が永遠に続けばいいのになと目で訴えかける鵜乱とレミテリシアは顔を見合わせて笑みを浮かべると、再び斬りかかった。



 双剣が振り下ろされ、盾がこれを受け止める激しい衝撃音の中でレミテリシアの強烈な頭突きが小麦色の美しい顔を強打すると、長身の鵜乱はよろよろと尻もちをついた。



すかさずレミテリシアが斬りかかると、鵜乱も飛びかかった。



羽の音を激しく鳴らしている鵜乱は取り押さえる様に掴みかかったが、これを見事にひっくり返した女帝の妹は双剣の刃先を顔元へ向けた。



 勝負はレミテリシアの勝利というわけだ。



決着がつくと、両者の表情は満面の笑みで溢れているではないか。



双剣を背中に収めると手を差し出して、気高き鵜乱を立ち上がらせた。



「最高の戦いだった。 本当に感謝しているぞ、鵜乱」

「あなたという人間を理解した気がしますの。 激しくも冷静な判断のできる頼れる方ですわ」




 互いに極限まで戦った事から生まれた友情は、レミテリシアにとって大きな一歩になるのだ。



姉を倒した勢力下で暮らす屈辱と怒りを必死に押し殺して、姉の遺言に従った。



だがそんな彼女を受け入れてくれた鵜乱を始めとする家族達に深く感謝をしていた。



 傷の手当てを始めた二人へ拍手をしながら近づいてきたのは虎白と竹子だ。




「城から見てたぞ。 殺し合いを始めたのかと思ったが、甲斐達が止めてないから見守っていたんだ」

「凄まじい戦いだったねえ・・・それで鵜乱? 彼女は私達の家族になってくれるかな?」




 問いに力強くうなずいた鵜乱を見て微笑んでいる。



すると、着物の懐から書類を取り出すとレミテリシアに手渡した。



書類を見たレミテリシアは驚きのあまり、口と目を開けて黙り込んだ。




「甲斐が軍団をいらないと言うなら、私は是非新たな家族を信頼して任せたいのだけれど」




 竹子が手渡した書類には「レミテリシア軍団」と書かれていた。



それはこの瞬間に正式な白陸の将軍になった事を意味するのだ。



多くの命を預かる軍団長に任命されたという事は虎白や竹子から絶大な信頼を得たというわけだ。



 驚きのあまり返答する事を忘れているレミテリシアの肩に手を置いた虎白は、真っ白な顔を近づけて笑っていた。



同じ様に優しい笑みを浮かべている竹子も、何度もうなずいている。




「ようこそ、俺らの家族へ」

「ありがとう・・・本当にいいんだな?」

「姉さんのためにも幸せになろうな。 戦争のねえ天上界を作って俺もアルテミシアとの約束を果たす」




 あの豪雨の甲板での事は虎白にとっては夢の様に刹那の出来事であった。



しかし永遠に忘れる事のできない瞬間でもあったのだ。



「妹を幸せに」という気高き女帝からの言葉が脳裏から消える事はなかった。



 彼女が話した言葉と託した想いは、まさに戦争がなくなって誰も悲しまない世界という虎白の夢の実現に直結するのだ。



誰も悲しまなくなった世界でレミテリシアは当時を思い出して涙を流す事もあるだろう。



 だがその涙を拭ってくれる存在がきっと彼女を囲んでいるのだ。



それこそが戦争のない天上界の実現というわけだ。



虎白の夢は既に止まる事なく走り出しているのだった。

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