第4−9話 今となっては味方で国防軍
天上門付近の領土で起きた大虐殺は虎白の耳にも直ぐに入った。
突然の急報に食べていた白米の箸が止まると竹子達と顔を見合わせている。
和やかな食卓が凍りつき一同の箸が止まる中で虎白は慌てて立ち上がると刀を着物の帯に差した。
「こ、虎白様!? 既に国主と兵達は討ち死に致しました・・・」
「援軍は間に合わなかったのか・・・」
天上議会で話していた内容は後方の領地の軍隊が援軍に行くという話しであった。
それに従い虎白も直ぐに援軍として出陣しようとしたが、既に国主と兵は壊滅して冥府軍は次の国へと攻撃を始めていると伝令は話した。
血を吐くかの様な剣幕で話している伝令に竹子が水を飲ませると一同は深刻な表情のまま、食事をかき込んで足早に部屋を出ていった。
鎧兜を着始める虎白は傍らで同じ様に準備を行う竹子と話している。
「どうなってんだ・・・」
「白陸は出せても二千五百名かな・・・」
「全員連れて行く。 国の守りは友奈とメルキータの宮衛党に任せるしかねえ。」
そう話すと刀を鎧の帯に差して部屋を蹴破る勢いで出ていった。
白陸軍二千五百名を召集した虎白が馬にまたがって出陣しようとした時だ。
城の城門の前に立っているのはアレクサンドロス大王のマケドニア兵ではないか。
何事かと眉間にしわを寄せた虎白が近づいていくと大王からの言付けを話し始めた。
「白陸は小国だから我が大王の軍に加われと。」
「わかった直ぐに向かうと伝えてくれ。」
南側領土の最高権力者であるアレクサンドロス大王は未だに冥府軍からの襲撃を受けていない小国の戦力を呼び出して配下に加えようとしている。
それに従った虎白は竹子達と共にマケドニア王国へ向かった。
白陸の守りを担当する友奈とメルキータの不安げな表情が彼らを見送った。
突然の冥府軍の襲来によって次々に小さな国が潰されていく中で虎白の白陸は比較的天上門から遠方にあった事から守りを固める時間が与えられた。
友奈とメルキータは死に物狂いとなって防御態勢を整えさせた。
元ツンドラ帝国の民達を率いて冥府軍を待ち構える二人は城壁へと登ると、硝煙渦巻く天上界の変わり果てた姿を見て絶句している。
「この世の終わりだ・・・まるでテッド戦役だ・・・」
「私達の元へも来るだろうね・・・怖いなあ・・・」
友奈がそうつぶやくとメルキータもうなずいている。
慌ただしく守りを固める白陸帝国の命運はメルキータが共に連れてきたツンドラの民に託されたも同然だ。
アレクサンドロス大王に召集されて戦力を連れて行った虎白の行動はある意味で仕方のない事であった。
命令に従った虎白も状況が飲み込めないまま、出陣してしまった。
城壁から見える惨劇の全貌をまだ見ていない皇帝と仲間達の助力は期待できない以上は宮衛党の戦力だけで守る他なかった。
怯えた様子で遠くで行われている惨劇を見ている友奈の肩に手を置くとメルキータは力強い眼差しでうなずいた。
「かつてツンドラは防御力があると諸国から恐れられて攻め込まれずにいた。 本来城を攻め込むには十倍の戦力が必要とされる。 ここにいる元ツンドラ兵の数を考えれば守れるさ。」
城壁から見下ろすと、虎白の北側領土の遠征時に投降した元ツンドラ兵達が武器を手にしている。
狂気のノバ皇帝亡き今では彼らが忠誠を誓うべき相手はメルキータのみであった。
そしてノバが飼い慣らしていたノバガードの生き残りも存在して今では「メルガード」と呼ばれている。
十分なほどに戦力が残っていると力強くうなずいたメルキータがふと城壁の向こうにある景色に目をやると砂煙を上げて接近する黒い旗が見えた。
「友奈!! 来たよ!!」
「ど、どうしよ・・・戦うしかないよね。 刀とか触った事ないけど。」
普通そうで普通ではない友奈だが、戦闘に参加した経験はない。
乱戦の中を走り抜けた経験はあっても白くて綺麗な手で誰かを殺した事はないというわけだ。
するとメルキータが友奈に軍配を手渡した。
「既に兵士達には防御設備の準備をさせた。 敵が接近した場所に友奈が城壁から攻撃の合図を出してほしい。」
「メルキータはどうするの!?」
「私はニキータと共に前線で戦う。」
不幸中の幸いというものか、建国間もない白陸は城の僅かな城下町があるがその全てを城壁で囲んでいた。
そして入り口の門は一つだけという砦の様な作りとなっている。
メルキータ指揮下の宮衛党こと元ツンドラ兵達の戦力は三十万も存在しているのだ。
城壁の全てに兵士を配備しても余裕のある大戦力を武器にメルキータは城門で剣を抜いた。
「我らの居場所はここだ!! 負ければ皆の家族は虐殺される!! 私と共に命を捨てて戦うのだ我が親愛なる民よ!! 常に私は皆と共にある!!」
漆黒の旗を風に吹かせ、髑髏の仮面が不気味に城門を見つめている。
しかし城門の奥や城壁から聞こえてくる甲高い遠吠えは攻め寄せた冥府軍の規模を上回るほど響いているのだった。




